2023年5月9日火曜日

ホンノ一言: アメリカのインフレ率は足元でもう2%ラインに戻っている

アメリカではインフレ率をどの指標で測定すればよいかという問題で喧々諤々の議論が展開されているようだ。

が、《物価》といえば全ての品目を含めて判断した方が良いのは当たり前である。インフレ基調の判断に差し支えるからと言って、食料品価格を除いて見るとか、更にエネルギー価格を除いて見るとか、それはやむを得ずにとる方便であって、大体、食料品価格を除いてインフレ判断をされても、国民生活とは縁の薄い専門家の話になってしまうのではないか。

そこで全品目を含めてアメリカの消費者物価指数の動向を改めて確認した。直近月は本年3月である。

まず前年比だが、これはセントルイス連銀のFREDから直ちに確認できる。

URL: https://fred.stlouisfed.org/series/CPIAUCSL#0

本年3月時点で全品目を含めたアメリカの消費者物価指数の前年比はまだなお5%という高さにあって、これはFRBのターゲットである2%に比べて随分高い。まだまだインフレ抑制を続けるべきであるという議論になる。

しかし、足元の物価の動きは1年前と比べるのではなく、前月と比べるべきであるという点は、このブログでも述べている。株価の変化をみる時も、先ずは前日比をみる、次に足元の1カ月をみるのであって、1年前の株価と比べても動きを予測する役には立たない。

但し、前月との変化率を見る場合は、対前月インフレ率を年率換算する必要があり、更にその動きには季節成分や不規則変動(ノイズ)が混じるため、成分分解を施して循環・傾向成分をとりだす必要がある。面倒なようだが、FRBのスタッフにとっては何という事もない、日常的なデータ加工であるはずだ。

その成分分解の方法には幾つかの方法があるが、いま前稿でも利用したSTL(Seasonal Decomposition Of Time Series By Loess)で対前月インフレ率のTC(Trend+Cyclic)成分を抽出すると、下図のようになる。薄いグレーは原系列、黒い線がTC成分である。ROBUST推定はOFFにしているので大きなノイズに影響された短期的な凸凹が見られる。


青い線は、インフレ率2パーセントラインである。これを見る限り、本年3月の時点で、全品目を含めたCPI上昇率の基調は年率2パーセントに戻っている。

今は5月である。現在時点のインフレは年率2パーセントを下回る状態に落ち込んでいるはずだ。5月の利上げは『インフレが収まらないため」という理由では説明できない。


いま走っている時速がスピード違反だと指摘されるのは仕方がない。しかし「今は安全に走っているが、直近1時間以内に6か所の速度計で確認された時速の平均値が70KMに達していたから反則金9千円!」と言われると釈然としない。「事故など起していないじゃないか」と言いたくなる。それに対して警察官は「法律に違反しているんですヨネ」と云う。インフレは法律違反ではない。現在の物価上昇が行き過ぎなら抑えるべきだ。が、過去1年間の物価上昇が行き過ぎたからと言って、現在の経済活動を抑えるのはまるで処罰をするのと同じである。現在の物価上昇が1年間続いてもインフレ率はもう2パーセントに収まるのである。


0 件のコメント: