2011年7月1日金曜日

リスク度外視は、それ自体、リスクです

時間があって、図書館で週刊エコノミストを適当に手にとって、パラパラとみていた。すると、一見すると話は無関係に思われるものの、実は本質は同じ失敗である、そんな二つの記事があることに気がついた。

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一つは、6月21日号「ガス復権」特集号からだ。非在来型天然ガスの埋蔵量が在来型天然ガスの埋蔵量の5倍はあることが分かり、にわかにアメリカの一次エネルギー自給率がはねあがる、それで、北米はシェールガス・バブルに入っている。ガス田開発権益は、今は巨額のカネを支払わないと買えない状況だ。日本の石油会社は、シェールガス・ブームの将来性を完全に見誤り、「これは行ける」と気がついたときには「あなた方、遅すぎますね」という状況となり、今から開発に参加しても利益率は大したことはない。どうにも、日本の石油会社は、早い段階から経済性を評価して、リスクをとりに行かない。それで失敗しているわけである。

そこへ行くと日本の誇る総合商社はしっかりと食い込んでいる。三井物産はペンシルベニア州でLNGを年間約294万トン、三菱商事はカナダで同350万トンのLNGを輸出できる事業に参加。また、丸紅もオーストラリアで同400万トンのLNGを輸出できる事業化調査を進めている。日本のLNG輸入量は年間6900万トンだから上にあげた三件だけで15%の増量となる。誠に大したものである。

記事にはこんな風に解説されている。シェールガスは、開発技術がこの2、3年で急速に進歩し、確認埋蔵量が急激に増加。生産コストの見積もりも、単位熱量当たりで100ドルから何と2ドル(!)まで劇的に低下したよし。こんな状況でプロジェクトの収益率を推計するには、開発に伴うノウハウの蓄積が生産コストの低下をもたらす学習曲線をいかに正確に推量して数字をはじくか?その技術と情報が不可欠になる。数字通りにならない際のリスクの大小も評価しておく必要がある。これがリスクプレミアムとなり価格から回収できるコスト部分となる。こうした経済性とリスク評価の技術で、日本企業は大きく遅れていて、そのために大きなチャンスに気がつかず、外国にいいところをとられている。総合商社は、流石にアンテナの感度が高く、そこはしっかりとジョイントに食い込んでいる。そういう図式の話である。

物事にいまだ不確実な側面があり、収益率が確定できないというのは、つまりはリスクがあるわけだ。大得をするかもしれないが、大損をするかもしれない。日本人というか、日本企業はわりとそんなリスクを嫌うわけである。「もっと数字を固めんとな、これじゃ乗れんよ」、蛮勇を奮う上司も怖いが、煮え切らない上司も会社を苦境に陥れる怖い存在なのだ。リスクテイクが苦手なのは、つまりはリスク評価が苦手、収益率評価一般が苦手ということで、リスク・プレミアムにも鈍感ということになる。最悪の場合、「価格のこの部分はリスク・プレミアム、当社が負担するリスクの保険料に相当する部分です」という発想を語ることができないビジネスマンと相成ってしまう。現実には事業リスクがあるにもかかわらず、リスクがない時の発想しかできないのは、事後的に極めて危険であるという他山の石。それが上の天然ガス開発をめぐる日本の石油会社の苦境である。そう読めるわけだ。

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もう一つは、例の外貨取崩しによる震災復興費調達に関連する。これは週刊エコノミストの6月14日号に掲載されているラインハート女史のインタビュー記事。同女史の業績は先日も紹介したので繰り返す必要はあるまい。

外貨取り崩しによる震災復興費調達を聞いた日本の官僚は、専門家よろしく「日本の外貨準備というものはですネ、それに見合う負債がありますので、資産だけを取り崩して使うことなど、できないのですヨ」と、あたかも「こんなことも知らないのですか?」と言わんばかりの専門家風を吹かせるわけだが、この話の勘所はそんな当たり前の点にはないのである。それこそ「そんなことは当然。あなた、当たり前のことを、さも大事なことであるかのように、何を話しているのですか?」というのが客観的状況なのである。

外貨準備は、官僚が言うとおり日本国内から短期証券で円資金を調達してドルを購入した結果、蓄積されたものである。なぜドルを買ったかといえば、概ね円高を防止するための市場介入を繰り返してきたからだ。つまりは、円を吸い上げ、ドルを買う。ドルを売った人は円をもらう。その結果、国内の円資金は等量となる。これを「不胎化介入」と言います。ドルを買って、円を国内に供給する単純介入(=非不胎化介入)ではない。ドルから円への動きを相殺する分、円からドルへの取引をお上が国内で作り出しているわけである。政府は、買ったドルを主にアメリカ国債で運用している。円高防止を名目にお上がカネを集めて、アメリカ国債を買いましょうという営業を行なっている。そう解釈してまず間違いはない。

そうなると、国内マネーをアメリカ国債に振り向けて投資をするだけの収益性が本当にあるのか、という議論になる。この点をラインハート女史は論じているのである。

日本政府は国内から低金利でカネを集めアメリカ国債に投資すれば利ざやを抜けるというが、アメリカも量的金融緩和を進めてきたので、米5年物国債で利回りはせいぜい1.6%。円建ての国内短期証券の金利は0.1%として1.5%の利益しか出ない。円ドルレートは昨年5月からの平均85円。レート変化の標準偏差が3円94銭。ボラティリティは4.6%もある。単純にいうと、期待収益率である1.6%に対して、プラスマイナス4.6%のリスクがある。

本ブログでも投稿したが、日本の対外資産の利回りは2000年代後半でイギリスとほぼ同等、10%前後に達する。それに対して、同じドル投資をお上がやれば、期待収益率が1.6%、ボラティリティが4.6%。これは余りにもハイリスク・ローリターンではありませんか?これが「外貨準備は取り崩して、必要な国内事業に回したほうが、死に金が生きることになりませんか?」ということの本当の意味合いである。

まして、中国に次ぐ巨額の外貨準備マネーをなぜ日本はつみあげて放置しているのです?中国は対ドル固定レートを守ろうとしているからまだ理解できる。日本は変動レート制でしょ?中国とは制度が違いますよね。どの国だって、変動レート制をとるなら、外貨準備は普通もちません。なぜ外貨準備を持つのです?「それは円高を防止したいからですよ」、「じゃあ、固定レート制度を採用すればいいじゃないですか?」。どうも日本は中国よりも、さらに一層ロジカルでないわけである。

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話が海外投資の話であるにもかかわらず、経済合理性に全く触れることなく、「負債で調達したお金ですから財源にはなりません」と木で鼻をくくるかのような説明をするのは、専門家とはいえ官僚は主として法学部出身であるためだ。Finance&Investmentは、法律専門家には土台無理である。無理な人たちが無理な仕事をしていると、リスクと収益性の話をしているときに、「ええ~これは負債でございまして・・・」などとアサッテに顔を向けた話をして恥をかく。

リスクと経済性評価が求められているときに、確実な議論ばかりをしたがるというのは、それ自体が一つのリスクとなる。上の石油会社と日本の財務省当局。似ているなあと思った次第である。

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