こう考えると、菅直人総理大臣は、小泉元首相退任以来、久々に現れた誠に渋とく権謀術数を繰り広げるポリティシャンではあるまいか。再生エネルギーへの転換をどの位本気で望んでいるのか。30年間の悲願であったと話しているようだが、大方の反応は「そうだったんですか?」という所だろう。政治家が口にする言葉は、女優の微笑みと同じで、100%ビジネスである。政治家の言葉を真に受ける御仁がよほど目出たいのである。大手新聞社論説委員の「政治は言葉である」。これまた新聞社のビジネスである。
参議院の西岡議長はこんな発言をしているよし。
西岡武夫参院議長は22日午前の記者会見で、菅直人首相が今国会の会期延長問題に絡んで今年度第3次補正予算案を「新しい体制」で対応する方針を示したことについて「またもや首相はいつ辞めるのかをおっしゃらない。大幅な内閣改造をやってそれを新体制と言うわけだから、そういうごまかしの政治はよくない」と厳しく批判した。
そのうえで「政権として責任を取っていない。菅首相がいつまでに辞めると言わなければ、国会として受けられない」と菅政権による会期延長の方針に苦言を呈した。
(出所)日本経済新聞WEB版、6月22日 12:19配信
政権の体を成していないと批判される状態なのだ。これでは野党が選択する最適戦略も立てにくいだろう。敵が本音では何を望んでいるかがよく分からないからだ。
どうも見ていると、小生は、ゲーム理論の<混合戦略>を連想するのだ。混合戦略とは、複数の手を選択する可能性を常に含めておく戦略を指す。いわば「どう出るか分からない」、「本音が分からない」、「ワケが分からない」という発言や行動を意図的にとる。これ自体が有効な戦略として機能するということだ。
たとえばジャンケンという勝負事がある。必勝法はありますか?そんなものはないですね。では最も合理的、つまり勝てないのであれば、せめて負けにくいやり方はありますか?それは、敵に手の内を見せない。最後まで、自分の手を予想させず、曖昧な状況にしておくことである。イシ、カミ、ハサミのいずれを出すのか、敵に予測されてしまえば、自分は必敗である。それ故に、三つの選択肢を等しい確率で出す。ランダムに出す。何がしかの法則性がそこに混じると、相手はそれを逆用して勝つ秘訣を見つけだす。だから、見破られないように自分の手はランダムに選ぶ、と同時に、相手の手の出し方に何か法則性はないか観察する。両者が、全くランダムに手を選ぶなら、自ら進んで特定の手を増やすと、それが負ける原因になる。故に、結果としてジャンケンゲームは、互いに相手の手が読めない膠着状態になる。即ち、これが<ナッシュ均衡>である。
ナッシュ均衡を崩すには、何らかのコミットメントを出して、相手に自分を信じさせなければならない。相手が自分の発言を信頼したところで、その裏をかく。そうしてナッシュ均衡で膠着していた状況に変化が生まれる。時に、勝敗が決して、一方の当事者が全面的敗北に至る。
民主党内が四分五裂しているにもかかわらず、内閣不信任案を大差で否決し、党執行部が首相と刺し違えの覚悟で退陣時期を明示するよう要請するかと報道されても、実際には小田原評定が続いた。その間、対応を決しかねて混乱を重ねているのはむしろ野党であり、アドバンテージを取得しているのは与党である。そうも見える。
再生エネルギー推進法案は、野党の味方である経団連に対する攻撃である。真に受けて自民党が反対をすれば、原発推進派のラベルを貼るであろう。民主党が本気でないと判断して放置すれば法案が提出される可能性がある。賛成すれば与党の勝利。反対すれば与党に攻撃機会を与える。財界主流派と取引すれば、敵の味方を自分の味方に引きこむことが可能である。
国内政局のヘゲモニーはまだなお民主党が握っていると思う所以だ。追い詰められつつあるのは、寧ろ自民党総裁であり、自民党幹事長であり、民主党で代表選に関心を表明した面々ではなかろうか?
戦略的優越は明らかに民主党にあり、自民党、公明党は相手が打った手にその都度おどろいて右往左往している。いいように転がされている。そう思えて仕方がないのである。もしも、この一連の状況変化が、民主党の政治家全体による意図的作戦であったとしたら、それはとんでもない権謀術数である。しかし、そんなことはあるまいと思います。何せ尖閣諸島、北方領土への対応。あまりにもアンバランスだ。
各自がバラバラで行動することで、政党の行動戦略としては、結果的に、事後的に最適戦略を展開している。それが菅直人を代表とする今の民主党であると思うのだ。これを何という言葉で呼べばよいのか?「偽装戦略」、「おとり戦略」、「かき回し戦略」、色々あろうが、政局の場で負けをとらない戦略としては効を奏しつつある。
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