2022年2月22日火曜日

ホンノ一言: ウクライナ紛争でロシアを非難する議論の構造は

いま旬の話題であるのは、もはやオミクロンではなく、いつしかウクライナ情勢になった感がある。

少し前、ロシアのプーチン大統領はウクライナ東部の親ロシア勢力の独立、新国家樹立を承認し、そのため平和維持を目的に同地域へのロシア軍派兵を命令したと。そんな報道で今日のTVはもちきりである。

確かに「新国家承認」といっても体のイイ「侵略」であると非難するのは一理ある。というか、歴史を通して、《傀儡政権樹立+新国家承認》という手法は自国勢力を拡大する定石の一つである。たとえば

  • 戦前期・日本による満州事変から満州国樹立、日本政府による承認はその一例。
  • アメリカによる支援でベトナム戦争を戦ったサイゴン政権。これもドミノ的共産主義革命を怖れるアメリカの傀儡政権だった。
  • アフガニスタンのタリバン勢力駆逐後にアメリカが支援したカブール政府も傀儡政権の一つであったろう。

ロシアによる「ウクライナ東部の親ロシア勢力支援と新国家承認」は使い古されたクラシックな手法である。

欧米諸国、日本を含めた旧・西側諸国がロシアの「侵略」を非難するのは無理もない。

しかしなあ・・・、小生は極めてへそ曲がりなもので、ここで一文句つけたい余地もある。

一つ言えるのは、大国による「傀儡政権」はしばしば地元住民の心理と乖離した人工的構成物であるが故の弱点をもっているものだ。その基本的に脆弱な政権は、強大な外国による保護の下で緊張感を失い、政治に対する責任感を失い、独立した意思決定が出来ない中で、ただ一つ権力を維持することのみに苦心するために腐敗し、そのため地域住民の信頼をますます失い、反感をかい、最終的には崩壊へのプロセスを辿る・・・こんな例が非常に多いというのが、観察を通して得られた経験的知識である、ということだ。

例えば、日中戦争が続く中で英米から一貫して軍事支援された中国・国民党政府は、ある意味では英米による傀儡政権であった。弱体化し腐敗した国民党が中国国民の信頼を失い、日本の勢力が消え去った戦後早々、ライバルの中国共産党によって駆逐される憂き目にあったのは、まさに傀儡政権の多くが辿る途であった。

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但し、モスクワ政府が承認するというウクライナ東部の新国家が同様の道をたどると、今の段階で確言するつもりはない。そうなる、そうはならない、どちらの可能性もあると思う。

そもそもウクライナ東部の親ロシア勢力については、小生、十分な知識をもっていない。その親ロシア勢力が樹立する新国家がいかなるものか、よくは知らない。多分、アメリカ、EUが非難するように文字通り《ロシアの傀儡政権》なのだろう。しかし、だから、ウクライナ東部の親露国家はロシアによる侵略を正当化するための人工的構成物であるのだろうか?

1931年の満州事変以来の外交について、日本は太平洋戦争開戦ぎりぎりの段階に至って、「自存自衛」であると主張していた。しかし、当時の日本人の意識としては「自存自衛」であったかもしれないが、その核心が自国の海外権益の保護であったのは明白で、更に加えて新規権益獲得をも目指していたわけである。だから日本がとった行動は《満州侵略》であったと、小生も理解している。

ロシアは守るべき何かを何であると認識しているのか?ロシアは獲るべきものを何だと認識しているのか?この点の理解がまず前提にあって、その後に「ウクライナ侵略」を論じるという順になるのではないか?

