2011年11月25日金曜日

国債は窮極の不良債権か?

ドイツの国債入札不調で欧州危機は新たな局面に入ってきたようだ。健全財政、インフレ防止姿勢の権化とも形容できるドイツですら、国債札割れを起こす。ここまで国債が金融資産として忌避されているのはなぜか?

いうまでもなく国債は民間企業の社債と同じく債券の一種である。それは弁済を請求できる債権を証明する証券なのだが、国債には返済不能に陥った時の担保が債券価格に応じて設定されているわけではない。国債が予定期日に償還されない場合でも、債権保有国が債務の弁済を求めて提訴する先はない ― 提訴受付機関として唯一資格(?)のありそうな組織はIMFくらいだが、ギリシア国債、イタリア国債等が返済不能に陥った時に、資産差し押さえに動く気など、当のIMFにもさらさらない。国債というのは「ただ信じてくれ」という債券である。日本の歴史で言えば、豪商が藩に融資した<大名貸し>が類似の例であろう。もちろん欧州にも類例はあった。

本来なら、債務を弁済できないときは、担保を差し押さえられ、それでも不足する時には損害賠償請求を受けることになり、その請求に即時に対応できないときには破産宣言を行った上で、返済スケジュールを再設定してもらうわけだ。債務弁済のリスケジュールは、いかなる種類の債務についても、支払が危機に陥った時に必ず行われる。担保に対する所有権を失うことも覚悟しなければならない。では、ヨーロッパに端を発するソブリン危機において、国債償還は担保されているのか?

担保されてはいない。なぜなら国債を返済する能力を喪失した時に、国債発行国は実物資産を売却し、それでも不十分ならば国土を外国に売却してでも返済する意志は持ってはいないからだ。せいぜいやることは、不換紙幣を増発して、返済のための国債発行を行ない、資金繰りをつけるだけのことだ。しかし、それはインフレか為替急落を通して、実質的には何も弁済しない行動と同じである。もしも、国土や歴史的建造物を海外に売却してでも返済を確約している国債、いわば<担保つき国債>を発行していれば、国債が債務危機をもたらすことはない。もしも国債残高対GDP比率が上昇し続け、国債償還に懸念が持たれるようであれば、追加担保を求めればよいという議論にもなる。もしもこうした議論を行なっていれば、ギリシア危機はなかった ― その代わりにギリシアという国は、国まるごと、ドイツなどに買収されるだろう。それはフランスの国益と衝突し、ドイツにとって実行困難だ。しかし、解決策はこれしかない。

多数国が、その国ごとに不換紙幣を発行し、加えて国ごとに国債という債券を無担保で発行できる金融制度をとっている場合、債務国は常に不換紙幣を増発し、為替レートを切り下げる誘因をもつ。債務国が信頼を裏切るとしても、有効なペナルティを信頼を裏切った国に対して行使できないからだ。その債務国が、債権国と深い国際関係にあるとすれば、全体組織を崩壊させるほどの報復を債務国に対して実行することはできない。

国債といえばアメリカ国債についても同様だ。米債保有国はドル高への誘因をもっている。債務国であるアメリカはドル安への誘因をもっている。双方に合理的であるのは、安定した通貨を維持することだが、当事国の利己的動機を考えれば、それは安定的なナッシュ均衡ではない。

そもそも実質価値が制度的に確定された国際的統一通貨なくして、国際金融市場を運営するのは極めて脆弱(Vulnerable)である。何に対して、脆弱かといえば、個別国家の利己的動機に対して無防備なのである。資金を受け入れた国は、必ず為替相場を安めに誘導する動機をもつ。故に、債権国は債務国を信頼できないのである。19世紀の自由資本主義の時代には金本位制度の下、一定のハードカレンシーに支えられていた。欧州にはEUROという統一通貨がある。しかし個別国家が無担保の債券を発行する権限を認めていた。個別国家をただ無担保で信頼するのみであった。債務弁済を強制する制度的メカニズムに欠けていた。こうした状況では、個別国家は必ず相互信頼を裏切る誘因をもつ。裏切ったほうが絶対に得だからだ。欧州危機は、個別国家の無責任でいいかげんな行動を予防するメカニズムを持たなかった統合組織からもたらされた必然的危機である。

本日の日経朝刊に紹介されているように、10月28日以降の株価変動率は
イタリア: ▲16.4%
スペイン: ▲16.1%
フランス: ▲15.7%
ドイツ: ▲14.0%
香港: ▲10.4%
日本: ▲9.8%
アメリカ: ▲8.0%

このように、欧州の株価暴落ぶりが際立っている。これは統合組織としての不完全性があらわになったEUを世界が見る不信の念にほかならないが、結果としてユーロ安を誘い、EUに「逃げ得」を許す道を提供するだろう。その一方で、EUは<評価と名声(=Reputation)>という資産を代償に取り崩すことになる ― その名声あるが故に中東産油国の資金を吸収できたのだが、この話はまた改めて記したい。大体、EURO圏に英国は入っていない。

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