2023年9月18日月曜日

ホンノ一言:アメリカ経済と中国経済と。それぞれに関する理解の合致。

今年初めにはアメリカ経済について多くの経済学者が景気後退を予測した。ところが、いま景気後退を伴わずしてインフレが終息しつつある。それは何故か?

この問いかけに未だ専門家の間で合意はないようだ。

ただ、徐々に問題は絞られてきている様子だ。


例によってKrugmanがNYTに寄稿しているが、

One of the two optimistic stories goes under the unlovely name of the “nonlinear Phillips curve.” 

これが一つの診断。即ち、失業率とインフレ率の間に一本の右下がりの回帰直線があるのではなく、原点に凸の非線形の「フィリップス曲線」が存在している、と。そんな見方だ。故に、インフレ率が非常に高い状態の下では、そのインフレ率を下げるために必要な失業率上昇はそれほど大きなものではない。そんなロジックになる。

う~ん、まあ、分かりますケド。ただ、1980年代の経済状況を振り返ると、この説明はちょっと違うような気もしますケド。とまあ、こんな感想も覚えるわけだ。コロナ禍3年の間に、いったんレイオフした労働力はまた必要になったからといって直ぐには戻ってくれないという、そんな予想が形成されて、企業側にも労働力退蔵(=Labor Hoarding )の動機が強まった。だから少々の金融引き締めがあるからといって、レイオフはしない。失業率が上がらないのは、だから、ではないか。そうも考えられないか。やはり労働市場における「行動変容」というのがあったのではないだろうか?とすると、元々存在する一本の関係、というよりは構造変化としてとらえる方が適切だ。

Krugman自身はフィリップス曲線、つまり労働市場の特性というより、コロナ禍から正常状態に戻るまでの"Disruption"、いわゆるサプライチェインの混乱によって価格が上昇し、今はサプライチェンが正常化しつつあるのでインフレは終息しつつある。そんな診断だ。

The other optimistic story has, I believe, a better name, although I would say that, since I think I coined it myself: long transitory, a play on long Covid. This is the argument that as late as early 2023 inflation was still elevated because of lingering supply disruptions from the pandemic, but that inflation is coming down now because the economy is finally normalizing.

 Source: The New York Times

Date: Sept. 11, 2023

Author: Paul Krugman

URL: https://www.nytimes.com/2023/09/11/opinion/inflation-unemployment-phillips-recession.html

つまり「異常から正常への移行」であったと観る。故に、問題は解決されたという診断になる。

ただ、どうなのだろう?景気後退を伴うことなくこのままアメリカ経済が回復していくとして、企業側の労働退蔵傾向が高いままであれば、労働市場の流動性が阻害され、人出不足になった分野から賃金上昇の波が広がるのではないか。単に正常化の遅れによって現状がもたらされたと観るのは一面的ではないか。

そうも思われるので、小生は「なぜ景気後退を伴うことなくインフレ率が終息したか」という論争は「どっちもどっち」のような気がする。

が、まあ、一部に政治的ないしイデオロギー的な異論は(わずかに?)残っているにせよ、経済診断としては大方のエコノミストは合意している。そう言えるかもしれない ― あくまで一部の異論を除けばだけどネ、というニュアンスだが。


アメリカの経済診断に比べると、中国経済の見方については「進歩派」から「保守派」までアメリカの論壇はかなりの合意が形成されつつあるようだ。先日、進歩派の代表格であるKrugmanの見方を話題にしたが、たとえば保守派の論壇であるWall Street Journalにはこんな記事が載った:

Yet in other ways, China’s problems will be harder to tackle than Japan’s.  

Its population is aging faster; it began to decline in 2022. In Japan, that didn’t happen until 2008, nearly two decades after its bubble burst. 

...

Then there is the problem of debt. Once off-balance-sheet borrowing by local governments is factored in, total public debt in China reached 95% of GDP in 2022, compared with 62% of GDP in Japan in 1991, according to J.P. Morgan. That limits authorities’ ability to pursue fiscal stimulus.  

External pressures also appear to be tougher for China. Japan faced a lot of heat from its trading partners, but as a military ally of the U.S., it never risked a “new Cold War”—as some analysts now describe the U.S.-China relationship. Efforts by the U.S. and its allies to block China’s access to advanced technologies and reduce reliance on Chinese supply chains have sparked a plunge in foreign direct investment into China this year, which could significantly slow growth in the long run.

Many analysts worry Beijing is underestimating the risk of long-term stagnation—and doing too little to avoid it. Moderate cuts to key interest rates, lowering down payment ratios for apartments and recent vocal support for the private sector have done little to revive sentiment so far. Economists including Xiaoqin Pi from Bank of America argue that more coordinated easing in fiscal, monetary and property policies will be needed to put China’s growth back on track.

But President Xi Jinping is ideologically opposed to increasing government support for households and consumers, which he derides as “welfarism.”

 Source: Wall Street Journal

Date: Updated Sept. 17, 2023 12:02 am ET

Author: Stella Yifan Xie

URL: https://www.wsj.com/world/asia/is-chinas-economic-predicament-as-bad-as-japans-it-could-be-worse-aa962d0d?mod=hp_lead_pos4

1990年代の日本が直面した問題に比べると中国がいま置かれている状況は更に悪い。これから構造転換に取り組むべき時に、正にその時に、人口減少、国債累増、対米外交の困難という三つの難問と同時並行的に取り組まなければならない。加えて、消費を軸にした国民福祉向上へと舵を切るべき時に、トップの習近平は福祉国家の理念に背を向けている。

中国が建て前とする社会主義・共産主義は、労働者が搾取される資本主義に対するアンチテーゼとして存在意義があるにもかかわらず、国民の福祉向上を目的とする政策には消極的であるのは、自ら社会主義的理念を否定しているという理屈になる。

かつてあったソ連が構築した社会主義国家は、なるほど経済計算が出来ないという「ミーゼスの難問」を解決できず、予測通りに破綻した。が、その動機や理念は極めて真面目であった。真剣に社会主義経済を運営しようとして破綻した。それに比べて中国共産党が推進する中国流の社会主義経済は、たとえようもなく不真面目だ。かつて共産主義の理想を掲げた社会主義国家群における劣等生である。もちろん、自由を尊重する資本主義国家の中でも劣等生である。そもそも動機が邪であるからだろう。誰のための社会主義、誰のための共産主義であるのか、正に語るに落ちる、というのが中国の現状だと観ている。

中国国民の不幸は続くと予想する。

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