2022年6月9日木曜日

ホンノ一言: 岸田インフレ?そんな認識では問題解決には遠いネエ

 『岸田インフレ』という政界単語(?)、というよりメディア・ボキャブラリーだろうが、こんな新単語(それとも新熟語?)が使われるようになっているらしい。

マ、確かに先日のフランス大統領選挙で現職・マクロンが苦戦した原因が、厳しすぎたコロナ感染対策と足元のインフレにあったことは、多くの人が指摘している。

バイデン大統領の信任投票とも言えるような今週の中間選挙だが、与党・民主党の敗北はほぼ必至だと言われている。そして、その主因は昨年の見苦しいアフガン撤退劇と足元のインフレにあることは誰もが認めているところだ。

インフレも経済現象、社会現象なのだから、社会に責任をもつ政府の責任だという意味をこめて「インフレも政府の責任だ」と非難しても、それがまったくの間違いではない、とは言える。

しかし、現在のインフレーションが、コロナ・パンデミックの後遺症に加えて、進行中のウクライナ動乱への対応(=対ロシア経済制裁)による結果であることは、誰もが知っていることだ。

対コロナ対策で厳しいロックダウンを実施し、それによって労働力が離職し、それが原因になって回復後もサプライチェーン危機に陥ってきたことは、政府が無能なためではない。政府は必要な政策をまず実行した。その後、経済メカニズムが自然な結果をもたらしたのである。

ロシアによる軍事侵攻に対して旧西側が直接的にウクライナに軍を派兵し核戦争の危機を高めるというリスクを避ける。これも各国国民の過半数から支持されている方針だ。

民主主義と自由を守るため非軍事的手段によってロシアに報復するという選択も各国国民は反対していない。

つまり、現在の世界的インフレーションは政府の「責任」であるかもしれないが、非難されるべき筋合いにはない。いわば「望ましい政策の不可避の反作用」である。これが理屈というものだろう。

インフレーションは世界共通の経済問題なのだ。実際、今日届いたIMFのメールはこんな風な書き出しだ:

By David Amaglobeli, Emine Hanedar, Gee Hee Hong, and Céline Thévenot

Governments confront difficult policy choices as they try to shield their people from record food prices and soaring energy costs driven higher by the war in Ukraine.

Countries introduced a variety of policy measures in response to this unprecedented surge in prices of the most crucial commodities. Our survey of these announced measures by member nations shows that many governments tried to limit the rise in domestic prices as international prices increased, either by cutting taxes or providing direct price subsidies. But such support measures in turn create new pressures on budgets already strained by the pandemic. 

困難な政策を余儀なくされている主語は"Governments". 複数形である。『どの国の政府も…』という意味に近い。現在の物価上昇は政府が政策目標として求めたものではない。必要な政策の「反作用」であって避けがたい結果なのだ。それでも、現在の「世界的インフレーション」によって旧西側(だけとは言えない)各国政府の支持率が低下している。

各国の政策の目標はいま一つ明らかではない。が上を読むと、国内物価の上昇を世界的インフレーションの限度内にとどめることを政策目標にしているようだ。

この目標が達成されるかどうかをどの指標によって確認するか。消費者物価指数でも卸売物価指数でもない。《GDPデフレーター》である。こういう議論は、1970年代の2度にわたる石油危機の混乱の中でさんざん議論したことである。忘れてしまったのなら、もう一度同じ議論を反復すればよい。

価格が上昇した輸入原材料が国内で在庫となり、それがより高額な取引となって流通するのは仕方がない。しかし、輸入原材料コストの上昇を川下に一切転嫁しなければ、国内企業の利益が減少するか、そうでなければ賃金の引き下げ圧力が生まれる。これは《デフレ圧力》である。

世界的インフレーションは、単なるインフレではない。通関後に国内でデフレ圧力として働く《輸入インフレ》なのである。だからこそ物価上昇を伴う不況であるスタグフレーションが懸念されている。

「岸田インフレ」などと、あたかも日本の経済政策の誤りで物価が上昇しているなどと考える単純な理解では

こりゃあダメだあ・・・

大学生以下、いや高校生以下ですぜ・・・

アメリカは金利を上げている。日本も上げないからインフレになる。こういう人も多い。特にテレビ画面に登場する人は言うのだが「円安」を指しているのだろう。まさに文字通り「盗人にも三分の理」。半分以上は間違っているが、完全に間違いではない。こんな「正論」がいまいかに増えていることだろう。

ズバリ、愚論である。アメリカが金利を上げているのは、労働市場の過熱、賃金上昇がインフレ期待に火をつけ、ホームメイドの真正インフレをもたらす可能性を摘むためである。日本と経済状況が違う。経済の体質の違いを無視してアメリカに追随するのは単なる「猿真似」である。

いま問題になっているのは《世界的インフレ》である。だから、IMFも議論している。輸入インフレを国内で転嫁できるかどうかが日本の課題である。それが出来なければ実質的にデフレになる。転嫁をして、次に日本に必要なのは賃金アップである。黒田日銀総裁もそう言いたかったのだろう。これが目下の目標だ。

ホントに「国の選良と言われる人たちがネエ・・・」。そもそも「中央銀行の独立性」をどう考えているのだろう・・・。

先行きは暗い。

いま大事であるのは、ウクライナ戦争への対応もそうなのだが、世界的インフレーションによって「世界的なインフレ・マインド」が形成され、それが「世界的な狂乱物価」を現実にもたらし、それを抑え込むために極度の金融引き締めに追い込まれ、「世界的二桁金利」という時代がやって来ないようにすることである。今後、国際的な意見調整、政策調整が必要になるだろう。この緊急性を訴えるなら日本のマスコミも100点満点だ。

戦争も「火遊び」であるが、その戦争に経済制裁という形で参加するのも、同程度に危険な「火遊び」である。その危険を指摘するTV局、新聞社は日本では皆無である。最近感じる「メディアの報道能力の劣化」がここにも表れていると思う。

やはり、日本語空間の政治と経済常識レベルは、長期的低下トレンドにある。日本が長い期間にわたって必要な政策変更を採れていないのは、政府、国会にも責任があるが、必要な国民的理解を形成しようとしていないメディア企業にも責任が大いにある。「寄りそう」などと美化しながら、自らは先頭に立たない所は、むしろ悪質である。


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