2020年8月11日火曜日

ホンノ一言:ブランディング戦略に無知な中国政府

 中国政府は自国が丸ごと「コモディティ化」しつつあるという心配とは全く無縁に見える。要するに、鈍感なのだろう。


"Made in China"を買うのは「安い」からであった。もっと安い競合品があればそちらを買う。世界中で中国産製品が買われてきたが、それが「良い」から買われてきたかといえば、それほど多くはないだろう。故に、中国が国家戦略をとるとすれば、自国の魅力を高め、自国の商品の訴求力を高め、人を集め、ファンを増やし、高くとも買ってもらえる商品を開発するという選択肢をとるべきであった。そんなステージに中国は達している。そう観てもいいのではないか。もちろん「べき」というのは「そうしてはいない」ということなのだが。いずれにしても、経済発展のステージごとに、その国には解決するべき新しい問題が課されるのは、どの国も辿ってきた道だ。日本は明治維新と近代化には成功したが、模倣をした「帝国主義国家」としては知恵と工夫が足らず見事に失敗した。


中国は《差別化》には成功していない。もし成功していれば、中国発の音楽、美術、芸能、文学、映像等々、多分野の文化的産物がソフトパワーとして世界中に浸透しているはずだ。誰もが中国の暮らしに憧れの気持ちを感じ始めていなければならないわけである。ところが、差別化に成功するどころか、意図的に"Image Branding"とは真逆の"Image Dis-branding"に努力しているのが中国の現政権だろう。文字通り"China's Self-Disbranding Policy"である。これでは、中国国内で中産階級をより一層抑圧して、もっと強力なコストカットと攻撃的安値戦略をしかけていくしか、進む道がない。


こんな風では、近世以降、現代中国に至るまで、中国文化に親しみたい、古典作品を再び鑑賞し直したいと思う人は出ては来ないだろう。いるとすれば、ただ「警戒心」から研究しておこうと考える人ばかりであろう。必ずしも産業全般のコスト競争力が盤石だとはいえないイタリアやフランスが、それでも世界市場で独特のポジションを占めている戦略とは真逆の方向である。いまの中国がこの方向を進み続けて人々は堪えられるのだろうか?


中国はこれまでキャッチアップ・モデルがあった。これからは「海図なき航海」である。日本は1980年代末に一度「経済大国」として成功したが、海図なき航海を始めた途端にバブルが崩壊し、モデルを失った政府は右往左往し、時間を空費した。「失われた15年」のトンネルを守り一辺倒で進んでいるうちに高齢化の高波がやってきた。中国も新しい海域にいる。もう海図はない。共産党一党独裁制の下で資本主義的経済を成熟化させるという史上空前の難問に直面しつつある。


この40年間に中国が達成した経済的躍進は実を結ばないとここで予想しておく。経済成長は、支配‐被支配という関係の下では、持続しない。中国のヴァルネラビリティ(Vulnerability)はこのままでは高まるだけであろう。こんな簡単な理に現政権が鈍感であるのは残念なことだ。

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