2012年12月11日火曜日

円安にすれば競争力が復活するというのはアヘンと同じである

家電製品が世界市場で売れるかどうかは、円の為替レートで決まる。そう思っている人が多いようだ。しかし、それは理論的には誤りだ。これは少し前の投稿でメモしている。

こんな解説記事がある。
この大きな要因は、電機メーカーの競争力低下に起因しているところが大きいと私は分析する。主力商品のコモディティ化によって、大幅赤字に転落した企業が相次ぐ中、次の主力商品をどのように創り出していくのか、具体的なプランが動き出しているところは、極めて少数のように見える。この私の見立てが間違っていなければ、電機産業の競争力回復は短期的には見込めず、輸出増大への展望は開けない。
(中略)
こうした日本企業の競争力低下を放置したまま、円安の推進を政策的に展開しても、マーケットが予想しているような企業業績の好転と貿易収支の黒字化に結びつかない公算が大きいのではないか。
そのことにマーケットが気づいた時、円安と株高の連動というモメンタムは衰弱し、円安と株安が連動しやすい市場地合いに移行する可能性が高いと予想する。だとすれば、日本国の運営に責任を持つ政治家は、日本企業の国際競争力の低下にもっと危機感を持ち、その反転を促すには何をするべきか、政策メニューを具体的に掲げるべきだ。(出所:ロイター、2012年12月7日 14:12配信)
為替レートを円高から円安方向に修正し、たとえば1ドル=120円程度の超安レートが定着したとしても、これまで日本株式会社の花形部門であった電気機器部門が、再び輸出競争力を回復できるかどうかは不明である ― 1年程度はうるおうであろうが。

直接的には、円高によって電機メーカーの価格競争力が失われた。高くても売れるものをと考えたが、多機能化を高付加価値化と勘違いした。差別化したつもりが単なる高価格商品になってしまった。そんなマーケティング戦略の失敗もあった。表面的にはそう見える。しかし、日本の電機産業以外の産業との生産性上昇率格差がメイド・イン・ジャパン内部の比較優位を変えつつある。ここがもっと重要だ。電機産業のイノベーションがいまも継続しているなら、円高・円安は半年~1年以内の価格競争には影響するとしても、世界市場における競争優位性を変えることはない ― それが比較優位理論のコアであって、日本の貿易構造は円レートではなく、産業間の比較優位によって決まることが、データの積み重ねを通して、確認されている。

ということは、電機産業が競争優位を失ったからには、競争優位を獲得しつつある産業部門が日本にあるという理屈だ。それは何か?その分野に経済資源がスムーズにシフトしていくように環境を整える ― 政府には経済の現場のことは分からないから、規制や独占的支配力を排除して市場メカニズムを活用する。経営をフレキシブルにする。企業統治をしっかりとする。金融面で支援する。それがいま必要なことだ。
危なくなったから、そこをテコ入れする
こんな発想で問題を解決しようとしていたら、日本株式会社がまるごと共倒れ、全員が討ち死にするのは確実だ。

戦略的代替関係があるなら、見込みのない前線は速やかに撤退し、ライバルの経営資源をその分野へ誘導し、自らは見通しのある新規分野に資源を速やかにシフトするしか道はない。勝負を回避していては先細りなのであれば、先行開発するもよし、開発力がなければ模倣するもよし、資源を十分に投入し、敢えて消耗戦を乗り切って勝つしか道はない。それだけの現ナマを日本企業は使わないまま持っているではないか。

円安にもっていけば、いま困っている電機産業が復活し、日本経済は再び輝きをとりもどせる。電機メーカーに勤務している社員が、これを言うなら事情はお察しするが、もし万が一、政府関係者が本気でこんな風に考えているなら、たとえ<政権交代>があったとしても、文字通りお先真っ暗である。

個別の企業を救済するのではない。個別の産業をテコ入れするのでもダメだ。死に金を生きた金にする。日本株式会社のリストラをして、<できるだけ>多くの人の生活を守るには、ある意味で<冷酷非情>なロジックに従うことも必要だ。それでGDPが増えるなら、国全体で色々なことが後でできるのだから。

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