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一般論として、地域住民の大半が中央政府から独立して新国家を樹立したいという願望を抱くとき、その新国家を支持することが既存の国家を《侵略》することになるのだろうか?もしなるのであれば、例えばスコットランドがスコットランド住民の手続きを経た総意として「連合王国(UK)」から独立しようとするとき、その新スコットランドをフランスが新国家として承認するとして、フランスはイギリスを侵略したという理屈になる。

「それは違う」と言う人は多いのではないだろうか。スコットランド国民の「人権」を尊重するべきだという人の方が多いのではないだろうか。

もし独立を求める勢力による新国家樹立を認めることが「侵略」に該当するなら、ウイグル自治区が北京政府から独立しようとするとき、そのウイグル自治政権をアメリカ、EU、日本などが承認すれば、日本は中国を侵略したことになる。

これは「侵略」ではないと旧・西側諸国なら言うのではないか。であれば、一般論としてはロシアがウクライナ国内で独立を宣言する親露政権を承認するとしても、それ自体が必ずしもウクライナ侵略にはならない。こういう議論になると思う。

要するに、近年盛んに用いられる論法だが、目的が「人権」で「権益」ではないなら他国の内政に立ち入っても「侵略」にはあたらないという法理(?)が一方にある。しかし、国と言うのは例外なく真の目的としては「国益(≒権益)」を追求するものなのだ。だから、今回のロシアの行動も心の底ではロシアの国益を拡張しようとしている、と。ホンネはこうだろう、と。そう非難するのはよいが、そうであれば「人権」を目的とする「干渉」なら許されるなどとは言わないことだ。「内政干渉」は全て「主権の侵害」であり、「侵略」であるというロジックを通すべきだろう。しかし、相手が中国になるとウイグルの人権抑圧を批判したい。中国の内政に干渉したい。その論拠が要る。そのためには建て前を語る必要がある。その一方でロシアにはホンネの部分を議論している。

同じ内政干渉であっても、旧・西側がやれば人権擁護、中露がやると侵略になる。「それはないでしょう」という人が出てきてもおかしくない。これでは韓国で大流行した「ネロナムブル」と同じ、自分(ネ)がやればロマンスだが、他人(ナム)がやると不倫(ブルユン)。これと中身は同じである。

ま、古来、このような議論を「二枚舌」という。どうもへそ曲がりなもので、こんな風な印象がある。

承認した国家との間では、条約を締結するし、軍事同盟を結ぶことも出来る理屈だ。ロシアと東ウクライナの親露国家もそうするだろう。

ロジックはこうならざるを得ない。実際、世界史の現実はこのように動いて来た。

ロジックを超えて「容認できない」と主張するとすれば、それはロジックではなくグローバルな覇権闘争(の一環)であるということだ。

そもそも国家に適用するべき「マクロ倫理学」などという理論はない。まして覇権闘争であるなら、ただただ、

どちらが勝つか、どちらが負けるか

この問題だけが解くべき問題である。善い、悪い、とは次元が違う。

ロシアが親ロシア勢力を支援せず、したがって「ウクライナ侵略」を控え、あくまでもキエフ政府を尊重するなら、そのキエフ政府によって親ロシア勢力は逮捕され、「国家転覆罪」に問われるのではないか? — ウクライナ刑法に目を通したわけではないが、普通に考えると、親ロシア勢力はこの種の犯罪を犯しているとキエフ政府の側は判断するはずである。これは「人権抑圧」にはならないのだろうか?

要するに、ウクライナの「国内問題」としてキエフ政府に処理を任せるに十分な信頼をロシアはキエフ政府にはもっていない。これが事の本質であろう。

どうやら、今回のウクライナ紛争は「ロシア帝国主義?」などという問題とは筋が違うように思われる。


・・・さて、今日は西側諸国の基本理念をかなりアカラサマに批判するような投稿になってしまった。もう数年も前になるが、以前にも率直な内容を書いたところ、《不適切投稿》のレッテルを誰かが貼ったか、あるいは運営企業の暗黙のルールに触れるかしたのだろうか、突然投稿が削除されたことがある。小生には事前警告も、一部修正要求もなかった。今回もそうなるかもしれないと少々心配している。自由なはずのここ日本で書くブログであっても、レンタルサーバーなどでアカウントの独立性を十分に守っていない限り、《表現の自由》が一方的に制限されることはママあるのが現実だ。自由が認められる範囲は意外なほど狭い。なので、念のため今回のドラフトは別に保存しておくことにしよう。

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