2022年7月19日火曜日

ホンノ一言: 上げても問題あり、下げても問題あり、では専門家とは言えません

 日本経済新聞と言えば経済専門紙だ。こんな記事がある:

世界の債券価値が急減している。今年1~6月の減少額は17兆ドル(約2300兆円)と、6カ月の期間では遡れる1990年以降で最大となった。各国の金融引き締めで債券利回りが急上昇し、利回りと反対に動く価格は急落した。債券市場が収縮し、債務に依存してきた世界経済が曲がり角に差し掛かっている。下落が続けば、国債を多く持つ金融機関の経営リスクも高まる。

URL: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB07B490X00C22A7000000/
Source:日本経済新聞、2022年7月19日 1:30 (2022年7月19日 5:07更新)

周知のように、債券の市場価格は、ザックリと言えば $$ 市場価格 \,=\, \frac{利息}{金利} $$

で決まる。

しかし、カミさんに『金利が上がれば自動的に債券価格は下がるンだよ。債券価格が下がりゃあ、株から債券にカネが流れるからネ、株価も下がる。これはもうネ、自動的にそうなるンだよ』と話しても、どうにも腑に落ちない様子だ。経済が分かるか分からないかは、金利と債券価格、株価の連動性が体感として分かっているかどうかで判別できるのが、面白い所だ。

上の式は、ひょっとすると

$$ 市場価格 \times 金利 \,=\, 利息 $$

と書く方が分かりやすいかもしれない。

毎年得られる利息は満期まで固定されているから右辺は一定だ。となると、左辺の金利が中央銀行の市場金利操作によって上げられれば、市場価格は下がらなければ両辺がバランスしない。市場価格が下がることによって、定額の利息と利回りとのバランスがとれるわけだ。

なので、アメリカのFRBが金利引き上げを行えば、債券価格は自動的に下がるし、株価下落にも波及する結果になる。

ということは、上げるのと反対で低金利政策をとれば、債券価格は上がり、株価も上がる結果になる。株価が上がれば株を多く保有している富裕層の資産価値が上昇し、資産分配の格差拡大をもたらす。債券価格も上がるので銀行も困らない。これは金利を下げることの自動的結果である。だから、それを格差拡大だと非難するのは的外れだと、「世間の非難」を批判したのはクルーグマンだった。実際、低金利にすることで金利収入は低下するので、資産分配ではなく、所得分配において格差は縮小する方向へ向かうはずだ。今は、金利を引き上げている。だから債券、株価は下がっている。しかし、金利収入は増えるのである。住宅ローン債務者の金利負担も増える。資産分配格差は改善されている理屈だが、経済状況としてどちらが善いか、判断はそれほど難しくはない。有資産階層でなければ金利は高いより低い方を喜ぶ理屈だ。

上の日経記事は、金利が上昇し債券価格が低下することで、債券を保有している金融機関にキャピタルロスが発生することを心配するものだ -- 日本国内では金利引き上げ路線はまだ選ばれていないのだが。しかし、金利が上がれば債券一般、株価一般を新規購入する資産家の投資利回りは上がる。新規投資を考えている人にとっては金利上昇期は投資のチャンスである。しかし、このチャンスは投資するべき元本を持っている資産家にとってのチャンスである。反対に事業を展開している企業にとっては金利負担は重しとなる。従業員にとっても決して嬉しくはないはずだ。とはいえ、金利が上がれば金融資産の評価額は低下する。資産家の資産額が低下するので資産分配格差は縮小する。株価上昇は格差拡大の象徴だと非難していた人は喜ばなければならない理屈だ。

金利を下げて株価が上昇すると「富裕層優遇」だと言って格差拡大を非難し、金利を上げれば上げればで、その自動的結果を「問題あり」と批判する。一体どちらがイイんですか、と。つまるところ、その時点の経済状況によって、適切な政策目標が決まる。目標が決まって、上げるか、下げるかが決まる。今はインフレ心理の定着を抑制する。それによってインフレ継続を防止する。だから金利を上げているわけだ。上げれば必然的にこうなるという結果を心配してみても仕方がないだろう。

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