2022年2月2日水曜日

断想: 需給ミスマッチを解決できるのは「厚労省」なのか、「市場」なのか?

オミクロン株の新規感染者が数として激増する中で、確定診断を下すために必要な抗原検査キット、PCR検査の試薬が市中で不足し、それが実施可能な検査数を束縛しつつある。ベッド数や医師数もさることながら、今度は検査能力がボトルネックとなって、まさかそれを理由にして「緊急事態宣言」、「行動規制」を政府は言わないよネ、と。こんな心配が高まっている。

財貨やサービスの需給ミスマッチは、日本の医療関係物品ばかりではなく、農産物をはじめアメリカの耐久消費財、ヨーロッパの天然ガスなど、世界全体で観察されている現象である。日本の医療関連物品は別として、いずれもコロナ禍によるサプライチェーンの混乱、労働市場からの離職、退出者の増加によるものだ。

ただ日本と海外の違いは、海外における需給ミスマッチは直ちに市中価格の変動(=値上がり・値下がり)という形で調整メカニズムを作動させているのに対して、ここ日本では医療関連物品のほとんど全てが規制産業であるため、業者間転売市場で自由な取引が行われて余剰のある個所から不足のある箇所へと流れていくという風にはならず、「ある所にはある、ない所にはない」、お上(=厚労省)が指示を出すのもバタバタと慌てるばかりである。そして、困った経済状況が未調整のまま続いている。こう指摘をするのが本筋だろう。

ずっと以前になるのだが、本ブログへの投稿でこんなことを書いている:

必要な商品の増産は遅々として進んでいないようだ。戦前期においては強権的な国家総動員計画が見事に破綻し、戦後の民主的体制においては指導的権限を失った政府が何もできずに悠長にやっていると批判されている。

経済環境の激変で必要になるのは、資源の再配分である。資本、労働、マネーなどの生産要素を超過供給市場から超過需要市場へとシフトさせなければならない。その誘因としては第一に価格メカニズムがあると考えるのが標準的な経済理論である。が、今回の需要逼迫市場である医療サービス、新薬開発市場は資格、許認可が厳しい規制分野である。厚労省の「縄張り」である。超過需要(=24時間操業、疲弊、待ち行列)と超過供給(=閉店、休業、失業、etc.)は解消されないまま放置される可能性が高い。政府の判断が遅れればそれだけ資源配分の歪みが放置され、日本経済が毀損される仕組みがビルトインされている。

「あらゆる経済問題を解決するのは政府ではなく市場である」と語ったグリーンスパンを思い出すべき国としてまず日本が挙げられるかもしれない ― リベラル野党は飛び上がって反対するだろうが。

困難な経済状況を解決するために最も有効なツールは「自由化と自発的インセンティブ」である。口では「規制緩和」と唱えながら、安倍政権は本音では国家の指導を重視し、国家が資本主義経済と国民生活を誘導することの価値を信じてやまない傾向がある。2000年の前に死滅したはずの"Notorious MITI"のゾンビを視るのは小生だけだろうか。このゾンビは、経産省に限らず、複数の中央官庁、いやそれよりも政権周辺の諸々の与党政治家にコピーされ隠れているはずだ。その旗印は今更言うまでもないところだ。

であるとすれば、今のような政策哲学を信奉する政府が資源配分の歪みを解決できる理屈はない。

 "Notorious MITI"と書く代わりに、"Socialistic MHLW "と書けば、このままでも通る。それにしても、MITIは「ミティ」と呼んだが、厚労省の略称"MHLW"は何と呼んでいるのだろう。むしろ日本語で《計画好きな厚労省》という方がピッタリかも。

それにしても行政指導好きな当時の通産省が「悪名高い通産省」と非常な悪評に包まれていたのに対して、箸の上げ下ろしにまで口をはさむ厚労省には寧ろ「もっと頑張ってほしい」という国民の眼差しが(不思議にも)あり、その劣悪な管理能力を批判する世論になっていないのは、まさに「天下の奇観」である。ひょっとすると、日本のマスメディアの従業員は、その大半が心のホンネの部分で「反市場、親計画論者」、「半分社会主義者」であるのかもしれない。

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