2019年7月13日土曜日

断想: タバコと猫のリスクについて

大学に戻るまでは小役人生活をおくっていた。その頃は、机の上には灰皿が置かれていて、電話で折衝する際もストレス防止のタバコが不可欠であった。灰皿の中で吸い殻が山のように増えていくのは必然であった。その時代、吸い殻の山をみても誰も何とも言わなかった ― 嫌煙者は嫌な思いを我慢していたんですと、リベラル好きな人なら多分反論するだろうが。

「時代」というのは変わるものである。

37歳になって大学に戻り、タバコの必要性は減った。折衝ごとからは解放された。授業では禁煙だ。何より一人ずつ与えられている研究室は狭く、タバコを吸ったあとの不快な臭いがこもりやすくなる。それに紙巻き煙草に含まれるタール成分。それが肺がんを誘発する効果を無視することはできなかった。なぜなら大学に戻って2年目に亡くなった小生の母は肺がんが原因だったのだ。母は、しかし、喫煙者ではなかった。夫である父は確かにタバコを吸っていたが、終日、タバコの煙を傍で吸っていたわけではない。

亡くなったとき母の実弟である叔父は『お義兄さんが亡くなってから君のお母さんは猫を飼うようになっただろ?猫をそばで飼っていると肺がんを誘発するということを私は聞いたことがあるんだ。うちは癌の家系じゃないし、姉さんはタバコも吸わなかった。猫が原因じゃないかと思うんだよ……』。父が亡くなったあと、淋しさを紛らわすため何かペットを飼うように勧めたのは小生である。

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「もういいんじゃないか」と思って、最近になって電子タバコ(プルームテック)をふかすようになった。電子タバコは有害なタール成分をほぼ全て除去している。肺癌を誘発する作用はないと言明してもよい。

しかし、それでもニコチンはやはり含まれている。そのニコチンが有害であるというので、電子タバコを禁止するべきであるという提案が専門家から多く寄せられているようだ。

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小生は寡聞にして、喫煙が原因になって交通事故を引き起こしたり、運転ミスをした事例を聞いたことがない。頻繁に聞くのはタバコではなく酒である。飲酒は時に暴行事件の契機にもなるのではないか。また、世間はアルコールが健康に及ぼす害について大らかである。アルコール摂取が誘発する肝硬変、肝臓癌は患者を大変悲惨にする。本当は<禁酒法>を立法化し、施行したほうが善いのだ。

しかしながら、こんな思考に沿っていけば『猫を室内で飼うことは肺癌を誘発する』という指摘を今でもネット上で見ることもあるくらいだから、その正否について科学的検討を加えてみるべきだろう。『猫にはリスクがあるが、犬ならよいのか?』、『小鳥を飼うことに健康上のリスクはまったくないのか?』等々、健康リスク上の疑問は本当は数多くあるのだ。にも拘わらず、近年のペットブームの中で隠れた健康リスクに注意する声は小さい。

電子タバコが本人や周囲に与える健康リスクを評価するには、世間が注目していない隠れたリスクも総合的に評価したうえで、客観的かつ科学的に行なわなければならない。その前に「長生き願望」と「幸福追求の自由」とのバランスを基本的問いかけとして世間でもっと話し合った方がよいと思う。大体、最近騒動になっている「年金問題」も「長生きリスク」への備えに発することでしょうが……、そう思われるのだ、な。

現代社会には一昔前には見られなかった独特の<バランスの悪さ>が浮かび上がっている。バランスの悪さは平和の持続にとっても非常に危険な傾向だと思う。

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