自分が自分だけの視点で最も有利な行動をとる。そう経済学ではよく前提するのだが、実際には家族や同僚、上司や取引相手の反応を気にしながら、実際にどうするかを決めているわけだから、ゲーム論が応用され始めるのは遅かった位である。
映画「ビューティフル・マインド」をご覧になった方もいるかもしれない。その映画は天才数学者ナッシュを描いたものだ。映画よりは原作の方が重厚な味わいがあると評価する人も多い。彼が、今に至るも最重要なナッシュ均衡の概念を発見した後、不治の病とされる精神の闇に迷い、齢七十になってから奇跡的な寛解に至り、ついにはノーベル賞を受賞する。中々感動的な終幕である。
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本日午後、菅内閣の不信任案が本会議で採決される。この投稿は、それより以前に書いている。小沢陣営と菅陣営の2プレーヤーに単純化して双方の思考をゲーム論的にたどってみよう。
話しを整理するため、交互手番ゲームと考え、先手・後手の順で、相手の対応を予測しながら意思決定していくものとする。
小沢陣営の選択肢は、「野党の不信任案に賛成する」、「反対する」の二つである。菅陣営は、小沢陣営が不信任案に賛成すれば「除名という強硬手段をとる」、「除名しないで融和策をとる」のいずれか。小沢陣営が不信任案に反対する場合にも「小沢陣営に攻撃を続ける」、「融和的に対応する」のいずれかをとる。
小沢陣営は、先に意思決定を行うが、それに対して菅陣営がとる行動を予測しながら、いま何をするかを決めるわけだ。
さて、小沢陣営が不信任案に賛成する場合、菅陣営は除名する(更に解散する)と言っている。これはゲーム論でいうコミットメントである。コミットメントが発せられた場合、そうする動機が本当に相手にあるのかを考えないといけない。というのは、本当に小沢陣営が不信任案に賛成した時に、今度は菅陣営にとって、自己利益にかなうのは何をすることなのか?必ずその点を考えるからだ。
そうした場合、菅陣営が相当数の反対派を除名をすると、与党勢力が弱体化するだけではなく、混乱を招いた執行部の責任が必ず問われる。既に参議院選挙、地方選挙で負け続けている。党内から不信任案賛成者が多数出るという事態は、(ないわけではないが)最大級の失策である。むしろその責任で辞めなければならないだろう。それより、小沢陣営と融和策をとって、人的多数を衆議院で維持する方が民主党の利益にかなう。それは自己利益にもかなうだろう。
小生は「不信任案に賛成する者は除名」という言明は、ゲーム論でいう「空の脅し」、つまり信じるにたりない張子の虎であると見る。故に、小沢陣営が多数不信任案に賛成した時、それが否決されたとしても菅陣営は敵に対して融和的に出るとみる。
では、小沢陣営が反対するとして、菅陣営はどうか?与党が乱れず不信任が粛々と否決されれば、首相が信任されたことになる。菅陣営は、敵が自分に融和的に出たとしても、自分に批判的な小沢陣営に、あえて融和的に出る誘因はない。むしろ小沢氏本人の裁判が始まるに任せ、彼を政界から葬る意図を隠さないだろう。
小沢陣営が不信任案に反対すれば、首相陣営は一層攻撃的に出る。賛成をしても、強硬な姿勢はとらず、融和的態度をとる、というのであれば、小沢陣営には不信任案に反対して首相を支える誘因はそもそもないはずだ。自民党から提出された不信任案であれ、賛成をしておくほうが自己利益にかなう。
不信任案に賛成をして否決されても、菅陣営は現在よりも更に攻撃的な態度はとれず、いわばもともと。むしろ協調的、融和的に出る公算が高い。万が一、可決されれば、それはそれで菅首相を葬ることができる。
こう考えると、そもそも小沢陣営に菅首相を支持する動機はない。自民党が不信任案を出せば、小沢陣営はそれに賛成するはずだ。そう先読みしておくべきだったのだから、菅首相はG8に出るため日本を離れる前に、何らかの言明をして先手を打っておくべきだった。
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