2012年12月20日木曜日

あるケース ― 国会議員が語るべき国益と私益

少し古くなるがロイターが以下のような報道をした。

米国のLNG輸出、国内価格押し上げる=民主党上院議員
民主党のデビー・スタベノウ上院議員(ミシガン州)は6日、液化天然ガス(LNG)の輸出推進について「意味がない」と批判。天然ガスの輸出容認は国内価格の上昇につながり、米製造業に痛手を与えて雇用喪失を招くとして、反対する意向を表明した。
同問題をめぐっては、上院エネルギー委員長を務める民主党のロン・ワイデン議員らも、輸出容認がもたらすメリットに疑念を提起し、輸出推進に反対する考えを示している。
オバマ政権は現在、国内企業からこの1年間に出された12を超す天然ガス輸出プロジェクトの認可申請に関する決定を保留して、LNG輸出が価格や国内経済に与える影響の検証を実施している。
また、米エネルギー省は5日に報告書を発表し、余剰天然ガスを国外に輸出することはエネルギー価格を押し上げるものの、経済全般には実質的な利益をもたらすとの見解を示した。
(出所)ロイター、2012年 12月 7日 14:43 配信
シェールオイル、シェールガス採掘技術の進歩から、いまは世界のエネルギー市場の市場構造が変革のさなかにある。一度アメリカから新興国に流出した米・製造業の生産拠点が再びアメリカ国内にUターンしつつある。このことはもう何度も報道されている。

余りに多くの一次エネルギー源を中東に依存する日本にとっても、このようなエネルギーのアメリカシフトは好ましく映っているはずである。ところが、日本の製造業の得は、アメリカ製造業の損であると。米国・民主党議員ならば、こういうゼロサムゲーム的な議論を構築するであろうとは、大いに予想されるところだ。

しかし上の議論は、アメリカ製造業とそのライバル国の議論では、実は、ない。 純粋にアメリカ国内の問題である。

ロジックからいえば、アメリカのエネルギーをグローバル市場で自由に取引させて、価格が需給で決定されるようになれば、アメリカのエネルギー産業は繁栄するが、当然のことドル高要因となり、それはアメリカの製造業にとっては輸出の足かせになるのでマイナスである。悪くすれば、アメリカがオランダ病に罹ってしまう。上記スタベノウ議員は、『だからアメリカ製造業のライバルを利することを懸念している』と、そう考えているようだが、実はアメリカ国内のエネルギー産業の利益拡大を抑えようとしているわけである。アメリカにとって、エネルギー産業を国の繁栄のコアと位置付けるか、製造業をコアと位置付けるか、アメリカが直面している問題はあくまで<アメリカの国益>なのであるが、そうは語っていない所が議論のミソである。民主党としては、同じアメリカの産業が繁栄するにしても、より多数の労働者が雇用されるようであってほしい。エネルギー産業が繁栄しても、それは少数の資本家が栄えるだけであり、中下層に利益は落ちてこない。まあ、こうは言ってはいないが、考えていることはこうであろう。もちろん優勢な製造業の保有=国防上の安全保障というロジックも意識されているだろう。これも民主党が伝統的にもっている政策思想に沿っている。

× × ×

特定の選挙区から選出された特定の政党に属する国会議員は、所詮、(ホンネでは)誰か特定の人たちの利益を代弁するものである。代弁というのがまずいなら、無視できない、と言い換えておこう。そんな政治家の姿勢が嫌だ、不潔だと考えるなら、そもそも<代議制民主主義>を採用するのは無理なんじゃないかと思う。寧ろ、こうした状況こそ、地に足がついており、活力があって望ましいと、そう感じる感性が必要だと、小生は思うのだな。

小生が特に羨ましく思うのは、抽象的な大義名分を振りかざすことをせず、あくまで具体的な利益の発生と損失の発生をロジカルに語りながら、何が国益であるかを明らかにしようとする国会議員の議論のスタイルである。そもそも<国益>を国会議員が語らないのなら、誰が<国益>を語るというのだろうか?

その国益を追い求めながら、それでも特定の選挙区から選出された特定の政党議員たちは、自分たちの利益も<結果として>同時に増えるようであってほしいと願っている。源頼朝は何よりも平家を打倒して父の無念を晴らしたかった。しかし、それは支持基盤の東国武士たちにはどうでもよいことだ。だから源頼朝の政治課題は東国武士の利益拡大であった。それが公益だ。その公益を拡大するべく行動する中で、自分の私的な目的である平家討滅もまた同時に達成した。源氏一門に属する人間が、東国の公益を求めながら、自らの私益を追求するとしたら、ああするのが合理的だったわけである。その点で政治的な天才であると思うのだ、な。もちろん、東国は日本の中の一地域であり、東国の利益=朝廷政治の損失という対立ゲームであったので、東国の公益とは結託の利益だったのだが、この点はまた別の機会に。

国益という仕事をこなしながら、私益も同時に達成する。いいねえ・・・複雑でありコンプレックスであり、深みがある。ま、アメリカの上院議員は鎌倉幕府とは関係がないが、<政党政治>たるもの、こうでないといかん。「新幹線延伸が私に与えられた政治課題であります」・・・私益丸出し。全く恥ずかしいの一語だ。それでもまだ日の本太郎なる人物がいるわけでもあるまいし『すべての国民の未来のために・・・』などという自称・政治家の枕詞よりはよほど中身があるだけマシであるが。ま、国会議員の議論のスタイルを示す一つの好例ではないかと思ったので米・上院議員のことながら、メモすることにした。

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