2019年3月30日土曜日

一言メモ: 『言うは易く、行うは難し』の一例

戦略ならば誰でも語れる。しかし、与えられた戦略の下で目的を達成するための戦術を、たとえば「いま何をするか?」というレベルまで具体的に提案できる人は少ない。

要するに、当たり前の事(=目的)や基本方針(=戦略)は普通の頭さえ持っていれば、いっぱしの話はできるが、具体的に今月の内に何を決めればいいか、この四半期で誰と協議し、一年内を目安に何から進めればよいか、来年あたりに停滞するとすればどこで停滞しそうか。これらの処理が出来る人材は少ない。「やっぱり専門家に任せるしかないでしょう」というのも、これまた誰でも言える戦略で提案価値はなにもない。

統計畑では、何の知識もスキルもなくともこの位のやり方で憶測はできるという程度の達成可能レベルを"NULL MODEL"と呼んでいる。例えば、あらゆるメールの中に占めるスパムメールの比率が1パーセントであるとき、「いま届いたメールがスパムメールである確率は1パーセントですよね」という判定の仕方などはそうである。

メールの中身を見もせずに、スパムである確率が1パーセント(=スパムでない確率は99パーセント)なんて、よく分かるネエ、どうやったんだい?……、シャーロック・ホームズだね、まるで。アレッ、メールのタイトルがネ、「あなたと知り合いになりたいの!」って、これスパムなんじゃないの!!君ねえ、やっぱり当てずっぽはいけないヨ。

世の中、昔から何の助けにもならない知ったかぶりはあるものだ。何もいま流行の「フェイクニュース」や「自称・専門家」などという言葉を使う必要はない。鎌倉時代のエッセー『徒然草』にも『少しのことにも、先達はあらまほしき事なり』と書かれてある。

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少し以前になるがこんな報道が日刊工業新聞に載っていた。

厚生労働省の毎月勤労統計の不適切調査問題に関する不信が払拭(ふっしょく)できない。新たな第三者委員会をつくって、真相を解明し、膿(うみ)を出しきることが第一歩だ。それが国民の信頼回復につながる。合わせて、政策の精度を高めるため、民間が持つビッグデータ(大量データ)などを政府や公的機関が利用する議論を深めていくべきだ。
「何のために税金を使い調査したのか。さっぱり意味がない」。第三者委員会報告書格付け委員会で委員長を務める久保利英明弁護士は8日、日本記者クラブで会見し、特別監察委員会を強く批判した。毎月勤労統計の不適切調査をめぐり、厚労省が第三者委員会として設けた特別監察委がまとめた再調査の報告書について、報告書格付け委員会は5段階で評価し、久保利委員長ら委員9人全員が最低評価の「F」をつけた。これまで20回の格付けで、全員がFをつけたのは、今回が2回目だ。
格付け委がこうした低評価をつけたのは、監察委が独立性や中立性を欠いたことによる。特別監察委の樋口美雄委員長は厚労省の外郭団体のトップを務める。「それだけでも第三者委員会の適格に欠ける」(久保利氏)とし、身内による調査に懸念を表明する。
(後略)


確かに「戦略」は正しい。ビッグデータの時代にマッチした統計システム戦略を構築しなければならないことは、その分野の人は誰もが意識している。

しかしネエ・・・

昔はビッグデータはなかったんでしょ?これからやり方を変えようってのは、まあ、いいんですけどネ…。専門家の人に使ってもらえるようなデータはどんな風にすればいいんでしょうかネ?なんかGDPデータってえのは、20年くらい前に遡ってそろえる必要があるって言いますからネエ。その基礎データになるなら、それも同じことでしょ?やり方を急に変えたら、全然、違う数字になっちまうってこともあるんじゃないんですかい?

戦略は誰でもがそれなりに語れるものだ。要は、具体的にどうすればそれが出来るのか、である。『そりゃあ、つかさつかさの専門家ってやつがいるんじゃないんですか?』と問われれば、『いまの日本にどの位それができる専門家がいるって思ってます?』。小生ばかりでなく、ここを一番聞きたいのではあるまいか。

戦略を提案するなら、戦術も考えるべきであろう。それには、詳細な具体的事情に精通することが求められる。勝負はそこからである。

そうでなければ、中身のない"NULL MODEL"ならぬ聞くだけ野暮な"NULL PROPOSAL"と言われても仕方があるまい。

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それにしても特別監査委員会を格付けするための格付け委員会があったのか…寡聞にして知らなんだ。

この格付け委員会はどの程度まで信用してよいのだろうか?ちょっと、格付け委員会を格付けするための格付け・格付け委員会をつくってほしいねえ。いや、そうなると、その内それを格付けするための「格付け・格付け・格付け委員会」が欲しくなるか。

まあ、需要あるところに供給アリ。これまた経済原理の発現形態の一つである。

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