2022年3月10日木曜日

ホンノ一言: 「ウクライナ戦争」で核使用はありうる・・・これは無責任な煽りか?

日本国内のTV、その他のメディアでもロシアが「ウクライナ戦争」で戦術核を使用するかどうかで、世間の井戸端会議が結構盛り上がっているようだ。

アメリカのTVでもこれ程の頻度で話題にしているのだろうか?それに準・当事国である西側ヨーロッパ、例えばドイツ、フランスではどんな見方をしているのか?どうもこの何日かの日本国内のメディアの伝え振りは、まるで日本はアメリカの一部であるかのような色合いがあって、甚だ気色が悪い — それならそれでイイのだが、そうであればアメリカ国内の世論、見方を幅広くピックアップするのが筋である。

中には、太平洋戦争末期に米軍が日本の広島、長崎で現に原爆を投下している。だから、自国の犠牲を最小化するという戦争の論理がそろえば、いつでも核兵器は使用されうるのだ、と。だから戦術核の使用は十分ありうる、と。そんな自説を開陳するワイドショーのコメンテーターもいる位だ。

しかしナア・・・ちょっと待って、と:

太平洋戦争は、そもそも宣戦布告を行った(正式の)「戦争」であった。それに日本が宣戦布告よりも前に真珠湾を先に攻撃していた。日本から相手領土に奇襲攻撃をかけていたわけである。その後、4年弱の間、死闘を続け、最終盤では「特攻」という禁じ手に近い戦闘行為も敢えて採ってきた日本に対して、米国が最終的に選んだのが核兵器であった点を忘れてはならない。ソ連参戦が間近であるという予測の下で「1日も早く戦争終結にもっていきたい」という強い動機をアメリカ政府がもっていた点も重要な要素である。

今のウクライナの現状は太平洋戦争とは全く異なる。

現在の情況の下で、仮に戦術核をロシアが使うと、そのままロシアにとって負の情況が生まれるのではないだろうか。

具体的にいえば、

  1. ロシア自身、今回の武力行使を「ウクライナ戦争」とは言っていない。それどころか、ロシア国内で「戦争」と表現するメディアがあれば「フェイクニュース」の流布という罪で処罰するとの法をすら制定している。厳重な報道規制だ。
  2. 「戦争でない」と言明しているにも拘わらず、「核兵器」を使用するとすれば、戦争でなくとも核兵器を使用することがあると自ら認めることになる。
  3. ということは、戦時でなく平時であっても、例えばテロのような暴力を抑止するためにでもありうるわけで、そうなるとヤラレル前に核テロに訴える動機を反政府分子に与える結果になる。つまり、従来の「爆弾テロ」を超える「核テロ」が十分ありうるとして容認し、ロシアとしては受けて立つ。「核使用」を人道上の違法行為であるとしてその行為自体を非難する立場には立たない。こういう論理を採用しているとコミットすることになる。

これは正に《核廃絶条約》とは180度正反対の世界観であるが、このコミットメントはロシアに恩恵をもたらすだろうか、損害をもたらすだろうか?

勇気を超えて、野蛮、それよりは馬鹿であると小生は思う。チェチェン紛争以来の反政府分子を国内に多く抱え、今またウクライナ出身のテロリストまでも予想せざるを得ず、しかも核テロを警戒対象に含める、そんな社会状況をつくってしまうわけである。こうなることを覚悟せよとは、さすがにロシア国内に向けて言えないのじゃないかと、小生なら考える。危なくって仕方がないではないか。出来れば核廃絶条約に署名をする国でありたいと、既に恨みをかっている国民ならともかく、普通なら思うのじゃないか。

なので、核兵器を使うなら<戦時>に限定する方が自分の身のためではないかと思われる。

つまり

ウクライナとは<戦争>をしている

ロシアもそう認め、戦争を宣言する。ロシア国民にも告げるというステップが必要だと思うのだ、な。(常識的に、理屈としては)それが核使用の前提になるのではないだろうか。

一部には、ロシアは2月24日に『ウクライナに対して宣戦を布告した』と記述している記事もあるが、これは間違いだ。現在時点においても今回の派兵は<平和維持行動>であるという主張を変更していない(はずだ、もしもその後になって対ウクライナ宣戦を布告しているなら本稿は単なる言葉の遊びに過ぎない)。ロシアの肩を持つわけではないが、この点は既に国内でも報道されている。

プーチン氏の決定に先立つ23日、ロシアのペスコフ大統領報道官は親ロシア派武装勢力が「ウクライナ軍の攻撃を撃退するため」の支援をプーチン大統領に要請したと明らかにしていた。

(中略) 

プーチン氏は21日にウクライナ東部ドネツク州とルガンスク州の親ロ派が実効支配する地域の独立を一方的に承認したうえで、軍を派遣する方針を決めた。

これを受け、ロシア議会上院は22日、国外へのロシア軍派遣を全会一致で承認した。プーチン氏はウクライナ東部紛争の和平条件を定めた「ミンスク合意」について「もはや存在しない」と一方的な破棄を宣言した。

Source:日本経済新聞、 2022年2月24日 11:57 (2022年2月24日 14:24更新)

