2024年3月21日木曜日

ホンノ一言: スキャンダルはあれど、「論戦」、「激論」がなぜ起こらない?

アメリカの政治と政治を取り巻く専門家集団を観ていて、時に羨ましいのは、そこに対立する二つの正反対の政治プログラムがあり、それぞれの提案について、自らが立つ立場を明確にしつつ―『これが国民のためになるのです』などと空虚な発言をせず―堂々と意見をオープンな場に公開し、批判を堂々と受けて反論する、そんな政治のルールが徹底されている所である。

これが、プラトン以来の《対話》、つまり質問と回答、攻守を逆にした逆質問と逆回答を繰り返す《相互批判》が真の知識に至るための唯一の正道であると考える西洋文明というものかもしれない。師の教えを傾聴する「師事」だけでは知識が増えるはずはない。これが理屈である。


アメリカだけではない。イギリスでも保守党と労働党は明確に政治路線が異なる。フランス、ドイツは多党が分立していて、その時々で異なった政党編成になったり、連立政権となるので、何だかスパゲッティ状況になっているが、それでもドイツの社民党とCDU・CSU、緑の党は主張がハッキリと違って具体的である。有権者は、対立する提案をみて、投票先を決めるのである。

日本政治が選択しつつある(?)二つの対立的方向と言えば、せいぜいが

原発を将来も維持するか、脱原発を進めるか?

マア、この位が意識されているだけだろう。そして、一方の現実として、経済成長軌道に復帰したいと願う日本には、エネルギー供給能力のボトルネックが迫ってきている。

論争が起きて当然の社会状況にあるはずだ。が、何だか静かなのだ、な。

論争は「分断」とは違いますゼ。「意識統一」、最近流行りの「価値観の共有」なんて民主主義ジャアありませんぜ。だから思想、信条は自由だと憲法に書いている。

どうやら日本社会は、戦前期・日本と同じで、民主主義をどう運営するかで、気迷い状態に陥っているのだと思う。 「合意」を最終到達点としたい日本社会の弱点がここにある。

交渉する二人なら「合意」か「決裂」を選べばよい。しかし、極めて多数の社会人が「合意」するなど非現実的だ。かと言って「決裂」すれば社会的不安定が生まれる。なので、一定期間だけ、一方の勢力の提案を採る。一定期間だけなら、という点に合意する。経験の蓄積に伴って、知識レベルも上がる。それに期待しよう。これが民主主義だと理解している。


そのアメリカも、社会保障、医療保障をどう維持するかでは苦悩しているようだ。KrugmanがNYTに寄稿しているのも、トランプとバイデンという今秋の大統領選挙を戦うことになりそうな二人の候補者の構想を比較して、いかにトランプ候補が危険な候補であるかを力説するものだ。

例えば、こんな風に締めくくられている。

So will Social Security and Medicare be on the ballot this November? Definitely. Biden has a clear plan to preserve these programs; Trump, wittingly or unwittingly, would probably help wreck them.

Source: The New York Times

Date: March 14, 2024

Author: Paul Krugman

URL:  https://www.nytimes.com/2024/03/14/opinion/trump-biden-social-security-medicare.html

Krugmanは、ノーベル経済学賞を2008年に授与された純粋の経済学者である。

日本の経済学者がここまで明確に、ある政治家が提案する政策を評価し、それと同時に別の政治家の構想をこきおろす評論を、大手新聞に載せるだろうか?

ずっと以前には、現代経済学(=いわゆる「近代経済学」)とマルクス経済学が対立していて、問題認識も政策構想もまったくの対立状態にあった。と同時に、現代経済学の専門家の間でも、たとえばバブル景気をどう認識するか、不良債権をどう解決するかで、喧々諤々の論争が繰り広げられた。直近の数年において、そんな百家争鳴、百花斉放とも言うべき論戦が、政治家や専門家の間で展開されているだろうか?寡聞にして聞かない。何だか、一つの方向に収束させたい共通の願いが見え隠れしている。それほど日本社会は、分断が嫌いで、合意が好きなのだろうか?一体なぜ、と感じる。

分断は常に存在する。合意などはその場限りの、あるいは強いられた虚構である。そのリアリティを直視することから為されるのが「政治」という努力である。

そう思いますけどネエ・・・


足元では、「日本病」とか、「人出不足」に加えて、「エネルギー問題」も未解決なのである。年金支給開始年齢も引き上げざるを得ないだろう。育児支援の財源も中途半端だ。

基本的な事は後回しにして、結局は何も考えない政治家がいる一方で、今するべき論戦を後回しにしている専門家集団が、いる。社会の閉塞状況をみて、自分の無力に立ち尽くしているような政治家の周りで、専門家が日常業務に勤しんでいる。どうもそんな情景を連想したりする。

杞憂なら幸いだ。

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