2012年5月22日火曜日

西ヨーロッパとギリシアの遠い関係について

欧州は大きなテーマだが、かといってギリシアばかりを議論していると、流石に飽きるというか、辟易としてくる。ところが最近、小生がGoogle Readerに登録しているお気に入りのフィードでは、どこもギリシアに関する議論で花盛りだ。こういう「議論の洪水」のような状況は、たとえば特定の経済問題が注目を浴びた時にアメリカから発せられるディスカッション・ペーパーもそうである。石油価格高騰についても、財政政策の乗数効果についても、その時々に解くべき問題が提出されると数えきれないほどの研究レポート、計算結果、シミュレーションがネット経由、ブログ、研究所のパブリケーションとなって押し寄せてくる。

この辺のダイナミズムは、日本と海外が決定的に違っている点だと感じるのは、なにも小生だけではないと思う。もし日本国がアメリカ合衆国であったなら、今頃は星の数ほどの財政健全化シミュレーション、消費増税の経済効果、原発停止と再エネ移行のコストとベネフィット等々の研究結果がネットで公開され、やりとりされ、政治家もその要約をレクチャーされているに違いない。ここはアメリカではないというだけの理由で、何たる違いであろう。ただアメリカ人も、ギリシア問題は大統領選ほど関心をそそられないのか、主に欧州から色々な意見が提出されているようだ。とはいえ、正面からギリシアを論じたものは無数にあって、特定のものを挙げにくい。それより最近のProject Syndicateに投稿されたDominique Moisi氏の寄稿が面白い。"The Reason for Europe"である。

氏はヨーロッパを評価する10の観点を挙げている。心覚えまでに列挙しておきたい。
  1. The first reason for hope is that statesmanship is returning to Europe, even if in homeopathic doses. 
  2. A second reason to believe in Europe is that with statesmanship comes progress in governance. 
  3. Third, European public opinion has, at last, fully comprehended the gravity of the crisis. 
  4. The fourth reason for hope is linked to Europe’s creativity. Europe is not condemned to be a museum of its own past. 
  5. The fifth source of optimism is slightly paradoxical. Nationalist excesses have tended to lead Europe to catastrophic wars. But the return of nationalist sentiment within Europe today creates a sense of emulation and competition 
  6. The sixth reason is linked to the very nature of Europe’s political system. Europeans may be confused, inefficient, and slow to take decisions, but democracy still constitutes a wall of stability against economic and other uncertainties.
  7. The seventh reason to believe in Europe is linked to the universalism of its message and languages. 
  8. Beyond universalism comes the eighth factor supporting the EU’s survival: multiculturalism. 
  9. The ninth reason for hope stems from the EU’s new and upcoming members. Poland, a country that belongs to “New Europe,” is repaying the EU with a legitimacy that it had gained from Europe during its post-communist transition. And the entrance of Croatia, followed by Montenegro and a few other Balkan countries, could compensate for the departure of Greece (should it come to that for the Greeks). 
  10. Finally, and most important, Europe and the world have no better alternative. The Greek crisis may be forcing Europe to move towards greater integration, with or without Greece.
ギリシアを放棄しても西ヨーロッパは緊密な統合への道を辿るであろうし、それが望ましい、そういう立場のようである。その根底にあるのは、Universalismつまり普遍主義であるが、小生は国家の上に超国家をおく<帝国主義>を連想する。いかにユニバーサルとは言っても、ヨーロッパが一地域であることには間違いがなく、統合を深めれば深めるほどにヨーロッパはスーパーパワーとして行動するはずであり、多文化主義とは言ってはいても求めようとするのはヨーロッパの利益であろう。

かつて西欧は、ギリシア世界(=ビザンティン帝国)を放棄し、ローマ教皇とフランク帝国との歴史的絆をよりどころとする純化路線を選んだ。EU・EUROに参加して、いまギリシアは再び(まずはEURO圏であろうが)、そこから脱退しようかという瀬戸際にある。こんな風になるなら、そもそもギリシアがトルコを相手に独立戦争を戦った時から、ロシアの南下政策と連携しておけばよかったのである。イギリス、フランスがロシアと対立した時に、ギリシアはビザンティン以来の歴史的背景を重んじてロシアと協調していれば、西欧の大国に翻弄されることもなく ― 無論、共産主義の洗礼はくぐったことであろうが ― いまごろはロシア、セルビア、ブルガリアなどの国家群と外交を深め、強固な文化大国として活動できていたのではないかと、個人的には夢想している。もちろん、それは西ヨーロッパにとっては悪夢の展開であったろうが・・・。

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