中世の暗闇から脱出できたのは(自然)科学の誕生のお陰であるのは誰もが知っている。その中でも《天動説 vs 地動説》の激論は小生のお気に入りで、このブログでも何度か話題にしている。マスメディアと絡ませればどんな世相になるか想像できるというものだ。残念ながらコペルニクスやガリレオが生きた時代に拡声器のようなマスコミはなかった。
今日においては、全ての運動は相対的なものだから天動説と地動説とで本質的な中身の違いなどありようもなく、要は地動説に基づいてデータを解釈する方が、遥かに簡単である。そういうことに落ち着いているのだが、地動説が信仰を揺るがすトンデモナイ邪説であった時代は、たしかに現実にあったのだ。
愚かで、何の足しにもならない争いを最終的に消失させるのは、ただ人間の知識の蓄積だけが為しえることだ。逆に言えば、争いの種になる知識は本当の知識ではない。単なる思い込みである。こう考えるのが理屈というものだろう。
マスメディアというのは、誰かに聴いてほしい、読んでほしいというのが唯一の動機であって、何が真理であるとか、何が重要であるとか、正しい認識を形成するという目的とは最初から無縁なのだというのは、一貫して書いて来た点だ。たとえばずっと以前の投稿だが
しかし、まあ、ジャーナリズムというのはこんなものなのだろう。
いま天動説と地動説とが論争したとして、天動説を唱える学者が何百年ぶりかで現れたとする。
記者: 科学的には地動説が確立されているわけですが、敢えていま天動説が正しいと主張されるのは何故ですか?
学者: 月面に人間が着陸する時代になりましたが、地球は動いて見えましたか? 地球は一定不変の位置に止まっていて、月が動いているように見えませんでしたか?
記者: やはり地球は止まっていると、動いているのは太陽や月の方だと・・・
学者: 明らかな事実だと考えています。
記者: 中世ヨーロッパで激論になった天動説と地動説の対立ですが、どうやらまだ決着はついていないようです。どんな結論になるのでしょうか!?歴史的論争の行方が気になります。
こんな「報道」のあとに
政府高官は「地動説が唯一の真理であるとは言えない」、本日の記者会見でそう発言しました。
こんな話題をワイドショーで放送すれば、事の詳細を知らない世間では『理科の教科書に書いてあったことは間違いだったんだ』などと言って、大騒ぎをすることだろう。科学オンチからイデオロギー主導社会へはほんの一歩である。これが歴史上何度もあった文明の退化である。怖い、怖い……。
情報化社会であるはずのネット社会でも同じことが(やっぱり)起きている:
人間社会って、いつまでたっても変わらないんだネエ
これが感想。
もちろんトンチ科学クイズのようなものでエンターテインメントであるのは分かっている。が、思わず「エッ、そうなの?」と言う人も多いかも ― 一辺の長さが1の正方形に内接する円の円周と正方形の外周の長さを考えれば、直ぐにおかしいと分かる。
数学では一度証明された定理と矛盾した命題はすべて偽に決まっているが(でなければ「数学」にならない)、これが政治経済の話しになると、分からない。
二つある仮説のうち一方を「正しい」、他方を「邪説」にしたいと思う人間心理は、永遠に変わらないだろう。どちらも真ではありえないと疑う「懐疑主義」に徹するのは、これはこれで疲れるものである。
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