2011年4月28日木曜日

大震災とマクロ経済統計の精度

経済産業省調査統計部から昨日(27日)メルマガが届いた。3月の商業販売額だ:

本日8:50発表の商業販売統計速報3月分のポイントをお届けします。

3月の小売業販売額は、東日本大震災の影響などにより前年同月比▲8.5%の減少、季節調整済前月比▲7.8%の減少となっています。前年同月比の推移を見ますと、1月0.%、2月0.1%、3月▲8.5%と推移し3ヶ月ぶりの大幅な減少となりました。業種別にみますと、震災の影響に加え、エコカー補助金が終了した影響などにより自動車小売業が▲32.8%の減少、薄型テレビが低調だったことなどにより機械器具小売業が▲17.3%の減少、百貨店・スーパーが不調であったことにより各種商品小売業が▲10.1%の減少となりました。一方、石油製品価格が上昇したことなどにより燃料小売業は5.1%の増加となりました。
3月の卸売業販売額は前年同月比0.5%の増加、季節調整済前月比▲11.3%の減少となっています。前年同月比では8ヶ月連続増加となっています。業種別にみますと、原油及び粗油や石炭の輸入増に加え、鉄鋼の輸出入増などにより鉱物・金属材料卸売業が9.9%の増加、通信機や音響映像機器(含部品)の輸入増などにより機械器具卸売業が2.6%の増加、穀物類の輸入減のほか、東日本大震災の影響による、野菜、水産物等の取扱い減などにより農畜産物・水産物卸売業は▲13.4%の減少、各種商品卸売業が自動車、同部分品の輸出減などにより▲7.5%の減少となりました。
被災地の数字ではなく全国ベースの数字だ。やはり前月までの水準に対して10%程度は落ちていて、これは新聞報道などから伝わっている実感と合う。(注: 卸売販売の前年同月比が0.5%増加というのは不自然。昨年の3月に特殊原因の凹みがあったのだろう・・・ちょっと思い出せないが)。


いま届いた日経速報メールでは「3月の鉱工業生産指数、15.3%低下 過去最大の落ち込み」とあった。15%減!足元の生産はマイナス10%というエコノミストの中位予測は少々甘かった。個人的感想だが、確報、更には生産動態統計ではなくGDPの確報でも使用する工業統計が出れば、もっと生産は落ちているような気がする。


さて、日本のマクロ経済の中間決算とも呼べるGDP統計はどう出るだろう?
大震災の影響は受けないのだろうか?


内閣府は2011(平成23)年1ー3月期四半期別GDP速報(1次速報値)における推計方法の変更についてを発表している。GDP速報値は生産側が4割程度、需要側のデータが6割程度のウェートで使われているが、基本は消費需要、住宅需要、設備投資需要、在庫投資需要、政府支出、輸出入を個別に推計していく手順をとっている。


最も困難を極めるのは<在庫投資>だろう。上の販売統計や生産統計をみても、3月の落ち込みは10%以上はある。生産と需要は結果としては売りと買いで同じ金額になる。だから生産が落ちていれば必ずGDPは落ちており、需要の合計も落ちている。


3月は消費や投資も落ちたが、それは品不足のせいだ。買いだめが多量に発生したことを思えば消費支出は増えている可能性もある。その一方で在庫が払底している。<必ず在庫投資は大きなマイナス>になっているはずだ。


在庫投資の出し方は内閣府の資料では次のように解説されている:
民間在庫品増加(原材料在庫及び仕掛品在庫)については1次QEにおいてはARIMAモデルにより推定している。ARIMAモデルでは予測しえない顕著な在庫変動が判明している石油について「石油統計速報」の月末在庫数量の情報をARIMAモデルによる推計値に加味し、民間在庫品増加(原材料在庫及び仕掛品在庫)を推計する。


ARIMAモデル、つまりは従来の変動パターンを外挿して延長するという方法なのだが、今回の場合はそれではフォローできない。石油については参考データで加味すると記載されているが、震災の影響はミネラルウォーター、日常品などあらゆる消費財の動向におよび、また建設資材の在庫、自動車部品、IT関連の在庫も払底している。


2次QEでは法人企業統計が出てくるので少し精度はあがる。しかし被災地所在の企業が統計調査にどの程度回答できるのか、これまた非常に不明である。


もっとも今回推定しているのは1ー3月期だ。3月の数字が一部わからないのも困ろうが、しかし次は4ー6月期の数字を推定しなければならない。こちらのほうが本質的には難しいのではないか。


GDP推定に曖昧さが出てくると、潜在的な生産能力の把握も定かでなくなり、経済成長率の数字もどの程度信用していいのか分からなくなる。日本経済のバイタル情報が追跡できなくなるという決定的状況に立ち至る。


GDP統計はまだ作れる。資本ストック統計はどうか?地震と津波による損壊は資本偶発損として計上しなければならない。おそらくそれは当面は<推定不能>であろう。


しばらくは日本のマクロ統計作成に目が離せない。

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