2021年10月19日火曜日

一言メモ: 「小選挙区制」は日本の政治状況に適していないのでは?

昨日、今日と、次の衆院選に向けて与野党党首討論会(?)が相次いで催されているようで、TVでも発言のサワリを切り取っては放送している。が、どこも似たりよったりで「この際だからいいでしょう」と言いたげな《ばら撒き公約(?)》を語っており、いかにも「国政選挙」にふさわしいレベルの議論はサッパリ出てこんネエ、と。そう感じるのは小生だけだろうか?

そもそも、現在の日本の衆院選は小選挙区で当選するのは1名である。マア、比例代表制も併用されているので、与野党合わせて幾つあるのだったか、5党か、6党か、数えもしなかったが、確かに多数党が並立してもよいことはよい。しかし、現在の衆議院の定数は465人で、うち289人が小選挙区、176人が比例代表になっている。やはり小選挙区制がメインとなっている。実際、政治的影響力をもつ有力な議員はどの人も小選挙区で当選している。

比例代表制で投票するなら、確かにどの政党に投票しても、自分自身の投票は集計された最終結果に必ず反映される仕組みである。多数の政党が党首討論会に参加することには意義がある。しかし、小選挙区では当選は1名。1名以外の政党候補者を記した票は「死票」となるのだ。


もしも全ての議員が小選挙区で選ばれるものとする。こんな場合、どんな結果になるかを考えることは結構重要だ。

  • 拮抗する2大政党であれば、死票は(よほどひどい選挙区割りでなければ)半分弱で済む理屈だ。確かに一理ある制度だ。
  • 小党が分立している状況ではどうだろう? 例えば政党の数が10党もある場合、小選挙区ではその中の1党のみが議席を得るため、概ね9割弱の票が死票となる理屈である。この理屈は各選挙区で成り立つので、全国で集計してもそうなる。日本人の9割弱は希望とは違う選挙結果に不満をもつだろう。つまり、小党分立で小選挙区制を採るのは明らかに不適切である。よく言われることだが、小選挙区制は2大政党制を前提していると言ってもよいだろう。それでも死票は半分程度には達する。
  • もし支持率が4割前後あるガリバー型政党が1党あり、残りの6割を5野党(6野党でもよいが)で分け合っているとする。こんな状況では、全ての小選挙区でガリバー政党が勝ちを制する地滑り的大勝利を得そうである。支持率が半分に届かないガリバー政党が国会を舞台に何でも出来そうである。故に、ガリバー型の政党勢力分布でも小選挙区は適していない。
  • なお、ガリバー型状況下で「野党統一候補」を出すのは、上に述べた当たり前の結果を回避する野党間の妥協、というか取引である。もし文字通りの野党統一候補を全選挙区に出せるなら、統一野党が勝つ確率が高い。が、どの政党の候補が統一候補になるかで野党間の妥協が整うかが問題になる。ロジカルに考えると、小規模野党の候補はせいぜい1名がどこかの選挙区に立ち、残りは主導権をもつ野党どうしの妥協と取引で候補が決まるはずだ。なぜなら小規模野党は小選挙区では(例外的な実力者でなければ)当選する可能性がないので、1名が統一候補となり当選のチャンスが得られれば、政権に参加できるだけで御の字であるからだ。やはり小選挙区制は小規模政党を淘汰しがちである。とはいえ、小選挙区制であっても野党が結集さえすればガリバー型政党に勝つチャンスは大いにある。
  • 小選挙区制の導入に熱心だった小沢一郎議員は2大政党形成か、野党結集か、方法論は多々あれど、大体はこんなロジックを頭に描いていたのだろう。

なるべく「死票」を出さないことが民主主義では大切だ。この点を重視するなら、小選挙区はあまり良い選挙制度とは言えない。

よく「比例代表制」が中途半端な選挙制度であるという批判をみるが、たとえばドイツでは比例代表制で各政党の議席を決定するという「比例を主とする小選挙区制」を採っている。フランスは小選挙区だが、決選投票のある2回投票制をとっている。イギリスは典型的な小選挙区制だが、勢力分布としては保守党と労働党との2大政党制に近い。小選挙区制を採るリアルな根拠がある国が英米である。

日本は比例代表制を併用しているが、小選挙区制の方にウェイトがある。総選挙が迫りにわかに「野党統一候補」などと言ってはいるが、野党間の政策合意は断片的で、実際に政権を得た後にどんな基本方針をとるのか不明である。そもそも《公約》などは守られないものである。日本で2大政党制が実現する時は、共産党勢力が消失し、自民党が保守とリベラルに分かれるまで来ないだろう。それまではずっとガリバー型が続くと予想している。

日本は典型的なガリバー型の政党分布にある。小選挙区制を主とする選挙制度は(本来は)実態に合っていないと結論してもよいのではないだろうか。

もし比例代表制を主とするなら、自民党+公明党で衆議院の3分の2超の議席を制するのは難しいのではないか? たとえ自民党であっても「非常に強力な政党」の地位を維持することは難しくなるのではないか? おそらく選挙のたびに(自民党を軸とするケースが多いだろうが)新たな連立政権発足に向けて政党間協議、政策調整が繰り返される情況になるのではないだろうか? たかだか一つの党の総裁である総理大臣の裁量で国会を解散するという事態もむしろ減るのではないだろうか? 政治が行き詰れば、内閣は単に総辞職をして、新たに政党間協議が行われ、新内閣が形成されるのではないか? 国会議員は誰もが士気を高め、意外な若手が登場する機会もむしろ増えるのではないだろうか? こんな、ある意味《イタリア的政治》への方向が日本にとって悪いことだとは思えない ― 天皇の役割を新たに考え直した方がイイかもしれないが、これには(当然)憲法改正が必要になる。

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