2023年9月20日水曜日

一言メモ: 日本社会が特異であり「国際感覚」が欠如している証拠なのか?

先日も投稿したジャニーズ事案だが、日本国内のメガ企業がジャニーズ事務所との取引を停止する動きが続いている状況の中で、「所属タレントの出演機会を奪う行為はイイのか、悪いのか?」といった議論が巻き起こりつつある。

まったくピントのぼけた話しだ。それは「後の話し」であろう。

本件そのものは、別に日本経済に関わるほどの大問題でもないわけであるし、どちらかと言えば小さな問題だ。とはいえ、眺めていると日本社会独特の傾向も窺われ、これ自体が別の問題を提起しているようにも感じるのだ、な。

まず最初に確認するべき第一の要点だと思うのは、ジャニーズ創業者による「性加害行為」であるが、(メディア情報を聞く限りでは)これは《強制わいせつ罪》にあたり、刑法が適用されるべき《刑事犯罪》であるという点だ。国内メディアはここを<ぼかして>報道している印象を受ける ― 何となく、ではあるが。

2017年の刑法・刑事訴訟法改正によって、「強制わいせつ罪」は従来の親告罪から非親告罪に変更されている。また、非親告罪であるという変更は遡及適用されることにもなっている(例えばこれを参照) ― なお直近の刑法改正によって「強制わいせつ罪」は「不同意わいせつ罪」、「不同意性交等罪」になり一層厳格化されている(たとえばこれ)。

なので、例え被害者の会が刑事告訴をせずとも時効期間内の行為については捜査機関が刑事事件として立件するべき事案である。暴行障害や殺人と法的には同じ扱いである。民事訴訟で「慰謝料」を求めるなどという水準とは全く別である。

遡及適用される時効期間が相当に長い点を考慮すると、ジャニーズ創業者には、おそらく、時効が満了していない犯罪行為も調べればあると推測される。だから、検察・警察が関係者への事情聴取にいまだ着手していないのは、こちらの方が寧ろ不可思議である。ジャニーズ事務所から依頼された第三者調査委員会「外部専門家による再発防止特別チーム」の座長が前検事総長のH氏であったにもかかわらず、だ。

それをしないのは、おそらく、同社が被害者に対する「賠償」方針について検討を進め、併せて経営改革を模索している状況である点を配慮しているからではないか、と憶測したりしている。

いずれにせよ、創業者ジャニー喜多川元社長が社内で繰り返した一連の行為は(少なくとも)<被疑者死亡のまま書類送検>という結果をもって終わるべき刑事事件(それも相当大規模の)である。この点をきちんと分かっておく必要があるのではないだろうか。


そもそも「ジャニーズ強制わいせつ事件」については、20年も前に最高裁判決で事実として確認されており、今年の春に英国・BBCが、長期間に渡って「見逃されてきた犯罪」と多数の「被害者」を報道し、国連人権理事会が調査を行い「犯罪性」を認定する所まで終わっている。この刑事事件全体の真相解明は(事後になってしまってはいるが)日本国としてやるべき課題になっていると言うべきだろう。もはや「隠蔽」はできない。部外者でもこの位は簡単に分かる。メディア各社に分からないはずがない。

このまま事態が自然に進むに任せて

いやあ、元社長本人も亡くなってますしネ、今さら捜査をしても仕方がないでしょう

まさかこんな風に、日本の捜査当局、司法当局が、存在したはずの犯罪行為について、真相を明らかにすることもなく、これまでと一貫して不作為を貫けば、日本国の対外イメージはどうなるだろう?こちらの方が心配である。日本は西側諸国と共有する価値観の中に法治主義を含めているなどと、恥ずかしくて言えなくなる(はずだ)。法の厳正とジャニーズ事務所を比べれば、その重みは正に「月とすっぽん」ではないか。 

これらは非常に話題性に富む話しでマスコミ受けするはずだ。

こうした場合、従来の他の不祥事であれば日本国内のマスコミは

法的にはどうなるのでしょうか?

会社としての法的責任は?

社長個人の犯罪というより、経営幹部全体、というより企業による犯罪と言うべきでは? 

親族が経営に関与し続けることの目的は何か? 

などと、あらゆる点について連日のように放送・報道しているはずである。しかるに、ジャニーズ創業者を刑事犯として正しく認識し、そう報道しているテレビ報道は皆無である。

一体、どうなっているのでござんしょう?

