小学校6年生の頃だったか、亡くなった母が当時暮らしていた町の書店でケストナー作『飛ぶ教室』を買ってきてくれた。ドイツの全寮制学校を舞台にして生徒とその学校のOBである寮監、寮監の元クラスメートで今は診療から離れ学校近くで隠棲している元医師が繰り広げる小説である。
その後、数えきれない本を読んだが、この『飛ぶ教室』は小生にとって手放すことの出来ない作品になった。映画化もされているようだが、小生は観ていない。映画は観てないが、この小説は日本語で何度読み返したか分からず、独語でも最低3回は読み直している。今でも枕元に置いて、気に入った箇所を拾い読みしては、寝る前の睡眠薬代わりにすること、しばしばである。
Source: http://www.playerweb.de/kino/das_fliegende_klassenzimmer
小生が中でも好きな下りは、クリスマス休暇で生徒達が実家に帰って誰もいなくなり、降り積もった雪でしんと静まりかえった校内を見回っていた寮監先生が、ふと足跡をみつけ「誰かいるのか」といぶかしく思って、足跡をたどって歩いていくと、主人公の一人であるマルティン少年が誰もいない所で独り空を見ている。そこから以降の数ページが実にいい。
Das Schulhaus war wie ausgestorben. Das Dutzend Schüler, das erst am Nachmittag fuhr, spürte man überhaupt nicht.
Da zog der Justus seinen Wintermantel an und ging in den stillen weißen Park hinunter. Die Gartenwege waren zugeschneit. Unberührt lagen sie da. Verschwunden waren Lärm und Gelächter. Johann Bökh blieb stehen und lauschte dem raschelnden Schnee, den der Wind von den Zweigen pustete. Na also, die große Ruhe und die große Einsamkeit konten beginnen.
Als er in einen Seitenweg einbog, bemerkte er Fußstapfen. Es waren die Abdrücke von einem Paar Knabenschuhen. Wer lief denn jetzt allein im Park umher?
「やあ、こんなところで何をしているんだい?」実家に帰ろうとしない少年をみながら、教師がハッとして「ひょっとしてお金に困っているの?」と囁くようにきくのは、この少し後である。『カネがないのは社会のせい』などとは言わない。人間が堕落する前の健康な時代の話しである。寮監先生は旧友を自分の元にかえしてくれたお礼だと言って、実家に帰る旅費を用立ててあげる。ささやかな、つつましいおカネだが、少年にとってはカネとは何か、人の心とは何かを知る生涯の記憶になった。
「 独りになりたいと思って・・・」
「それは邪魔して悪かったね。でも、ちょうどいいから教えてくれないか、昨日の朝はなぜあれほど悪い出来だったの?」
「別のことを考えていて・・・」
「もう一つ、いいかな?昨日の午後の劇で君の演技はひどく悪かったね、それは何故だい?それから今日の食事では何も食べてないよね?」
「また別のことを考えなくちゃいけないんです、先生」
× × ×
公務員たるもの、特定の生徒に金銭的な支援を与えるのは規則では禁止されているはずだ。しかし規則を持ち出していちゃあ、話しにならないし、人間的交流もなく、人格の形成が窮極的目標である教育も不可能であろう。
規則と学習指導要領によって教育システムを運営できると本心から信じているなら、その人は教育=知識の伝達、本心ではそう考えているに違いない。であれば、これだけ技術進歩の速い現在、介護ロボットばかりではなく、教育ロボットを開発すればいい話しであろう。無人工場ならぬ「校長+教頭(システムエンジニア)+教育ロボット」から構成される学校を設立すれば、極めて効率的に学校が経営できるはずだ。
その思想が本物であるか、下らぬイカサマであるかを識別するには、その究極まで徹底して思想なり理念を追い求めたとき、どんな状態になるかを推論してみればよい。エクストリーム(extreme)なシミュレーションに耐えられない思想・理念は、まず確実に、本質的に間違っている考え方である。間違っている考え方がいつまでたってもなくならない、迷信や信心がいつまでたってもなくならない、こちらのほうが思うに本当の問題であります、な。
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