2013年3月5日火曜日

日銀新体制 ― インフレ転換に成功するか?

どうやら参議院でも民主党が日銀総裁・副総裁案に賛成する見通しとなり、総裁空白という最悪の事態は避けられそうである。5年前には福田内閣による提案に反対を連発し、日銀総裁の空白を招き、それが民主党の無定見批判にはつながらず、時の内閣の無能力の証明となり、ひいては一年後の政権交代へとつながっていく契機にもなったのだから、世の中わからないものである。

まあ、あれだな・・・、いま参議院の民主党勢が反対して、そのために国会同意がとれず、日銀新体制が発足できないということになれば、日経平均株価はその日のうちに300円か400円程度さがるだろう。次の日もさげて合計1000円の下げになると予想する。そうなれば、これまでの流れをみるとマスメディアは安倍内閣を批判するのではなく、(筋からいえば5年前に展開するべきであった)民主党の無定見を一斉に批判・攻撃するものと思われる。そうした中で、安倍総理の民主党攻撃は熾烈を極めるに違いない ― 颯爽と形容してもよいか。ま、得意分野である。民主党は有効な反論ができるか?・・・はなはだ疑問である。

本日の道新でも民主党の支持率が結党以来はじめて道内で一桁にまで落ちたと報道されていた。安倍総理に経済的混乱の責任を追及されれば、いまはもう3月、夏の参議院選挙では民主党大敗を通り越し、文字通りの<滅亡>とあいなろう。これは怖い・・・、民主党が参議院において政府提案に賛成するのは火を見るより明らかだった。小生は<自主投票>を予想しておったのだが、これもまた実に情けなく、それよりはという消去法であったのだろう。

さて。
岩田氏は中央銀行の資金供給で緩やかなインフレを起こして景気を立て直すことを主張する「リフレ派」の代表格として知られる。所信表明や質疑では物価目標を「遅くても2年で達成できる」と強調。未達の場合は「最高の責任の取り方は辞職だ」と述べ、進退を懸けて取り組む考えを示した。物価目標の達成責任を明確にするため「日銀法の改正も必要」とも指摘した。(出所)日本経済新聞、2013/3/5 11:14 (2013/3/5 12:27更新)
副総裁候補・岩田規久男氏は学者だけあって、実にラディカルである。同氏の『デフレの経済学』 は、以前担当していたゼミで課題図書にしたこともあるが、氏の見解に同意するか、反対するかはともかく、内容の展開は大変整理されていて、主張明快にしてクリアカットな本である。上で言っていることは『物価の変動は完全に日銀の責任である』というものだ。日本銀行法・第2条では次のように規定されている。


(通貨及び金融の調節の理念)
第二条  日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。
物価の安定は日銀の責任であると規定されている。インフレもデフレも物価不安定な状態であるから、日銀はどちらの状態であれ、問題解決の手段を有していることが大前提である。

<物価の安定>と<物価の変動>とは違う。確かに言葉も意味も異なるが、物価を不安定状態から安定状態に移行させる政策ツールをもっているなら、インフレ状態を安定状態に転換することも、デフレ状態を安定状態に転換することも可能だと言うロジックになる。経済学を勉強したことのない普通の人は、こう考えるのではないか。それを『いやあ、デフレをインフレにするのは難しいんですよねえ、逆なら簡単なんスけどね』と言えば、普通の人は「逆なら簡単なんスけど」という、後段の下りもまた実は自信がなく、全体が嘘なのではないか、と。こう考えるのではなかろうか。

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日経ヴェリタスでは、金融政策の今後について有力エコノミスト、アナリスト達にヒアリングを行った。その結果がやはり報じられている。

政策技術的には色々な手を予想しているようだ。上の紙面に掲載されている図を使わせてもらう。


最も多かった回答が、本文にもあるように、「資産買い入れ額の拡大」と「国債年限の長期化」。基金で買う長期国債は現在、残存期間1~3年に限っている。これを5~10年に延ばすことで長めの金利を押し下げるわけだ。

ベースマネーを拡大しても何の効果もなかったではないかというのが、かなり多数の経済学者の意見であるようだ。しかし ― ここまでやるかどうかは分からぬが ― 日銀が住宅ローン債権を買えばローン金利を1%程度にまで下げることは可能である。現在、3%超が適用されている小生の変動ローン金利が1%にまで低下し、それが2年程度は続いてくれるならば、2年で100万円程度の余裕金ができる。この100万円で住宅リフォーム投資ができる。ましてや固定金利の新規住宅ローンの話しであれば、総支払額を千万円単位で節約することができるだろう。2年たって政策の効果が出てくれば、また金利が上がると最初から予想されるのだから、上の政策によって住宅新築、増築、改築、リフォーム投資が増加するのは、100%確実であると断言できるわけでもあり ― この点、首をかけてもよいと言っておこう。とすれば、耐久消費財にも需要増加が波及する。これも確実である。
マネーを拡大しても、それだけでは何の効果もない。
この命題自体に誤りはない。問題は実需である。無からマネーを作り出せる日銀が、名目金利を通して、実需を刺激することは常に可能である。小生はそう見ているのだ、な。その意味では、景気循環はマネタリーな側面が強く、すべてをリアルで説明しつくすことは不可能だという「派閥」に属している。

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でもそれって、住宅需要の先食いですよね、その後はどうなるんですか?

実質金利は、マネーとは関係なく、実物面から決まってくる。かつ実質金利は、各国の市場間で均等化し、世界市場で決まるものである。日本の国内投資が停滞しているのは、実質金利に見合うほどの有望な投資機会が国内にとぼしいからである。投資が増えないから、労働生産性もあがらず、したがって一人当たりGDPが増えず、それ故に生活水準も上がらないのである。インフレとかデフレとか、そのような事柄と、日本経済の停滞とは無関係なのだ。よくこのように解説される。

名目金利はマイナスの値になることはない。名目金利がゼロ金利で、しかも実質金利がプラスにならないといけないというなら、物価がデフレになるのは仕方がない。物価をインフレにすれば、そのインフレ分だけ名目金利が上がるだけだ。インフレ・ターゲットには意味がないのだと。そんな解説もよく聞く。

正統派マクロ経済理論について、本ブログで論じてみても、ほとんど意味のないことだ。そろそろ疲れてきた。経済学は実証的根拠に基づく社会科学である。せっかく内閣が<アベノミクス>を実験すると言っているのだ。アベノミクスが成功すれば、正統派マクロ経済理論が不正確であったことになる。正統派経済学者には残念だろうが、これはこれで良いことだろう。アベノミクスが失敗すれば、その失敗の在りようにもよるが、まずは正統派マクロ経済理論の信頼性が高まることになる。それはそれで良いことだろう。正統派経済学者が提案している政策メニューが、そしてそれのみが正解であることになるのだから。進むべき道が決まることになる。

どちらに転んでも良いことなのだから、まずはアベノミクスによる経済政策を進めればよい。それが小生のいまの見方である。



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