2020年11月5日木曜日

大統領選挙の「1票の重み」を指摘する人がいるが……

 アメリカの大統領選挙は日本でもワイドショーの人気トピックである。日本にも多少の関係があるので、一種の「高みの見物」的な興味がある。もしもこれが日本国の運命を決めるほどの重要性をもっているなら、どのTV局も朝から晩までこればかりで一色になっているはずで、まあまあ丁度ホドホドに重要である話題、それがアメリカの大統領選挙であったのだろう。大阪都構想よりは日本全体に関係があるわけだし・・ということだ。

頻繁に聞くのは大統領選挙の仕組みについてである。特に、各州の選挙人を総取りするという間接選挙の成り立ちは、自民党総裁選挙を除けば、日本では馴染みがない。この方式のため、全米の得票率とは別の勝敗になることがある。前回のドナルド・トランプ対ヒラリー・クリントンのケースがそうだった。得票数ではクリントン候補が勝ったが、獲得した選挙人数ではトランプ候補が勝利したわけだ。

これについて『国民の得票数では勝ったのに、それでも選挙では負ける、これはおかしいということになっていくのではないでしょうか?」、「1票の重みに違いがあるんですよ」等々、この辺でアメリカの大統領選挙制度は民主的ではないという批判を語るTVコメンテーターが多いようだ。

日本人が『アメリカの大統領選挙制度は「民主的」ではない』と語ること自体が、どことなく漫画チックなのであるが、それも「一票の重みは完全平等であるのが真の民主主義」であるという大前提から選挙を考えているからだ。

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いわゆる「1票の重み」についてはずっと以前に投稿したことがある。

小生は、その国の選挙で1票の重みに違いがあるとしても、当たり前だと考える立場に立っている。

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大統領選挙は、人口が多い州には多くの選挙人が割り当てられているので、1票の重みへの斟酌は(十分ではないという理屈にはなるだろうが)されている。上院議員選挙になると、各州一律に2名であるから、1票の重みの平等はまったく考慮されてはいない。合衆国憲法に「各州平等」の規定があるのだ。

確かに、1票の重みという点では不平等だ。しかし、アメリカは(日本もそうだが)東海岸、西海岸などの大都市圏への人口集中度がかなり高い。人口比がそのまま投票の重みになるなら、人口希薄な地方は小さな政治的発言力しか持てないのが当たり前だという理屈になる。しかしながら、(これも最高裁判決を批判した以前の投稿で書いたのだが)地方では土地集約的な農業・牧畜が主たる産業である。広い農地、牧場には家畜はいるがヒトは住んでいない。『人口が少ないので政治的発言力はその分削減しますから……』と、そう結論を出すのは『大事な事は大都市の住民で方向を決めますから』という意味になる。

想像だが、人口比に準じて上院議員定数が割り当てられるなら、例えばロッキー山脈東麓の人口希薄な諸州(ネバダ州、ユタ州、ワイオミング州等々)は、政治的発言力が大幅に低下するので、アメリカ合衆国から離脱することを目指すかもしれない。人口希薄な地方圏は、大都市主導の国家から独立して、自分たちの政府を設立したいと考えるかもしれない。独立して自らの利害を自らの意志で守るほうが良いと考える住民は地方にはかなり存在するであろう。独立すれば1対1の対等になるからだ。これでは現行制度と同じになる — 日本国内にも同じ理屈で物事を考える人々は、小生が暮らす北海道をはじめとして、潜在的にかなりいると想像している。

念のために付言すると、各選挙区で有権者数と議員定数が比例するように選挙区の区割りを決めればよいのだというのは、小手先業であって本質的解決にならない。この手法もまた、各選挙区の職業比率に着目すれば、第2次、第3次産業に従事する人々の意向がより強く反映されるのは当然であるという価値観に立つことになるからだ。「価値観」であって、「理屈」ではない。

利害を異にする大都市圏から農業地帯である地方圏が離脱、独立する……そうした状態は、どちらが得をするのだろう。少なくとも「アメリカ合衆国」全体の国益にとってそれはプラスではないと思うのだ、な。

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1票の重みを完全に平等にしないのは、決して《国家の怠慢》ではなく、国の統一や国の利益を考えた《国家戦略》である。小生はそう考えている。同じロジックは、日本国内の「1票の重み」をどう考えるかという論点にも当てはまる。地方が余りに得をして、大都市圏の経済的不利益が余りに大きいという感情が高まれば、今度は大都市圏の側から地方圏の切り離しを願うようになるだろう。逆に、大都市圏ばかりが得をして、地方圏が割を食っているという感情があるなら、1票の重みの完全平等などは目指すべきではない。国益を考えればそれが合理的だ。そんな風に「選挙」という意思決定方法については考えている。

陳腐なようだが、選挙もまた意思決定方式の中の一つであり、目的は《国益の向上》と《利益配分のバランス》である。故に、地域間の「一票の重みの格差」は正に政治問題であって、憲法や法律に関する問題でもないし、倫理や理念に関する問題でもない。

今日の投稿の結論はこんなところで。

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