2012年1月2日月曜日

絶対安全圏確立 → 自信過剰 → 独善という失敗の方程式

八木アンテナは日本人による独創的成果として余りにも有名だ。この指向性アンテナは日本国内で活かされることはなく、レーダーの技術基盤として英米で応用され、日本の敗戦の一因をなした。

今月号のハーバード・ビジネス・レビューは結構面白い。年頭は日本人著者による特集を組む習慣になっているのか、今年も特集テーマは「検証: 失敗の本質 ― リーダーシップ不在の悲劇」である。昨年の1月号は「検証: 失敗の本質 ― 日本軍・戦略なき組織」だったから、2年連続で失敗の本質を問うているわけだ。2011年3月11日とその後の政府の周桑狼狽ぶりをみたいま、実に時代に適合した編集方針であったことがわかる。

その今月号に掲載されている杉之尾宜生「失敗の連鎖: なぜ帝国海軍は過ちを繰り返したのか」の結論は以下のようだ:
科学技術の分野を見ても、あらゆる手段を用いてこれを有効活用する体制を築いたアメリカに対し、日本は、成功体験にこだわるあまり大局を見ることができず、有限であるヒト・モノ・カネなど諸資源の有効な戦略的運用を誤った。(41ページより引用)
ま、このくらいの後知恵なら、何という事はない。これは面白いなと感じたのは次の箇所。
これを総括して、コンプトン・レポートは日本の敗因を次のように断定した。「日本の軍事指導者が疑いもなく独善的で、自信過剰な態度をとり続けたことにある」。(同)
このコンプトン・レポートとは昭和20年9月、占領軍の科学情報調査団長を務めた物理学者でMIT学長であったカール・テイラー・コンプトン博士が、日本の敗因を分析した報告書のことである。日本の敗戦直後の段階で既に、他ならぬ日本国内に存在した有用な資源でさえも有効に活用することができなかった日本の指導者の行動特性に着目したわけである。自らの癖に気が付かないというか、余りにも明瞭な欠点に映ったのだろう。

上のコンプトン・レポートの結論で、「日本の軍事指導者」を「東京電力の上層部」と置き換えてみれば、敗戦の原因ではなく、原発事故の原因がどこに所在していたかまでをも示唆してくれるだろう。

第二次大戦の劈頭、シンガポールを陥落させた日本軍は"SLC Theory"と書かれたノートとある機械を発見した。これは電波探知機ではないかと日本軍はにわかに緊迫し、ノートを見ると"Yagi Serial Array"という用語が頻出している。捕虜に「Yagiとは何か?」と詰問したところ、その捕虜は怪訝な表情をして、このアンテナを発明した日本の研究者の名前であると答えたよし。自分たちの知らない間に、敵国が自分たちの技術を応用して新兵器を作り出していた。この事実を知って愕然としたらしい。(参考: 38ページ)

いま改めて愕然とするのは、それ以降も、日本の指導部は何ら閉鎖的な姿勢を変えなかった事実である。そして一層がく然とするのは、日本の指導層の行動特性が戦後もずっと変わらないまま2011年3月11日を迎えたことであった。危機に際した時の現場の日本人の冷静沈着さも変わっていなかったが、指導層も昔のままであったというのは驚きに値するし、この点をこそ分析するべきである。

× × ×

日本の組織が、同じタイプの失敗を繰り返す原因は特定できるはずだ。論理的には、戦前から戦後に伝わった<日本的組織運営>に固有の特性が何であるかを突き止めればよい。組織は戦略を実践する器である。日本的組織の裏側には、日本的戦略決定がなければならない。小生思うに、それは<自給自足>というより、<自存自衛>。そのための合意作りと数々の申し合わせの一筆。細部を磨き上げて完璧を求める心性もこの辺りに源があるのじゃあなかろうか、小生自身は何となく、そんな勘がするのだ、な。発明を「物騒な凶器」、提案を「皆を惑わす妄言」としてしりぞける「失敗の方程式」は、この辺の心的特性に隠されているのではないか。日の本の小天地で和を実現する絶妙なバランス作り。これこそ大事だと言うわけだ。

であるなら、ズバリ、<状況主義>。故に、毛を吹いて傷を求むる行為を最も嫌がる特性が現れてくる。悪い片面が出ると<機会主義的>にもなる。必然的に<法>は脆弱になりますわな。理屈はこうなると思うがどうだろう。とすれば、指導層の「独善」は、そう見えて実は<カゼまかせ>であったのかもしれない。何せ室町時代にはオミクジで次期将軍を決めたこともあったのだから、吹く風に神意を読んでしまう心理がある。戦前日本の海軍は理屈よりも和を重視したとも言えるし、東電は東電で理屈はわかっていても「原発は実は危険だ」とは到底言える雰囲気ではなかったのだろう。とすれば、いや全く、実に日本的なカゼがふいていたことになる。

保つための八木アンテナとレーダーとの関連が大分希薄になったのでこの話題は改めて。

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