最近とみに権威主義・中国に対する反感が日本でも高まっている模様である ― 本当に日本で反中意識が高まっているのかどうか、自民党の政治家やマスメディアの論調、ネット上の運動家達の声とは厳密に区別する必要があるとは思っている。
確かに新疆ウイグル自治区でどんな統治が行われているのか、チベットではどうなのか、という問題は、具体的な証拠が十分ではないにしても、ある。ひょっとすると英米がイラク戦争を始める前の"Weapons for Mass Destruction"と似た主張であるかもしれないが、それでも香港で行われたデモ抑圧は世界がよく知るところになった。ただ、それでも(と再び接続するが)香港と近接した深圳や広東で同じ現象が全然と言ってもよい程に伝播していない。これもまた目を向けておくべき事実であるとは思っている。
「同じ現象が中国国内で拡大しないのは、IT技術を活用して北京政府が国民を監視しているからだ」と語る専門家も多いのだが、マア、要するに、北京政府に対する不満が中国国民の間で高まってはいないのかどうか、現時点の論点はこれしかないわけであって、地元の国民が大勢としてこれでも良い、概ね満足していると考えているのであれば、そんな統治の在り方を、外国が非難したり、まして気に入らないから打倒しようなどという企ては、極めて悪質で侵略的であって、これこそ19世紀の欧米がとっていた帝国主義とどこがどう違うのか、というそんな感覚もある。
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その中国国民が北京政府に寄せる意識だが、下のデータが参考になるかもしれない。
Source: https://www.nber.org/system/files/working_papers/w23119/w23119.pdf
この表は『21世紀の資本』で高名になった、フランスの経済学者Thomas Pikettyも共著者の一人に入っているNBER Working Paper "GLOBAL INEQUALITY DYNAMICS: NEW FINDINGS FROM WID.WORLD"から引用している。
表をみると、
経済開放後の35年ほどの期間における中国国民の所得の推移を所得階層別の成長率でみると、確かにトップ10%層(現在の富裕層)は累計で10倍以上にまで所得を増やしている。その下の40%(中流階層)も8倍近く増えている。それに加えて、貧困層を含む半分以下の所得階層もまたこの間に所得は4倍程に増えている。1世代の間に所得が4倍に増えたのであれば、まず不満は高まらないはずだ。そして幸運に恵まれれば13倍にまでリッチになることも夢ではない、そんなロールモデルも出現した。日本にもかつてあった「高度成長時代」を35年間も続けてきた北京の中央政府に「打倒してやろう」と考える中国国民がいるだろうか、と。いないのが自然だろう、と。小生はこれがポイントだと思っている。
これに対して、アメリカでは同じ期間のTOP10成長率が累計で2倍ほどにとどまっている。注目するべきは半分以下のボトム50%層の所得がマイナスとなっている点であり、アメリカでは”Lower - Lower Middle"という所得階層が<相対的にも、絶対的にも>没落したわけである。アメリカの政治が不安定化している背景は正にここにあるわけで、同じ現象がいま日本でも進行しつつあるとすれば、日本の国内政治の基盤は経済的要因によって浸食されつつあると観るべきだろう。
この同じ期間にフランスは、すべての所得階層で安定した成長を実現している。日本のマスメディアや学界は、日頃はあまりフランスという民主主義国家の政策に注意を払っていないが、一体どんな統治をしているのか、日本人ももう少し海外事情に関心を高めた方が善いと思うし、フランスばかりではなく、広く海外への関心を呼び起こすようなそんな問題意識をマスコミもまた企画段階で持つべきであると、ますます感じているところだ。また、また最後は「ベキ論」になってしまったが、今日はホンノ一言ということで。
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