2011年7月29日金曜日

アメリカ国債問題で世界は動揺しているか?

本日の日経の1面ヘッドラインは<米債務問題、世界が緊張>であった。

8月2日の期限までに米議会が債務上限の引き上げで折り合えば緊張は和らぐ、等々の説明がある。

ただ、デッドラインについては、8月2日がリミットなのか。2日はまだいい、その場合も8月15日までに与野党が合意できないと、金融市場は混乱するとか、色々と細かな見方もあって、ややこしい。何だかレポート提出に追われている大学生のようでもある。

騒動の割には、株式市場は混乱していない。さすがにアメリカのダウ平均は、7月初めの株価を割ってきたが、日本はまだ上にある。8月1日が月曜なので、週明けの情勢は確かに要注意ではあるが、「代替の投資先が見当たらないことなどから、いまのところ米国債の金利に明確な影響は出ていない」などと日経には述べられている。

「米債務問題に世界動揺」ではないわけなのであり、しかるが故に、「世界は緊張」。プロ野球でいえば、ワンアウト満塁。観衆は一斉に緊張。そんな感じなのだな。欧州のギリシア危機に直面して「会議は踊る」という状況であったのだが、アメリカ国債デフォールト問題に際しては、ハンカチで額の汗を拭く、というかティッシュを取り出して鼻をかむ。悪い例えで申し訳ありませんが、まあ、そんな感想がグローバルに共有されているのではありますまいか?

折しも、同じ本日の日経コラム記事「大機小機」のタイトルは「国家のモラルハザード」という壮大な題目。書くは桃李氏。何事かと思うと「日本では対国内総生産(GDP)の負債比率がギリシアより悪い財政下で、米国ほどの真剣な取り組み姿勢も見えない」。その通りではありましょうが、正直、ホントよく言うわなあ、と。もし本当に国債が発行できず、アメリカ政府のキャッシュが枯渇し、金利支払いが遅延しても「アメリカ政府を見習って日本政府も真剣に財政のことを考えるべきである」とおっしゃるのであろうか?ま、ヒト様々であるから、これ以上は申し述べるつもりはない。

さらに日経記事を読む。ン?米国債の信用力は刻一刻と低下しつつある、と。米国債の信用は落ちている。これは、ご愛嬌(?)までに一言だけ挿入した語句であろうか?

そもそも余剰資金を米債に投資する時、円を先買いしてヘッジするなら、収益率は日本国内で資金を回すのと同じ理屈だ。しかし想定外にドル安になればカバーできない。ヘッジしないなら、円高リスクを直接負担する。

リーマン危機以来のアメリカ金融政策をフォローしていながら、それでもなお米国債が安全確実な投資先だと考える御人が、日本国内に、いや世界にいたのであろうか?

新興国は金地金を買っているようである。そのため石油価格はピークアウトしたが、金は歴史的高値にまで上がっている。

(出所)世界の株価より

こんな状況に至って、「機関投資家も万が一に備え始めた。日本の財務省の統計によると5月は米国の公債(国債、地方債、政府機関債)全体で2兆2194億円を売り越しており、単月の売越額としては過去最大となった」。こんな数字もある。キャピタルロスがなければよいのだが。

アメリカ国債問題も大事だろうが、それよりは、与野党が合意しようが、しなかろうが、アメリカ財政政策が非常な緊縮に向かうのは確実だという、こちらであるまいか?日本の生産は大震災復興需要が出てくることの下支え効果が期待されているが、アメリカの財政緊縮はハンパな金額ではない。既定方針通りに行けば、アメリカ経済がマイナス成長になってもおかしくない。特に自動車産業は大打撃を被るのではないか。中国もインフレ抑制に手を焼いていて、成長政策にすぐに戻るのは無理である。こちらのほうが日本語の新聞を読む日本国民にとっては大事な話題なのではないか?

そんな中でアメリカ中央銀行であるFRBには第3次量的緩和政策に期待する向きがある。しかしロイターでは
A fresh round of U.S. monetary easing may even do more harm than good for long-term investors as another flood of easy money into fast-growing emerging economies risks refueling oil and commodity price inflation, sapping consumption and growth.
Prospects for a third round of the Federal Reserve's quantitative easing program (QE3) grew this month after Chairman Ben Bernanke said the central bank was prepared to ease further if economic growth and inflation falter again.(LONDON | Wed Jul 27, 2011 6:14am EDT)


というレポートを出している。バーナンキ議長は積極的であるらしいが、金融を緩和してもアメリカ国内の需要を増やすわけではなく、結局はファンドマネージャーが資金を調達して新興国で稼ぐ図式になるだけだ。それは新興国の政府自らがインフレ防止に力を入れている折柄、現在の世界経済にとって、決して良い政策ではないだろう。そういう指摘である。

金融緩和もダメ、財政危機を招くほどまで財政を拡大してもダメ。先進国の生活水準と雇用を維持するには、何をすればよいのか?どんな選択肢があるのか?先進国が頭をつかうべき本当の経済問題はこちらの方ではなかろうか?

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