2012年1月5日木曜日

新春、エコノミストの予測は?

今日、大学へ来て見ると年末、年始に発行された週刊エコノミストが入っていて、「ああ、そうだったか、世の中全体、2012年度経済見通しで賑やかだったのだな」と。現場にいると時に胃が痛くなるようなストレスもあったわけだが、のんびりした教師生活を送っていると、「言ったとおりになるか、ならないか?」、専門家にとってはギリギリの切所も、単なる教材提供源となるわけである。むしろ大間違いを演じてくれると、専門家の悪しき分析例として貴重なケースになってくれるわけだ。

さて12月27日新春特大号の26ページには、民間16機関の2012年日本経済見通しが表になっている。実質GDP成長率をみると、最高がUBS証券の2.5%、最低がシティグループ証券の1.1%だ。年間で1.1%成長と2.5%成長の違いは、大多数の企業、消費者には実感できないだろうなあ、とは思う。間をとると、中位予想で1.8%程度とみているのが民間エコノミストである。実際、5機関が1.7%成長とみており、これがモードになっている。他方、名目GDPは最高で1.7%、最低が-0.2%。間をとると0.75%。ということは、GDPデフレーターでみる物価下落率は概ね1%程度というわけ。10年で100が90にまで落ちるという意味では、これまでと同じ度合いのデフレーションがこれからも日本経済を蝕む。 - 先進国では唯一日本だけに見られる現象であり、それは治らぬという予測でありますな。「治りませんなあ」と予測ばかりをする医師がいれば、これは医師という職業のモラルに違反していると思われる。医学とは異なり、経済分野では予測、提案、治療がいわば分業体制にあって、相互にあまり連携はない。それがマクロの経済運営のありのままの実状である。

資産を事業投資しても、最初から1%のマイナスバーを課されているようなものだ。これでは例えゼロ金利でも国内の縮小市場では勝負できまい。海外市場をターゲットとするしかなく、そのためには海外に生産拠点を移して、割安の生産要素を雇用するのが利益拡大には一番の選択肢になる。海外投資は、生きるために火事場から脱出するのと同じ理屈になっている。

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以下、各論。

為替相場(by 尾畠未輝、三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究員)は1ドル80円前後で高値横ばいが続くだろうという予測。企業収益は悪化するので、設備投資も減少する。ただし、減少するのは国内設備投資である。海外投資は期待収益率が高い。生産拠点を移せば、コスト劣位からコスト優位へ立場を変え、望むターゲットに輸出できる。そのターゲットには当然、流出元である母国日本も含まれている。雇用を失う40~50台後半の従業員は大変だが、雇用動向とは関係のない資産階層、既退職・年金受給階層にとっては、海外から低価格で出荷されてくる新体制はウェルカムのはずだ。国内企業にとっては、海外移転=利益拡大機会。これがコインの片面だ。それにしても、製造業以外の就業機会を創出しないと大変なことになる。

国債は利回り上昇懸念、内外市場の不安定化を心配している(by 徳岡喜一、国際通貨基金アジア太平洋局エコノミスト)。ただ、もしこれが事実なら、円高基調継続とはならないはずだ。同じ国債不安定化に対してより抵抗力をもっているのは円よりも、ドルであることは確実だ。日本国債の償還、消化状況にいささかでも不安が感じられれば、円安、ドル高になるのは必定。

金融政策(by 矢嶋康次、ニッセイ基礎研究所主任研究員)は、ゼロ金利の継続に加えて、資産買い入れ拡大を予想している。特に(文面には明記されていないが)東日本大震災関連で資金繰り、更には財務状況が非常に悪化する企業が今後増えるのではないか。震災復興をめぐって、政府の資金需要(=国債発行)と民間の需資が競合するような局面が出てくると、これは確かに国債不安が高まる背景となり、ゼロ金利は維持できず、維持しようとすれば、マネーサプライ増加となり、デフレからインフレに逆転するきっかけになるやもしれない。いずれにしても、今年一年は欧州のみならず、日本も金融市場が一つの鍵である。

税と社会保障は? ― これは景気減速を覚悟して踏み切るしかない。エコノミストの最大公約数的な見解でありまししょう(by 白石浩介、三菱総合研究所主任研究員)。

TPPは? ― これはTPP自体というより、ASEAN+6、FTA‐EPA、TPP+FTA‐EPAをも並行して議論して、中国をコアメンバーとして含む貿易圏を構築するか、アメリカを主軸とした貿易圏を構築するか、そのどちらに日本はコミットするかという話になる。いずれ国家戦略上の選択を迫られるはずの、とっくに予想されていた政策課題が一つ顕在化したケースとして、受け止めるのが正しい。(by 熊野英生、第一生命経済研究所首席エコノミスト)

子育て、放射能もあって課題は山積。政権運営能力のある組織(=政党?)、政治家が国内にいるのかどうか。これもまた、上の話題に劣らず大問題だ。

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