東京電力と政府は公的資金を使った資本注入後の東電について、火力発電部門の分離・売却を軸とした経営形態見直し案の検討に入った。東電の発電能力の約6割を占める火力部門に外部資金を導入し、コスト圧縮にもつなげる。残る原子力などの発電や送配電、販売などの各部門は経営透明化のため社内分社による独立運営とする案が有力。これまでの発送電の一体運営を一部見直す形となり、電力市場の競争が本格化する。(出所:日本経済新聞1月23日朝刊)記事によれば東電本体には水力、原子力、送配電、営業サービス部門が残り、機能別にそれぞれが独立カンパニーとなる。東電本社は持株会社になるのか。この個別カンパニーで最大の資産規模を持つのが送配電部門だ。記事に引用されている資産額を引用すると水力、原発、送配電それぞれ6600億円、7000億円、5兆500億円。資産収益率が部門ごとに一様であれば、利益の大半は送配電事業から得るという理屈になる。燃料コストの上昇傾向が見込まれる火力部門(6600億円)は、他企業との競争、M&Aに委ね、というかリストラをして、送配電事業をプロフィットセンターとする。正に<選択と集中>、そういう構想のようだ。
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顧客は、独立系の火力エネルギー価格と、東電が遠隔地から引っ張ってくる原発・水力エネルギー価格を比べて、いずれか安い方から買うという行動をとるだろう。東電の遠隔地エネルギーが安価であれば、独立系事業は競争力は持たないが、超過需要があれば限界費用で市場価格を決められるので東電には超過利潤が形成される。しかもそれは独占利潤ではないという理屈になる。東電のキャッシュフローは賠償負担に十分耐えられる。多分、今回の経営見直しはこのような経済メカニズムを期待しているのだろう。
とはいえ、東電が保有する原発施設は福島県、新潟県、青森県ですべて遠隔地である。福島原発の再稼働は多分半永久的に無理だろう。新潟柏崎、刈羽原発も再稼働には多くの困難がある。青森東通原発は建設して無事稼働できるのか?いずれにしても原発安全投資を行ってはじめて稼働できるのではないか。その投資負担がある。というより、民間企業の事業として原発事業を継続することは政治的に可能なのだろうか?
売電収入が低調であれば ― これも電気料金を完全に市場で決めるのか、規制料金にするのかでどのようにでもなるが ― まさに100%送配電収入に依存せざるを得ない経営体質になるだろう。その送配電施設は、重複投資を避けるという理屈の下に民間企業である東電本体が独占するはずだ。送配電設備の使用料金は、東電が負担する損害賠償債務支払い額を上乗せした独占価格に設定される可能性が高い。そのように高い送配電使用料を独立系発電事業者が負担すれば、いくら競争原理の活用でコストを節減しても、首都圏内のエネルギー価格抑制には焼け石に水だ。首都圏内の製造業空洞化が急速に進むことは間違いがない。それを防止するには、規格統一の名の下に全国の送配電網を電力会社から切り離し<送配電事業公社化の検討>を俎上に上げざるを得ない。もしそうなれば、福島原発事故の損害賠償は、送配電設備の使用料負担を通して、まさに全国民、全企業が支払うという結末になろう。そうなれば首都圏内の製造業空洞化ではなく、日本全体の製造業空洞化を加速させることになる。
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大事なことは、福島原発の損害賠償コストは<サンクコスト>であって、世界市場においてはどう工夫をしても回収不能である点だ。損害賠償コストは、電力原価には含めようがない以上、商品価格・サービス価格にのせてとることは土台無理である。無理を通すには独占を維持するしかない。その独占は、首都圏だけではなく、全国を網羅するしかない。しかし、そうすれば企業は日本から脱出するだけなのだ。
原発事故による損害規模は民間企業が負担するレベルを超えている。速やかに清算し、従来の事業を継承する新組織を設立し、それでも残る賠償債務はエネルギー計画を推進して来た国が責任を負うのが筋である。そのためにエネルギー事業のうち、必要な部分を国営事業とし、その公社が送配電事業以外の関連事業 — ほぼ察しはつくだろうが、たとえば既存電力会社の超過利潤吸収は当然のことになる、その場合、市場を自由化しておけば電力料金の上昇圧力にはならない — を行って利益をあげ、利益から福島原発事故の補償を進めていく。選択肢としては、このような方向しかないのではなかろうか。そうでなければ税である。それも電力税では資源配分のロスが大きい。一般財源を使うしかないのだ。しかし、それは国民の容認する所ではあるまい。だから国が営利事業に参入して、税以外の財源を創出するしかないのだ。営利事業のビジネスチャンスは、新たな規制が生み出しうること、言うを待たない。もちろん日本社会が、<背に腹は代えられぬ>ということで、そうした国による営利事業を容認することが前提ではあるが。要は、税以外の財源創出の工夫の余地はいくらでもあるということだ。それ以外に、原発事故による広範な地域の損害賠償を支払うことが可能だろうか?
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