2011年7月25日月曜日

アジア通貨安で日本は損をするのか?

本日の日経3面は、「アジア通貨安、連鎖」と題を打ち、「人民元、対円では最安値圏」。「緩やかな元連動影響、競争力維持へ為替介入」というヘッドラインである。元連動というのは、人民元の対ドル相場を指標にしながら、中国通貨当局が元の急速な上昇を避けている動きのことだ。競争力維持へ為替介入というのは、ズバリ、当局が元安誘導を行っているという趣旨だ。ま、アメリカ政府が時折口にする相場介入批判と同じ意味に受けとれる。

安値は人民元ばかりではない。ウォンやバーツなどアジア通貨は、軒並み、円に対して安くなっている。下は紙面に掲載されていたグラフである。引用させてもらおう。

日本経済新聞、2011年7月25日付け朝刊から引用

図に見るように、リーマン危機前の2007~08年に比べて、人民元は約2割安。バーツは3割安。ウォンに至っては4割安という水準である。

確かにこれでは、日本で製造した製品を海外に輸出するよりも、アジアで生産をして、そこから輸出し、本社が利益を確保したほうがよい。日経が主張する通り、製品が直接競合するウォン安、バーツ安のほうが、日本には打撃となるだろう。実際、炭素繊維のトップメーカーである東レも韓国に生産拠点を移すことを決定した。東レばかりではなく、日本の誇る製造業メーカーが今後続々とアジアに転出することになるだろう。

では、アジア通貨安は日本経済にとって酷い打撃となり続け、将来必ず<中国栄えて、日本滅ぶ>のような事態と相成っていくのだろうか?

人民元は円に対して下のような推移をたどってきている。

(出所)為替計算機(サーチナ)より

グラフは1人民元当たりの日本円である。2000年代半ばにかけては、元高が続き、その後は日経が示す通りの元安に転じているわけだ。

下の図は、日本の対中国貿易取引である。

(注)単位は千円。通関統計(財務省)。

日本は対中国ではずっと貿易赤字であり、特に2001年には最大の対中赤字3兆円余を計上した。その後、赤字が減ったのは、元高・円安のためと、一見、思われるのだが、2008年以降の元安にもかかわらず、日本の対中赤字はどんどん縮小し、最近ではほぼ対中国輸出入がバランスするようになってきている。

下は本日のロイター電である。
ただ、中国経済は減速しても巡航速度程度に減速するに過ぎず、今後も輸出は中国・アジア向けを中心に比較的堅調に推移するとの見通しだ。2010年上半期の貿易統計によると、対アジア輸出が前年比46.4%増、同地域向け貿易黒字は5兆2176億円となり過去最高だった。また、対中国貿易赤字は前年比84.5%減の1407億円で、1993年上半期に次ぐ小幅な赤字となり、前年比の赤字縮小は過去最大。対中貿易収支は改善しており、この傾向は今後も続くとの見通しが複数出ている。
第一生命経済研究所・主席エコノミストの熊野英生氏は、赤字幅縮小の背景として「従来、中国を生産基地としていた日本の現地進出企業が、経済発展とともに現地販売を増やしたことがある」と分析。これまで長期にわたり対中貿易は赤字傾向で推移してきたが、今後10年間を展望すると、中国経済の規模はさらに膨張し、日本の対中輸出もそれに応じて増加することにより、貿易黒字の拡大に寄与するとの見通しを示した。(出所:ロイター日本語ニュース 編集 石田仁志、2010年 07月 26日 18:23 JST)
円とか、元とか、ウォンという話題は、所詮はおカネに関する議論であり、つまりは紙幣の分量から決まってくることである。世の中のお金を調節することで失業が本当に減ったり(素朴なケインジアンは今でもそう信じているが)、日本経済のデフレが根治したり、高度成長が復活したり、そんな夢のようなことが叶うなら、とっくの昔にやっているのである。

人民元の対円相場も、円と人民元の交換比率にすぎない。中国のお金の量と日本のお金の量の案配で、日本と中国の実質的な経済全体が決まるという理屈は、経済学にはないのである。産業や生活がどうなるかは、科学技術の水準、労働力の質、教育の質、一人ひとりのやる気、向上心、そしてトップマネジメントの出来不出来から決まる。世の中そうなっていませんか?金回りが良いことが一時あっても、結局は、その人の、その会社の力量で、業績は決まっていませんか?天からカネをばらまいて、世の中救われる、そんなことはありません。大事なのは経営資源です。つまりヒト、モノ、技術。

そう考えると、(国内に需要がないから)海外に日本企業が溢れでて行って、現地の人達に受け入れられ、土地に馴染んで、日本人と進出先の人が文化的にも相互理解できて、交流の機会を増やすことは、いいのではないか?日本を訪れ、日本国内で売られている商品を欲しいと思う外国人が増えるのはいいのではないか?それは基本的に悪いことではないのではないか?

どんどん、やってくれなはれ。小生はそんな風に思うのであります。



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