2022年8月9日火曜日

メモ: 農産物価格のインフレはやはり投機のせいであったか?

日本国内の報道でも、この秋から本格的な食料品価格上昇が始まる、と。もう何度も話題になっている。

今回のインフレは、コロナ・パンデミック中の財政支援、その後のサプライチェーン混乱に、突然のロシア=ウクライナ戦争勃発という想定外の要因が重なって進行したものだが、どうやら怖れていたインフレもピークアウト近しという情況だ。

NYTに定期寄稿しているKrugmanだが、先日、こんな風に書いている。

Even so, historical experience wouldn’t have led us to expect this much inflation from overheating. So something was wrong with my model of inflation — again, a model shared by many others, including those who were right to worry in early 2021. I know it sounds lame to say that Team Inflation was right for the wrong reasons, but it’s also arguably true.

One possibility is that historical experience was misleading because until recently the economy was almost always running a bit cold — producing less than it could — and inflation didn’t depend much on exactly how cold it was. Maybe in a hot economy the relationship between G.D.P. and inflation gets a lot steeper.

最近年のように低圧経済下において生産、雇用と物価の間の関係はフラットになっていて、生産や雇用が弱めであっても物価は硬直的であった。であるので、生産が望ましい水準まで回復するとしても、インフレはそれ程は加速しないはずである、と。ところが、(予想に反して)今回の回復プロセスでは生産、雇用と物価との間の関係がより敏感(=steep)な関係になっていた・・・。

やや弁解を述べた最後に

Looking ahead, the economy is currently cooling off — the decline in first quarter G.D.P. was probably a quirk, but overall growth seems to be running below trend. And private sector economists I talk to mostly believe that inflation either has already peaked or will peak soon. So things may seem less puzzling a few months from now.

今回のインフレもピークアウトしたか、間もなくするかであり、分かりやすい状況になって来た、という具合にまとめている。

実際、農産物価格についてWSJは最近の価格急落を伝えている。

今年に入りインフレや戦争に伴う供給問題が懸念材料に浮上すると、商品価格の上昇を見込んだ市場参加者が先物市場に資金を注ぎ込み、相場を押し上げていた。小麦と大豆は最高値をたびたび更新し、トウモロコシは史上最高値に迫っていたが、ここにきて状況は一変した。投機筋は利益を確定してインフレ取引を手じまい、リセッション(景気後退)に備えて穀物市場から撤退した。

確かにグラフをみると歴然としている。

URL:https://jp.wsj.com/articles/speculators-exit-agricultural-markets-intensifying-crop-selloff-11659726280
Source:Wall Street Journal、2022 年 8 月 6 日 04:05 JST

このグラフをみると、実は2020年の年末近くから上昇を始めている。その後、2021年にはサプライショック、2022年にはウクライナ戦争が勃発して更に上昇したわけだ。今回の下落は、ウクライナ戦争による不規則変動をキャンセルした状態で、正に文字通りの《投機》であったことが分かる。

WSJの報道によれば、

ウクライナは今週、ロシアによる侵攻後で初めて海路で穀物を輸出したが、黒海経由の安全な食糧輸送を約束した協定はほごにされる可能性がある。協定が守られたとしても、ウクライナに滞留している穀物の在庫解消には数カ月かかりそうだ。米農務省は、今収穫期のウクライナからの穀物・種子輸出量は前期の半分程度になると予想している。

 一方、米国は記録的な猛暑と干ばつに見舞われ、作柄に深刻な影響が及んでいる。ゴールドマンのアナリストは3日のリポートで「トウモロコシ、大豆、春小麦の生育状況はここ6週間、ほぼ継続して悪化している」と指摘。米国の収穫量が2~3%減少し、トウモロコシと大豆は消費量に対する在庫量の割合が過去最低水準に落ち込むとの予測を示した。

基本的には《供給制約》が続くため、短期的な見通しとしては、元のトレンドに戻ってから再上昇する可能性が高い。そう予測しているようだ。

「この秋の食料品価格上昇」とだけ報道しておけばイイ状況ではないようだ。 

<報道>と言うのは、井戸端会議のように、思い出す時にだけツマミ食いのような気分で話題にするというのでは、寧ろ情報提供という面ではかえって有害であって、重要なテーマについては定期的にコーナーを設けて、地道に汗をかきながら伝えておくという地味な努力が大切であると思う。

状況は刻々と変わっている。最近のワイドショーは酷いもので、あの話題はスルーして触れない、この話題も何かの理由で都合が悪い、そんな思惑がアリアリと観察される状態で、これでは次にTV画面で話されるときには、映画で30分ばかり中座して、また観始めるようなもので、分かったような分からないような気分だけが残ることだろう。

いや、いや、最後はまたまた国内メディア批判でまとめてしまった。仕事に没頭した若い時分には日本のメディアのアラを意識しなかったのだが、少しゆとりが出来て、国内報道に触れるようになると、どうしてもフラストレーションがたまってくる。本ブログをそんな思いのはけ口にしたくはないが、これもWebLog、世相を記録する日々の航海日誌ということで。


 


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