2019年6月11日火曜日

金融庁ワーキンググループ報告書について

年金だけで老後を生活するには足りなくて2000万円の貯蓄が必要だという数字が金融庁報告書に記載されていたというので「一大騒動?」になっている。

レポートをまとめた担当課長はおろか、担当局長、いや金融庁長官までもが、政権幹部から大声で怒鳴られたのではないかと予想する ― パワハラではない。昔からある事務方のチョンボという奴だ。何をいうにもタイミングと言い方がある。

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上で「言い方がある」と述べたが、今回の騒動には不思議な面もある。

そもそも年金の平均受給額が21万円~22万円程度であることは以前から周知の事であったし、毎月の一世帯当たり平均支出額が25万円~26万円程度であることも、経済統計をみる人間には当たり前の常識的な数字であった。なので、引き算をすれば『毎月4万円くらいは足りませんよネ』という話になるわけで、その位は世間の誰でもが薄々にしろ知っていはずである。マア、4万円の引き算が5万円になったという違いはあるが。

要するに、今回初めて明らかになった数字ではない。とっくに分かっていた数字である。

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現実にはいろいろな人がおり、カミさんの友人の集まりでも「まあ21万円もらえれば何とかやっていけるよね」というお喋りで一件落着したそうだ。「それじゃ足らないよね」という人はいないとのこと。

「ホントに毎月25万くらい使っている人がそんなに多いの?」と今朝もワイドショーをみながらカミさんが言うものだから、「平均値だからネ、毎月30万円以上使っている富裕層がいれば平均値は上がるのさ」というと、「すごい財産持っていれば、そのくらいは使えるからねえ…」と納得顔をしている。「うちだって相撲を観に行ったりしただろ?あれは生活費じゃなくて、僕の配当収入から出したんだよ、『年金だけではゆとりのある暮らしには足りません』、報告書に書いているとおりだよ」。まあ、こんな話になるのではなかろうか。

いくら野党の政治家でも、「相撲観戦旅行くらいは支出できるくらいの年金額にしろ」とは言うまい。

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そんな事情がある中で、改めて<2000万円必要説>となって政府から公表されたというわけだ。それが炎上するとは予想しなかったのだろう。とすれば、この騒動、<自然発火>ではなく、<放火>であるに決まっている話だ。

マア、あれである…『こんなことを書けば、「2000万円貯めろ」という趣旨で受け取られてしまいますヨ」と、小生なら席上で言ったと思うが、委員というのはやはり無責任なのであろう。誰も何とも言わなかったと見える。まあ、当たり前すぎる数字であるので、無感覚であったのかもしれない。

【後刻加筆】おそらく金融庁の担当部局は「年金だけで足らないのは資料からハッキリしたわけですから、投資非課税枠の拡充がどうしても必要です」と。財務省への予算要求資料に活用しようと考えていたのだろう(とも憶測できる)。もしそうであれば、作戦が巧緻に過ぎた。財務省へ概算要求する前に、「年金だけでは2000万円不足する」という言葉だけがつまみ食いされて炎上してしまった。もうこの資料は使えないだろう、というより麻生財務相が報告を受け取らないと言明してしまった。お蔵入り。作戦失敗である。

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今朝もカミさんと話したのだが、「貯金を取り崩せば足らないと感じるサ、投資しろっていうことなんだよ、これは」というと、カミさんは不満顔である。「たとえばネ、100万円を貯金して金利が0.3%なら3千円の利子しかつかないんだよ、それを例えば日本たばこ産業(JT)の株に投資すれば配当が6.1%もらえるのサ。6万1千円だヨ。貯金にこだわれば3千円。だから足りなくて取り崩す。投資すれば6万円余りもらえる。いま日本では450万円くらいの貯金をもっている人が一番多いんだけどネ(統計ではモードと呼ぶ)、それをいま一番有利な投資先であるインフラ投資法人に投資すればネ、税込みで8.3%の分配金がつく(エネクス・インフラ投資法人のケース)。年間で37万円、月々3万円にはなるのサ。毎月5万円足らないといっても、無駄な出費を2万円だけスリム化して、3万円を投資収益からもらうとすれば、誰でも…イヤイヤ「普通の」世帯でもだ(だから統計的なことは要注意だ)バランスするんだよネ。貯蓄を取り崩す必要もない。このほうが賢いじゃないか。要するに、こういうことを言いたいレポートなんじゃないの?」。こんな風にいうと、「でも周りの人はみんな投資なんて嫌がってる!元本が下がったらどうするの?」。「十分な配当があれば、たまに下がっても気にしなければいいだろ。それに下がったものはまた上がるんだよ。大体、取り崩しておきながら、元本が下がるのは嫌って、なんなんだよ」。「それでも価値が下がるのは嫌だなあ…」。「君が嫌がるから僕がやってるのさ」。それで、今朝の話はおしまい。

投資は嫌い。であれば、不足額は貯蓄を取り崩すしか(一世帯の立場にたてば)選択肢はない。しかし、こんな姿勢は経済的に不合理である。不合理なことをやっていると損をするばかりである。

やはり『2000万円の資産が必要です』という言い方は、あまりにも刺激的で幼稚にすぎた。とても専門家の報告書とは言えないレベルである。しかも、選挙直前のこの時期に・・・。一体、ワーキンググループの座長は誰だ・・・「危ないですよ」と指摘しなかったのか…などと思って調べる人は多いに違いない。

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