2021年10月6日水曜日

マスコミはアベノミクスがもたらした結果から目をそむけたのか?

カミさんの習慣で視ている朝のワイドショーだが、今日のテーマは「親ガチャ」運・不運論だった。要するに、子供は親を選べない。どんな人生を歩むかは親次第。「浮世は、所詮、不条理そのもの」という若年世代の嘆きをとりあげるものだった。

まあ、先ずは公立小中学校、公立高校の再建、国公立大学の授業料引き下げ、給付型奨学金の拡大、学校の多様化。この辺りの提案かな・・・と。

大体は、どんな話をするのか分かるわけで、予想を確認するくらいのつもりで視ていたのだが、中に「ン!」と注意をひくグラフが出てきた。

それは日本の相対的貧困率(=可処分所得がメディアンの1/2未満である世帯員の割合)の年次推移を示す折れ線グラフである。TVとまったく同じグラフではないが、厚労省が公開している図を下に載せておきたい。



相対的貧困率の推移をみて「オヤッ」と思ったのは、野党が格差拡大の元凶だと攻撃のターゲットとしてきた安倍政権の経済政策、つまりアベノミクスだが、相対的貧困率は安倍前首相が登場した2012年以降、実はそれまでの上昇傾向から低下傾向へと転じているのだ。

この事実は、実は、小生も初めて気が付いたことである。つまり、
安倍政権登場以降、日本の相対的貧困率はそれまでの上昇から転じて、低下傾向を示し始めた。

民主党政権はこれをこそやりたかったのではないのか。

それにしてもというか、安倍・菅政権9年間の格差拡大を指摘するために使ったグラフであったのだが、すぐに分かるなだらかな上昇トレンドはともかく、安倍政権登場後にトレンドが下降に転じているという明白な事実を誰も言わないのは、実に奇妙であった。

小生も、つい日本のマスメディアを信頼していたので、自分自らこれに関して情報を探索する努力を怠っていた。日本国内のマスコミはどの社も上の事実を報道してはくれなかった。そのために小生も無意識に事実誤認をやってしまっていたのだ、な。

剣呑、剣呑・・・


しかし、よく振り返ってみると、この事実の意味合いは小生はすぐに納得できる気もしたのである。

所得格差が縮小傾向から拡大傾向へと逆転したのは、よく言われるように、1980年代からであって、英国のサッチャー首相、米国のレーガン大統領の登場を契機とする《新自由主義》の台頭が背景にあると言われている。

もちろん単に政策思想が変わったことを直接的原因として、社会全体の経済格差が現実に上昇したり低下したりすることはあり得ない。具体的な、何かが原因となって、格差は決まっていくものだ。

1980年代以降に世界全体で進んだことは、それまでの一律的な公的給付から「官から民へ」という民営化が進行したこと、それとIT産業を始めとするニュービジネスの成長、そして自由な資本移動を通した経済のグローバル化。この3点が挙げられる。

産業の発展は古い産業の衰退と新しい産業の成長と。この新陳代謝が長期的かつ重層的に進行することで実現する。このプロセスの中で、経済的勝者と敗者が分かれる。その結果として、格差は拡大するのである。19世紀を通して欧米の所得格差が拡大し続けたのは、産業革命、つまりは近代化の必然的な結果である。これとほぼ同じロジックで、1980年代から90年代、2000年代にかけて、経済格差が拡大してきたものと理解するべきだ。

この動きが、実は安倍政権登場以降、逆転している、この日本では。いや、驚きました。ビックリしましたが、改めて納得もできるのである。


小生はアベノミクスは失敗だと考えている。それは、格差拡大を放置したから、という野党が掲げる理由からではない。そうではなく、

安倍政権は多くの規制を温存し、ニュービジネス成長の機会を奪ってきた

多くの規制を温存したのは自民党の《党益》の基盤であるからだ。医療・保健もそう、農林水産業もそう、教育・トレーニング・学校ビジネスもそうである。電波、放送もそうであるし、広報宣伝産業の寡占構造も甚だしい。すべて日本のICTビジネスから成長機会を奪っている。アメリカがアメリカの強みであったGAFAの弊害を追求する何分の1ほどでも日本で議論しているだろうか。この点で、小生はアベノミクスには否定的である。実際、<自民党をぶっこわした小泉政権>の時代、相次いで現れたニュービジネスの旗手が、安倍内閣時代にはサッパリ出ては来なくなった。企業は、日本ではなく、海外でビジネスを展開するようになってしまった。

この感覚と、安倍内閣登場以降、日本の相対的貧困率は上昇から低下へと転じたという今日やっと気が付いた事実とは、見事に符合するのだ、な。 

安倍内閣は新自由主義によって格差を拡大させてきたのではなく、むしろ規制を温存し、より平等に停滞を受け入れる選択をしてきた

こう要約するのがデータに合致する。故に、アベノミクスは「ぬるま湯的」だと感じられたのだろう。


日本のマスコミは、大事な事実から目をそらしている。「報道しない自由」はマア多少はあるだろうが、程合いがある。その時の政権が現実に実行しつつある政策の結果を正しく伝えないというのは、「メディア」としての機能をもはや果たす意志がないからであろう。日本国内のメディア報道をもう信じてはいけない。そんな感想を覚える。



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