2011年5月19日木曜日

日本は輸出立国を続ける必要があるのか?

日本は貿易立国であるとよく耳にする。貿易立国とは言っても、実際には輸出立国。輸入よりも輸出を多くすることで、国として生きていこうとする発想である。

日本は海外から原油や農産品などを輸入しなければならない。そのためにはカネがいる。だからモノ作りを大事にする。いいモノを作って輸出をする。輸出のできる企業を育てる。だから製造業大企業の利益を最優先に考えて経済政策の基本方針を決めていく。ずっとこんな考え方でやってきたのだが、これからもそれを続けていかなければならないのか?

最新の週刊エコノミスト(5月17日号)にメリルリンチ日本証券の吉川雅幸氏がエコノミストリポートを寄稿していて「日本の経常赤字転落の可能性」が議論されている。いうまでもないが、経常収支はその国全体で使いきれなかった余剰資金が1年間でどの位生まれるかを表す数字だ。年収1千万円の人が800万円使って200万円貯蓄しようとする。持家などを買わなければ200万円だけ資産運用に回せるから経常収支は200万円。持家などに設備投資をして、それに1千万円かかるなら、差し引き800万円の資金不足。つまり経常収支は800万円の赤字になる。経常収支大国日本の呼び名は、つまりカネをため込む日本、と同義なのだ。

その日本が経常収支赤字転落!だとすれば日本の資金繰りがきつくなり、外国から金を借りなければならない。そんなことがありうるのか?それが紹介するレポートだ。非常に目線のしっかりした指摘をしているのでポイントを順番に紹介しておきたくなった。

第一のポイント。日本の経常収支は昨年(2010年)も黒字で、10年前と比べると、むしろ対GDP比で拡大しつつある。(中国、韓国に押しまくられている中、これは意外でしょう!)

次に第二のポイント。黒字の中身は激変した。モノの輸出入の差額である貿易収支は黒字がどんどん減っている。反対に、海外に投資した配当や金利収入がどんどん増えている。2005年前後を境にして今では資産運用黒字が貿易黒字を上回っているのだ。これは日本が富裕国になった現れだ。

歴史的には、カネを借りて産業を育成する<未成熟の債務国>から<成熟した債務国>、<債務返済国>、その後、貿易でも資産運用収益でも黒字が生まれる<未成熟の債権国>、さらに貿易赤字を資産収益黒字で補う<成熟した債権国>、最後は貿易赤字を資産収益で補えず資産を切り売りする、あるいは外国からカネを借りる<債権取り崩し国>。まあ、こんな段階を経て国は発展していくといわれている。

この中で日本は<未成熟の債権国>に該当するわけだ。

第三のポイントが経常収支の予想だ。大震災は貿易バランスを悪化させる。いまの日本の貿易構造は石油など鉱物性燃料の赤字を自動車・電子部品の輸出で100%以上カバーしている。ところが震災でサプライチェーンが寸断されて、自動車・電子部品の生産が落ちた分、貿易収支はゼロ付近、もしくは貿易赤字すら可能性の中に入ってきた。

しかし資産運用収益の方は安定していて、貿易収支が赤字になったとしても経常収支全体が赤字になる可能性は低いと吉川氏は見ている。

ここから第五のポイントが関連してくる。いま問題になっているのは財政赤字をどう見るかだ。復興のために復興債を出せるかどうかが議論されている。ここで吉川氏は参考になる指摘をしている。財政赤字が拡大したとき、経常収支黒字国では金利がわずかしか上昇しない(つまり国内のマネーで順調に国債が売れるということ)、しかし経常収支赤字国では金利が急上昇する。(詳しくは、2010年度の経済財政白書をご覧あれ)

つまりこうなる。大震災で日本の製造業はダメージを受けたが、対外資産から安定して配当、金利収入が入ってくるので経常収支が赤字になる可能性は低い。国全体で資金繰りに困ることはまずないだろう。こんな判断になる。とすれば、需要抑制の副作用がある増税を直ちに実施するよりも、まずは復興債を市場で消化することで復興事業を進めていくほうが、効果的である。吉川レポートの見方に基づけばこんな結論になる。

基本的にはその通りだが、冷静にすぎる分析かもしれない。レポートでも言及している点だが、高齢化が進むと家計の貯蓄率が下がる。これまで日本の資金繰りは家計の貯蓄が支えてきた。いま日本の資金繰りを支えているのは、むしろ企業だ。成長分野を探しあぐねて社内に余剰資金をためておこうとする。カネを借りないものだから銀行も預かったカネの運用に困る。だから海外に運用する余裕もできるのだ。これが日本国内のドメスティック・インバランスだ。

しかし、企業は本来は利益の出る新規事業を求めているはずだ。設備過剰体質が解消し、過当競争がなくなれば、いつでもビジネスチャンスに打って出ようとするはずだ。日本の経常収支黒字は、中国のような過剰貯蓄ではなく、過少投資であることを見逃してはならない。設備が震災で損壊した分、その全体を復旧する動機はないはずだが、古い産業が集積していた地域に新しい産業を展開するスペースができている。今は絶好の投資機会であるのも事実だ。

とはいえ、日本の民間企業が設備投資をしていくとして、それはもう中国や韓国と競争するための設備投資ではないはずだ。もうそれは無理である。そうではなく、少子化が進み、高齢化する日本社会で豊かな生活をおくるための必需品が市場に提供されてくれば、それが最も望ましいはずだ。

内需拡大を最優先すれば、輸出大国の座から落ちることにはなる。しかし国民は充実した生活を楽しむ機会を与えられる。もしそうなれば、日本は<成熟した債権国>の仲間入りを果たすだろう。

TPP参加論は、輸出を増やすことを目的にして、唐突に提案された。しかし、それはグローバル・インバランス解消の中で、正反対の発想である。中野剛志氏の言う通りだ。

経団連などの財界本流は、モノ作りの大切さを旗印に円高防止、法人税引き下げ、TPP参加推進をこれからも強調するだろうが、それは尻尾が胴体を振る議論だ。そうではなく、国民の暮らしを出来るだけ豊かにするためには、どのような産業構造を持つのが正しいのか?そう考えるべきだ。産業は生きる手段であって、目的ではない。まして輸出型製造業が日本の国益であるというのは誤りだ。

輸出市場で国際競争力を維持するために、国内の賃金を引き下げ、また引き下げられるように労働市場の自由化を進め、更には解雇規制という規制を緩和しようという思考は、内需拡大・国民生活最優先の観点から徹底的に検証しなければならないと思われるのだがどうだろう?

ま、そこまでは書いていないのだが、今週のエコノミストレポートを読みながら、思いは自然にこんな風にめぐったわけである。

2 件のコメント:

kazuakat さんのコメント...

ブログを拝見しました。
そもそも日本は本当に輸出立国なのでしょうか?

●輸出立国の嘘(日本のGDP統計から分かること)
http://kazukat.blogspot.jp/2013/04/blog-post_7685.html

●輸出で国内景気は良くならない
http://kazukat.blogspot.jp/2013/04/blog-post.html

Shigeru Nishiyama さんのコメント...

内需で成長できるなら輸出立国の必要はありませんが、今世紀に入ってから―構造調整が進んでいなかったので―海外需要に依存する度合いが高まりました。これもそろそろ限界で、生産拠点が海外に移れば、「輸出立国」とは言わなくなるでしょう。