2012年1月9日月曜日

マスメディアの負の付加価値 − 一つの典型

共同通信のアンケートによると、社会保障と税の一体改革大綱には、45.6%の人が賛成で、反対は52.9%であるとのこと。特に説明不足と回答している人は約75%。そんなこともあって、内閣支持率は不支持が50.5%、支持が35.7%という数字になった。

やれやれ、「説明不足」ですか・・・

そもそも現行の所得税の累進税率や諸控除の知識はどのくらい持っているのだろうか?天引きではなく、確定申告をきちんとしている人はどのくらいいるのだろうか?介護や福祉についてどの程度の知識を持っているのだろうか?というか、自宅の薄型TVの全ての機能は頭に入っているのか?パソコンは?自動車は?ネット通販で売り手の情報をきちんと収集しているのだろうか?医師に診断を請うたときに、どの程度、投薬された薬や治療方針について理解しているのだろうか?

いや全くきりがないなあ・・・

こうした問題は経済学では<情報の非対称性>という。相手と自分とでもっている情報が違うときは相互不信に陥りやすい。たとえば中古自動車市場ではボロ車(=アメリカではレモンという)が混じっている。その分、ボロを買ってしまうというリスクが意識されるので、価格はどうしても低めにおさえられる。売る側からすると、もう少し高く買ってもらいたいという不満が生じやすいわけだ。そもそも会社の中にもある。部下は仕事の進展をよく知っているが、上司は間接的にしか知らない。こういうとき、上司は悪意で部下を評価しがちだし、部下は手を抜く誘因が生まれる。情報ギャップは相互信頼の敵なのである。

提案されたばかりの税と社会保障の一体改革大綱など、よく理解している国民は半分もいないでしょう。当たり前ではなかろうか。総理や大臣が辻説法をするまで、待てというのかなあ。そもそも官庁の<記者クラブ>は何のためにあるのか?新しい政策の意図や狙いを、国民に向かって、丁寧に何度も解説し、国民が<説明不足>などと感じないように報道するために存在するのではないのか?不足している情報があるなら、それを読者に代わって、政府に要求する。まさにそのためにこそ、外部の報道機関を排除して、閉鎖的かつ独占的な取材活動を認めてもらっているのではないのか?

「何だか、反対みたいですよ」と、「不支持の人が増えているみたいです」と、どうみても小生の目には、この種の報道姿勢によって社会は集合知を形成するどころか、相互不信の泡が発生し、世論は方向感覚を失い、情報の共有化が阻害され、混乱し、結果として社会の安定ではなく不安定化に寄与しているようにしか思えない。経済用語で言えば、日本のマスメディアは負の付加価値を生産している。負の付加価値を提供しながら、決算としては利益を計上しているとすれば、それは公害を内部化していない企業が得る不当利益と同じである。分かりやすくいうなら、こんな無責任な報道はないほうがいい。形だけは数字の情報になっているだけ始末が悪い。むしろ、記者クラブを解散し、参入を自由にすれば、報道の力量コンペとなり、国民が知りたいと願う情報とコンテンツが効率的に生産されるのではないだろうか?もちろん悪質なデマも流通するだろうが、それを否定する良質の情報も提供されるだろう。最終的には、客観的な事実が少数者の思惑を抑え、集合知としての世論が形成されるというのが、ジャーナリズム市場成立の根拠であるはずだ。

取材現場の担当記者とデスクは、中身がエンプティである世論調査にムダな資源を投入せず、新しい政策の中身を自ら吟味し、まず自分たちが正しく理解し、多くの専門家の意見を聴取し、社会全体として政府提案に対してどのような評価が形成されつつあるか。それをこそ、速やかに報道するべきだ。そのために時間と費用と人をあてるべきだ

しかしながら、寡占化された取材に慣れきった日本のマスメディアには、既に良質の報道を支えるに足るマンパワーが不足している可能性がある。政府は、速やかに記者クラブという閉鎖的なチャネルの有効性に見切りをつけ、自由で開放された新チャネルを通して必要な広報活動を進めるべきである。

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