世界史を振り返ると、思想や考え方の相違が政局につながり、権力闘争を激化させていく事例は、山ほどあったことが分かる。
思想闘争の典型例は、言うまでもなくキリスト教がカトリックとプロテスタントに分裂した後の宗教戦争である。ドイツを舞台にした「30年戦争」はドイツ全土を荒廃させたが、そもそもカトリック批判を繰り広げ宗教改革に手を染めた最初の人がドイツ人・ルターであったことを考えると、ドイツ30年戦争は自然な展開であったとも言える。
が、フランスでも宗教戦争が発生したとなれば、とんだトバッチリであったかもしれない。高校時代に習った世界史に《ユグノー戦争》が登場していたことを覚えている人はどのくらいいるだろうか?これは1562年から1598年まで何度かの停戦をはさみながら40年近く続いたフランスの内戦である。外観としては宗教思想の対立から発生した紛争であるが、内実は王家のブルボン家を軸とした大貴族同士の権力闘争であった ― いま「民主主義」をめぐって世界が分断されているが、これも思想の対立というより世界のヘゲモニーをめぐる権力闘争であるとみるべきだろう。何かと言えば、アメリカ的民主主義を礼賛する発言を繰り返すメディアマンが滑稽に見えるのは舞台裏が透けて見えているからだ。その同じメディアマンが、「アメリカではこうしています」と言われると、「ここは日本ですから」と応じたりするのも、実に吉本演芸風であり、いまTV業界が専門家に期待している役割が視えるような気がするわけだ。
このユグノー戦争は、アンリ4世がカトリックに改宗し、同時に「ナントの勅令」を発して対立陣営であるプロテスタント達の言い分を認め宗教的自由を保障することでやっと終結した。
ドイツ30年戦争を終結に導いたのは有名なウェストファリア条約であるが、これも宗教的自由と地方分権を認め合う妥協が精神的土台になった。
平和を実現するには《価値の共有》などと言うのを止めることだ。
表面的には、ロシアのプーチン大統領が「世界のVDP(Very Dangerous Person)」の役回りを演じているが、実はアメリカのバイデン大統領がもっと危ない行動をとるお人ではないかと恐怖にも近い心理でうかがっている。
フランスのユグノー戦争を終結させた「ナントの勅令」は、その後、100年近くたってからルイ14世によって廃止された。カトリックの価値観を重視したためであったが、これによってフランス国内のプロテスタントは国外移住を志向するようになり、彼らが主に従事していた商工業がフランス国内で空洞化する原因になった。引いてはフランス国内の産業革命を遅らせ、イギリスが台頭する遠因にもなった。
アメリカ民主党のバイデン政権が、さかんに「民主主義」を吹聴し、価値の共有を同盟国に求め、異質な国家を経済制裁して世界市場から締め出す戦略を愛用しているが、これが想定外の反作用となって跳ね返り、フランスのルイ14世の愚策の轍を踏むのでなければ幸いだ。というより、もう既にアメリカの戦略はアメリカの国益を大いに毀損し始めている、と。そんな気がするのだ、な。
大体、自国が良いと思う主義・思想が本当に普遍的に良い主義・思想であれば、何も宣伝しなくとも、自然に他国も理解し、世界は共通の体制に収斂していくはずではないか。待つことを知らず、自国の信念を他国に押しつけるのは思想的な侵略だろう。敵をつくるだけの愚かな行為だ。
愚かさも 度を過ぎたれば 危険なり
本人のみは 意気揚々として
危ない、危ない……
近因、遠因と、世界の覇権闘争は色々な事柄が絡み合っているが、たまたま権力の地位にあった一人の人物の意思決定がその後の地盤沈下の原因になるとすれば、その時の国民はいくら後悔してもしきれるものではないだろう。まして、同盟国と一蓮托生となれば、仕方がないではすまない。
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