不思議である。

被疑者が既に死亡しているからこそ、積極的に取材をして、今からでも遅くはない、正しい報道をし、報道機関としての恥をそそぐべき局面ではないか。もしいまナアナアで済ませれば、「日本の報道機関は報道機関として力量不足、その資格がない」という烙印をBBCか、CNNか、その他の米紙、英紙、仏紙辺りから、そんな烙印をダメ押しされてしまうのではないだろうか。万一にもそんな仕儀になれば、文字通り「恥の上塗り」ではないか — その方が日本政府には好都合かもしれないが、日本人としては何だか恥ずかしい。


ちなみに、テレビでは過去の被害者に対するジャニーズ事務所の《補償》を話題にしている。が、これも言葉の誤使用である。

少しネットを調べれば、あるいは大学で基礎的な法学を勉強していれば、《補償と賠償》の違いについて

よく両者は混同されますが、「補償」が適法な行為によって生じた損害について損害を填補するものであるのに対し「賠償」は違法な行為によって生じた損害を填補するものです。 つまり原因となる行為に違法性があるかないかによります。

この位の初歩的知識は持っているべきである。被害者は「犯罪」による被害者であるから、受け取るのは補償ではなく、(損害)賠償である(たとえばここを参照)。

先日、本ブログでも

どうやら創業者による性加害行為による被害者は数百人というオーダーに上るようである。おそらくもっと多いのだろう。これらの被害者の全てが把握できるかといえば、被害者本人が名乗り出ない可能性もある。ここが非常に不透明である。なので、被害を名乗り出た人たちに対してのみ損害賠償をするとしても、公平性が担保されない可能性が高い。問題点はいつまでも残り、傷が化膿するように企業イメージを毀損し続けるであろう。

こんな投稿をした。 

テレビでは「補償」と言っているので「変だナア」と思っていたところだ。


今回の事案は創業者社長が社内で長期間にわたり同種の犯罪行為を反復して実行したという大規模性にも特徴がある。

何十年という長期間、社内で「社長による強制わいせつ罪」が反復して行われ、それを周囲の人々が知っていながら敢えて放置したということから、そこには「常習的犯行の継続」を隠蔽しようとする<意図の存在>、<共犯者の有無>、<社内全体の共犯性の認定>も関係してくるわけで、これも線引き、というか要確認点である。

思うに、犯罪継続期間の長さ、被害者が驚くほどの多数である事、エンタメ市場における優越的地位を利用した周到なマスコミ対策などを考慮すると、今回の件は「社長個人の犯罪」ではなく「社長と側近たちが企てた企業犯罪」と観るべきではないか、と。主観的には、そんな風にも感じられてしまうのだ、な。

言い換えると、コンテンツを編成する国内TV各局は、「警察公認の反社会的組織」との交わりを一切断ち切りたいがため、「非公認の反社会的企業」とは親しくした。そして日本国内のメディア各社はそんな実質的には反社会的な企業経営の中に取り込まれた。最後には(BBCがこの春に放送しジャニーズ社が事実を認めるまでは)身動きがとれなくなった。本件の図式はこんな風に総括するのが適切でないかとすら思われるわけだ。


故に、これらを考えれば、

タレントには罪はない

等々の議論をいま繰り広げるのは、まったくノー天気な話ではないか。

もしもこうではなく、

すべてのタレントには罪はまったくない」と言うのは正しいか?

という問いかけであるなら、まだ分かる。

ではあるが、あった事実の犯罪性、反復性、規模、国際感覚などを考慮すれば、いま繰り広げるべき話は

この犯罪行為をなぜ長期間放置したのか? 

日本社会の感覚に何が欠けていたのか?

こういった問題意識に焦点が合っていないところに、日本社会の特異性がある。その特異性を海外に向けて(改めて?)宣伝するようなことは止めた方がよい。

「罪のないタレント」は然るべき別の組織とやり方で救済するべきだが、まずいま為すべき事は《見逃してきた犯罪》を裁くということだ。BBCによる報道でも、日本のメディア業界内部で《著名な社長による犯罪》が長期にわたり報道されないまま放置され、結果的に犯罪者が法廷で裁かれないままに「畳の上で」人生を全うした。日本人はこれを《痛恨の失策》と認識してはいないのか?、これが批判されている最大のポイントであったはずだ。

敢えて政府側の手落ちを挙げるとすれば、最高裁判決でジャニー社長の強制わいせつ行為が認定された段階で、それでも同氏が社長に居座り続けたジャニーズ事務所という会社を、なぜ法務省人権擁護局は監視下に置かなかったのか?なぜ警察は内偵を怠ったのか? 最高裁判決に対してジャニーズ社が示した不誠実な姿勢に対して、司法の不作為はなぜこれほど長く続いたのか? それが日本社会の低層で「人権侵害」が蔓延する背景になっているのではないか?日本社会はなぜそんな社会であり続けているのか?

一体、

《人権》とは具体的にどういう意味なのか?

あなたは幼稚園児でも分かるように説明できますか?

議論するべき点は多い。

目に見えない地雷は、いつかの時点で、爆発して関係のない人を傷つける

今となっては後知恵であるが、正に『後悔、先に立たず』と言えるだろう。

【加筆・修正】2023-09-23、09-24、09-26

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