2011年4月2日土曜日

いま産業構造計画は必要なのか?

3月の新車販売が35%の減少になった。それ以前に自動車生産のためのサプライチェーンが崩壊状況にあるため生産活動もそれ以上に減少していると予想される。その意味では需要ショックと供給ショックが同時に発生したわけだ。このことは自動車産業にとどまらない。製造業全般に言えることである。

以下の情報が評判(?)になっている。

誠に残念ですが、日本は貧しい国になるでしょう」。米国家経済会議(NEC)前委員長のローレンス・サマーズ米ハーバード大学教授が23日、ニューヨーク市内の講演で断言すると、会場が静まり返った。


国際社会では、被災者の行動と社会のまとまり、現場の作業員、担当者の奮闘を高く評価する一方、政府の指導、東京電力の経営陣には失望している報道ぶりだが、これまた日本に居住し毎日マスメディアに接している国民が感じている印象と大きくは違わない。だから今後の日本経済について政府に何か総合計画のようなものを求めるのは「月をくれろと泣く子かな」の誹りを免れないかもしれない。


今回の原発事故によって日本のエネルギー計画が大きな曲がり角を迎えるのはほぼ確実であり、そのことによって日本の国土利用計画も大きく方向転換していかざるを得ない。これは明らかだが、そればかりではなく製造業および産業全体の発展のあり方も決定的な曲がり角を迎えるだろう。


まず第1に原子力産業が今後発展することはありえなくなった。東京電力が最新鋭の原子炉ではなく、米国GE製MarkIのコピーとも言われる齢40年の「オンボロ原子炉」の安全管理に失敗し、そのトラブルを収束させられないというのは皮肉であるし、「想定外」と釈明すること自体が無能の証明になっている。ただこういう仕儀となり、原子炉メーカーの立場から言えば「何ということをしてくれたのか!」と言っても腹がおさまらないところであろう。が、それを言っても詮方ない。傷ついた信頼の大きさを考えれば、原子力産業を成長性ある輸出市場として位置づける従来の計画は文字通りの水の泡である。有望なチャンスは消えてしまったと認識するしかない。東芝も日立も選択と集中を進める中で原子炉を有力な商品と位置づけていたのであるが、根本的な戦略の練り直しを迫られよう。


第2に、国内でも原子力発電は今後の発展が非常に難しくなった。最新鋭の原子炉がいかに安全で、いかに効率的であろうとも、その障害リスクを考えれば地元の了解が得られず、損害補償リスクをあらかじめ保険料として費用計上するとなれば原子力はさして利益率の高い技術ではないということになる。予想されるのは民営の電力会社から原子力発電部門を切り離し公社形態などにして、ピーク時電力需要に対応するバックエンドポジションであろう。その程度の需要しか生まれてこないのであれば、おそらく今後一人勝ちとなる仏アレバ社から設備を輸入するほうが安全かつ経済的である。このようにして国内原子力産業は安楽死を迎えていくものと想像される。


第3に、以上から日本国内のエネルギー価格は相対的に割高になる。エネルギー多消費型産業は必ず衰退する。北海道など相対的に電源開発余地のある地域に生産拠点をシフトさせるチャンスはゼロではないが、たとえば北海道はもう一つの成長産業である農業、水産業の集積も進んでいくと思われる。製造業を受け入れる誘因を同地がどれほど持つのか、それは不確定である。いずれにしてもエネルギー依存型の都市作りは採算に合わなくなる。たとえば都心の超高層ビルと集中立地、それを前提にしたオフィス機能はもうマネージできないのではないか。地方分散とネットワーク化へと振り子は逆に振れるだろう。それに応じて国民全体のライフスタイルもまた大きく変わっていくだろう。


概ねこの辺りまでは、ほぼ確実に日本経済の今後について想像できる。さて原理・原則のみを言えば、こうした構造変化は市場の価格メカニズムを活用することで実現していくのが最も効率的である。まして大震災勃発後、はやくも国際社会でその能力について疑問符をつけられている日本政府に舵取り役をさせるなど不安極まりない。それは事実である。


しかし社会経済の問題を解決する二大手段である<市場>と<組織>のいずれが今は適切であるかを考えるべきではないか。ミルグロム・ロバーツの古典「組織の経済学」にも強調されているように、時間との勝負、活動の順序が極めて重要である場合には組織的解決が市場による解決に優越する。今回は、時間的順序としては地震、津波、原発事故という順番で起こったが、これからはエネルギー計画、産業発展計画、国土利用計画の順番で国家戦略を固めることが大事だ。そうしてから、産業資源が移動していくように政策支援するのが早道だ。市場は低コストで問題を解決するが、均衡点が複数ある場合、信頼できない。ここまで徹底的に議論をしてはじめて整合性ある復興計画を策定できるのではないだろうか?


エネルギー需給の変化と価格体系の変動が、今後、日本経済の産業構造を大きく変えることは間違いない。国内の産業再配置と海外投資、貿易構造の見通しは相互に密接に関連する。進行管理の手順を間違えれば、有望な産業が海外に流出し、国内の雇用機会が無駄に失われる。その意味でも政府の能力がいまほど求められている時期はないのである。政府に日本経済の舵取り役を期待するなど「月をくれろと泣く子」と同じだと拗ねている場合ではない。


それにしても残念なことは、三全総の定住圏構想と大平内閣の田園都市構想までは均衡ある国土の発展を目指しておきながら、四全総で東京一極集中の遠因を作り、大都市と地方との相互関連の理解が曖昧なままに東京の国際化と地方のリゾート開発という漫画のような夢を追い、その果てに不動産バブルと無用の保養施設を乱造するという迷い道にはいってしまった失敗である。


いま政府のやるべきことは決まっている。あとは人材と能力である。足らない戦力があるとすれば外部からそれこそ<人材注入>をするべきである。それが私たちの選んだ国会と内閣の仕事である。



0 件のコメント: