2019年12月28日土曜日

一言メモ: 「女性宮家」を新設すると変な話になりますぜ

相当以前にも投稿したことがある話しだが、時代、国境を超えて聴き手に受けること間違いなしの面白い話題が三つある。それは

第一に「旨いもの、まずいもの、変わったもの」。食事の話がくる。
第二に「贅沢、財産、城の大きさ、領地の広さ、富」。要するに、こんな金持ちがいるという話だ。
第三が「愛と憎悪」。お家騒動、仇討、復讐、跡目争いなどはこの範疇に来る。

さしづめ、今の皇室問題は上の第三に含まれるわけで、受けること間違いなしの話題であることは間違いない。

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いま「女性宮家」を中心に検討が進んでいるとのことだ。

内親王を民間に嫁入りさせることなく、生涯ずっと皇室に縛り付け公務を押し付けようという算段だろう。

まあ、宮家歳費として女性に報酬は支払われるのだろうが、ただ、どうなのだろうネエ・・・と思う。宮家から嫁いだ旧家の御簾中としてノンビリと暮らすことは出来なくなるという以外にも、色々と可笑しなことが発生しそうだ。

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例えば、日乃本太郎さんという民間男性と内親王が結婚するとする。内親王は宮家のままだとすると、その女性は嫁ではなく、故に日乃本姓を名乗らないことになる。

つまり「夫婦別姓」になるのだろうか?

いくら庶民の世界では名字の意味が空洞化し、戸籍上の名前、普段の名前が入り乱れて、滅茶苦茶になりつつあるとしても、皇位継承にかかわることは「家の継承」、「血統の維持」であるのは明白だ。とすれば、どの姓を名乗るのかという点は最も重要であろう。大体、何度も投稿したが「世襲による皇室」と「戦後民主主義」とは水と油の関係にあるのは直観でわかるはずだ。いまの世間の常識で理屈っぽく答えを出すと、それこそ皇室は滅茶苦茶になるかもしれない。

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その子はどうか?

女系の子孫は皇族ではないという現行の原則を通せば、その子は例えば日乃本次郎という名を名乗ることになる。仮に女系の子を皇族に認めるとしても、父が日乃本太郎なら長男も「日乃本次郎」と名乗りたい、と。そう希望する事態もありうるであろう。日乃本家には男子がいないので日乃本姓を名乗らせたいとする父側実家の事情があるかもしれない。それを禁止する法的根拠はないはずである。

そして、仮にその他皇族が絶えて、日乃本次郎氏が皇位を継承することになれば、それ以後は天皇の姓は「日乃本氏」に変わり、欧州の父方姓を王朝名とする習慣に従えば日本も「日乃本王朝」が始まることになる。そして、日乃本一族は新たに皇族として認知されることになるだろう。

実際、こうした変事は欧州でもあり、有名なところでは屈指の名門・ハプスブルグ家が18世紀の中頃、神聖ローマ皇帝にしてオーストリア大公であったカール6世の長男が夭折したため娘のマリア・テレジアが女性の身でありながら家督を継ぐことになった。ローマ皇帝にはなれないのでフランスのロレーヌ公(ロートリンゲン家)の息子フランツと結婚しローマ皇帝位はフランツが就き、ハプスブルグ家とオーストリア大公は娘マリア・テレジアが継ぐことになった。これ以後、ハプスブルグ王朝はハプスブルグ=ロートリンゲン王朝となり、第一次世界大戦敗戦で帝国が崩壊するまで続くことになる。帝国崩壊時、オーストリア国内で復位運動が拡大しなかった背景として、既に王朝がフランスのロートリンゲン家の血統に移行していたという点も挙げられてよいかもしれない。実際、マリア・テレジアによる女系継承に対してプロシアのフリードリッヒ2世(フリードリッヒ大王)が反対を唱えオーストリア領の一部シレジア地方を侵略した。即ち、オーストリア継承戦争である。この戦争で敗退したオーストリアは今度は戦備を整え七年戦争に打って出た。聡明な娘を愛する思いから女系継承をとったことから長期間の戦争がヨーロッパでは起きてしまったわけである。

家の継承は思わぬ紛糾を誘う一因になるということだ。

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こうした事態を避けるには、そもそも最初から婿の日乃本太郎氏が自身の姓を捨てて皇室に入ることにすればよいわけだ。だとすると、日乃本氏も皇族という扱いにしなければならない。ちなみに、上に述べたフランツ・ロートリンゲンは姓は捨てず、ハプスブルグ家の方がハプスブルグ=ロートリンゲン家と改名したのだが、領地であるロレーヌは捨てることになりフランス王国に返納した。フランスがロレーヌ地方に対する領有権を主張するのはそのためである。

内親王と結婚する民間男性・日乃本太郎氏は本当に姓を捨てて皇室に入るのだろうか?

そうするとすれば、要するにこれは古来とられてきた「入り婿・入り養子」と実質は同じになる。違うとすれば、全てを捨てて養子・婿入りするにもかかわらず、入った先の「主人」はあくまでも(家付き娘のケースは)妻の側である可能性が高い点だ。英国王室のように「△△公」といった貴族の称号を付与してくれるわけでもあるまい。更に、配偶者がもつはずの財産相続権を民法の規定通り持てるのかどうかすらも怪しい。何世代かの後いつの間にか皇室財産が日乃本家の私有財産に移っているという事態をさけるためである ― 皇統とは無縁の純粋民間人男性の場合は不確実な面があまりにも多い。イヤハヤ、「婿養子未満」の扱いになることはほぼ確実な想定とするべきであろう。

歴史的に縁の深い家から養子を入り婿として迎え「血族」(というと山口瞳の『血族』を思い出すが)の絆を守る努力は日本社会で広く行われてきた慣行である。暗愚な直系男子に継承する事の危険を避ける工夫でもあった。であるなら、女性宮家などと臨時・緊急的に宮家の数を増やして税金を使うよりは、既存の宮家に養子を迎えるほうが余程分かりやすい ― 勿論こうしたからと言って、徳川幕府12代将軍・家慶が暗愚な実子・家定よりも水戸家から一橋家に迎えた慶喜を偏愛した例もあるので御家騒動が起きる可能性は常にある。

以上色々と述べたが、女性宮家などと対立を招きそうな新手のやり方を創めるよりは、皇室・皇族の婿養子を解禁するほうがどうやら理に適うのではないか、と。そう感じられるのだな。

・・・これで御用納めとういことで。そろそろ年末・年始モードに入るとしよう。

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