2020年11月6日金曜日

「日本学術会議」の独立性について

 日本学術会議の6名任命拒否をめぐる論争がまだ終息していない。特に、同会議の「独立性」で判断が分かれているようだ。

「独立」といえば、小生は公正取引委員会と会計検査院を連想する。どちらも独立性が非常に高い機関である。

公正取引委員会については同委員会のホームページでこう解説されている:

公正取引委員会は,独占禁止法を運用するために設置された機関で,独占禁止法の補完法である下請法の運用も行っています。

 国の行政機関には,○○省や◎◎庁と呼ばれるもののほかに,一般に「行政委員会」と呼ばれる合議制の機関があります。公正取引委員会は,この行政委員会に当たり,委員長と4名の委員で構成されており,他から指揮監督を受けることなく独立して職務を行うことに特色があります。

 また,国の行政組織上は内閣府の外局として位置づけられています。

また、人事についてはWikipediaに以下のような説明がある:

 公正取引委員会は、独禁法等の違反事件の調査や審決を行う準司法的な機能、および規則制定権の準立法的な機能を有している。内閣総理大臣の所轄に属するとされているものの、委員長及び4名の委員が「独立」(独占禁止法28条)して職権を行使する独立行政委員会である。委員長及び委員の任命には衆参両議院の同意を必要とする。委員長は認証官とされ、その任免は天皇により認証される。

 他方、会計検査院は強度の独立性を担保されている。同じくWikipediaから:

会計検査院は、日本国憲法第90条第2項、会計検査院法第1条の規定により、内閣に対し独立の地位を有する[4]。さらに会計検査院の検査権限は内閣及びその所轄下にある各機関のみならず、国会(衆議院、参議院)、最高裁判所をも含むすべての国家機関に対して当然に及ぶなど、一般の行政機関とは際立って異なる性格を有している[4]。また、憲法にその設置が規定(第90条)されているため、その改廃には憲法改正を要する点も他の行政機関と異なる。

人事についても

 会計検査院の意思決定は、検査官会議で行われ、これを構成する3人の検査官は国会の同意を経て、内閣が任命する。また、検査官の任免は、天皇が認証する(認証官)。会計検査院長は、検査官のうちから互選した者を内閣が任命する。

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機関としての「独立性」が担保されるべきであるという点だが、真に内閣から制度的に独立するべきであると考えて設置されたのだとすれば、内閣による人事にとどまらず、国会の同意なり何なり、内閣とは別の機関も関係する人事にするのが理屈だろう。

公正取引委員会委員の任命には国会の同意が必要であり、また本人の意に反して罷免することができる要件が明文で規定されている。内閣の自由な裁量で任命したり、罷免したりすることはできないことが規定からも明らかである。逆の視点からみると、確かに独禁法28条で「独立してその職権を行う」を規定されているが、それでも委員の人事については内閣が任命することになっており、かつ国会の同意が要る。その国会の同意が得られなければ、事後的にその委員は罷免されなければならないと定められている(31条の6)。その機関の独立性は必ずしも内部人事がそのままの形で実現されることを約束するものではない。

「内閣総理大臣の所轄に属する」と独禁法第27条では規定されているが、それにも拘わらず、第28条から第32条までにおいて、独立性・任命・身分・身分保障などを規定しているのは、「内閣総理大臣の所轄であるにもかかわらず」という意味合いの下で解釈するべきだろう。仮に、身分の保障等について特段の規定がなく、単に「内閣総理大臣の所轄に属する」と規定しているだけであれば、それは一般的な意味で「所轄する」という文言を解釈するほうが素直である。

他方、会計検査院の根拠である「会計検査院法」では、そもそも第1条で『会計検査院は、内閣に対し独立の地位を有する』と定められている。内閣に対する「独立性」をこれ以上明確に示す根拠はない。

会計検査院院長は、『 会計検査院の長は、検査官のうちから互選した者について、内閣においてこれを命ずる』と規定されている。検査官は国会の同意を経て内閣が任命することは上述のとおりだ。「推薦に基づく任命」ではなく、互選によって任命されている。「互選」と「推薦」はどう違うのかというのは、それこそ内閣法制局の所轄だろう ― ここまで独立性を担保しても、それもなお会計検査院は政府の影響下にあると時に揶揄されたりするのだが、それはまた別の話題である。

世間でよく引き合いに出される例になっているのは、天皇が総理大臣を任命している点だ。「任命」するからと書かれていても「拒否」はできないだろうという議論だ。しかし、素人でもこの議論がおかしいことはすぐに分かる。天皇による任命に先立って国会が議決によって(1名を)指名することになっており、同時に国会は国権の最高機関であると規定されているので、天皇が任命拒否できるロジックはないのだ。

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要するに、政府の裁量によって任免ができないケースがあるのであれば、そのことが手続きと共に条文で明記されている。行政権を有するにも拘わらず人事という面で政府を束縛する以上、明記されるのが当然でもあり、これは立法意思を明示することでもある。

日本学術会議は、確かに第3条で『日本学術会議は、独立して左の職務を行う、云々』と規定されているが、《何に対して独立して》同条文の各項の職務を行うのか明らかではない。「内閣から独立して」と読めないことはないが、しかし、第1条で『日本学術会議は、内閣総理大臣の所轄とする』と明記しているので、第3条の「独立」が内閣総理大臣からの「独立」であると解釈するのは、牽強付会に過ぎるのではないかと小生には思われる。設置法には独立性の規定はあるが、しかし身分の保障や内部推薦の担保について特段の規定はない。推薦から任命に至るまでの規定がない。であれば、やはり普通の意味で内閣総理大臣の「所轄」の下にある。こんな理屈になるのではないか。「推薦に基づく」というのは、「推薦に基づかず」して政府の裁量で任命することは不可である。そう読むのが素直なように思える。

結局、今回の任命で欠員が出来てしまったが、それは学術会議の側の候補者リストと政府の意向の共通集合として、任命が決まったということであって、学術会議の意向にも、政府の意向にも沿った任命となったわけである。別の方法をとるとすれば、例えば政府の意向と学術会議の意向の和集合として定員が満たされるまで優先順に任命していく手法もあってよい。現行の方式は学術会議の内部推薦に基づく方式である。学術会議の意向は十分に尊重されていると小生は思うのだが、なぜ学術会議(というか日本共産党?)が不満であるのか。そこがよく分からないのだ。

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小生は、小役人をやっていたとはいえ法律には素人であり、せいぜいが学内教務上の学則をいじっていた程度である。とはいえ、素人が少し調べてみても、日本学術会議の「独立性」は法律の条文に沿って素直に読むなら、かなり限定的に解釈しなければならないことがわかる。

まあ、おそらくは会員が各学界の権威や出身大学の意向、その他諸々のしがらみから拘束を受けることなく学術会議の使命を達成せよ、と。そんな意味での「独立性」だろうと小生には読み取れる。

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以上みたとおり、これは国会でつついてみても細かな話であり、法解釈の問題であるとしても判定は自ずから明らかではないかと感じる。

内閣法制局が法解釈を変更していないというのは本当だろう。「条文上は明らかに拒否ができる文言になっているが、政府は推薦を拒否する意志はもちません」、「政府の任命はあくまでも形式的なものにする所存です」等々と、その時の総理大臣(中曽根首相)が前段を(故意に?)省いて答弁したものと思われる。

ま、「詐欺」といえば詐欺に近いが、これもまた「政治」というものだろう。

そういえば現在の野党も既に「政治」をしている。

行政判断に不満があれば司法の場で黒白を明らかにするのが筋道だ。政府の個別人事の理由を政府が公開の場では明かさないとしても間違っていない。政府は野党の許可をとって行政判断を行う義務はない。論争を仕掛けているのは野党である。政府は論争には応じていない。が、論争をしたい側が止めなければ論争は続く。しかし野党の言うとおり、法解釈の正当性が論点なのだから、行政訴訟に委ねるのが本筋だ。それを国会で論じ政治案件にしている。そうしているのは明らかに野党の方である。なぜなら来年には衆院選があるからだ。

何日か前の投稿でも書いたが、野党もまた「政治」をしているわけだ。その野党は、そもそも最初にこれを「政治」にしたのは与党の方だと言うだろう。

売られた喧嘩は買わせてもらう

そんなところか。与党も野党も同じ。要するに、政治家が「政治」をしている。ただそれだけの事である。「そんなに面白いのかネエ」と、小生などは思ったりするが、面白くてたまらないのだろう。

・・・ただ、仮に司法判断の場に移った場合、政治的な意味合いであるにせよ、推薦された候補の任命を拒否するなら一本理屈の通った根拠は要る。「危ない」という程度の理由で任命を拒否したのであれば、その結果として欠員が出来ているわけでもあり、あまりに運用が恣意的であると見なされ「決定は合理性に欠ける」、と。そんな判決が出る可能性は大いにあるとみている。ただ推薦通りに任命せよという判決にはならないとみる。

以上、覚え書きまで。

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加筆を繰り返し、この辺でざっと一段落した感じがする。「一言メモ」はもう外してもよさそうだ。


 

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