日本国内のメディアは「特別軍事作戦」と和訳しているが、ロシア上院が承認したのは、 これである。ウクライナ軍の攻撃を撃退するための支援を目的とする海外派兵であって、ウクライナを敵国とする「宣戦」ではない。ロシア国内で、「戦争」、「侵攻」という意味の言葉が使用不可になっているのはこのためだ。

確かにウクライナはいま「戦争状態」になっている。が、これを「ロシア‐ウクライナ戦争」と表現するのはアメリカを中心とする旧・西側諸国の目線であって、ロシアはそう言ってはおらず、中国も表現には慎重である。慎重であるからといって、ロシアの味方だというのは非論理的であるし、日本の敵だというのも軽薄だ。そこまでアメリカと一心同体になって踊る必要はない。日本は日本で考えればよい。「戦争状態」である事実が重要であって、それが「戦争」であるのかどうかは、当事国の政治家の「ものも言いよう」の事柄になる。

ところで、《戦争》は、絶対王政時代ならいざしらず、近代"Nation State"においては国民全体として引き受ける国家的行動である。故に、戦争遂行には国民の了解と覚悟が不可欠だ。例えば、アメリカが外国に対し<戦争>を宣言する権限は、最終的には議会が有している。これも同様の理屈だろう。

ということは、ウクライナに対する宣戦布告を改めて行わないとしても、ロシア国民に対するプーチン大統領の何らかの戦争宣言ないし議会に対する宣戦要請があり、ロシア側が予備役を召集し<総動員体制>に移るとすれば、その時点からこそ、ロシアは《対ウクライナ戦争》、あるいは(ひょっとしてそれから派生する)別の戦争を国としても覚悟した、と。従って、それ以降はロシア国家の生存のために<核兵器>の使用が十分ありうる。こう考えるのがロジカルだと思う。

ただ、仮に核使用の前提が成立する状況になったとしても<使用の確率>は高いのだろうかというと、やはり疑問がある。簡単に言うと、核兵器を用いることによって敵国(=ウクライナ?)を打倒すれば、眼前の「絶対戦争」には勝利を得られるだろう。しかし<勝利>は、勝利するが故の国益が巨大であると期待できる時にのみ意味がある。ロシアが「これ以上苦戦をしたくない」というこれだけの理由でウクライナ戦で核兵器を使うとすれば、より長期の、より厳しい国際的制裁が待っている。これが分からないはずはない。太平洋戦争末期のアメリカの立場とは本質的に異なるのだ。更に、ウクライナを相手にしてすら核兵器なしで勝てないというロシア軍の弱体さが露呈するのは政治的失策である。第3次世界大戦を覚悟せずにロシアが軍事行動を起こすのは困難になる。つまり軍の弱体が露呈した以降、「脅し」は「空の脅し」、「張り子の虎」になる。本当に世界大戦になればロシアは(負けないかもしれないが)決して勝てない。つまり軍事的脅しによってロシアが利益を拡大できる機会はもう訪れないというわけだ。ロシアがロシアの国益を自ら毀損するこんな阿呆な選択はしないだろうと、(理屈としては)そう思われる。故に、ロシアは何としてでも通常兵力のみによって「紛争終息」にまで持っていこうと考えているはずである。

逆に考えると

プーチン政権が<戦争>ではないと強調しているにもかかわらず、ロシア国民の了解を得ることなく、大統領個人の判断でウクライナに対して核兵器を使用する場合、その事実をロシア国民に(何らかのチャネルを通して)伝えることが、旧・西側諸国にとっての有効な作戦になりうる可能性がある。であれば、こんな弱点を自らつくる愚策はプーチン政権なら採らないだろう。

こういう推理も成り立つだろう。


今さら敢えて書くまでもないことだが、念のために加筆しよう:

プーチン大統領が強調する「戦争ではない」という点だが、世界中に広がっている義憤はこの欺瞞に対するものだろう。というのは、もしこれが「戦争」ではないとすれば、今回の「侵攻」は単なる「領土侵犯」である。またいま行われているのは「戦争」ではなく「殺人」である。不思議なことに、この矛盾を指摘する専門家は寡聞にして知らない。不思議だ・・・

やはりプーチン大統領は、国連憲章を無視してでもウクライナに対して「宣戦」するべきであった。しかし、多分、開戦するための《大義名分》がなかったのであろう。

東ウクライナの親ロシア政権からモスクワに軍事支援を要請し、集団的自衛権発動に基づいてまず東部地域に限定して侵入すればよかったのだ ― 旧・日本陸軍の関東軍ですら満州事変で軍を動かす際には《柳条湖事件》を自作自演し、先に動いたのは中国側であるとする大義名分を捏造していたのだから。ロシア政府・・・満州事変を研究してなかったんだネエ。北京政府の方が親ロシア政権承認を受けて『これではまるで満州事変じゃないか』と衝撃を受けたというから、まだ中国の方が勉強しているようだ。やはり以前の投稿のように今回の事変は「ロシア版の文禄・慶長の役」というところか・・・ヽ(´Д`;)ノ

さて、今日の投稿、どうまとめるか・・・

現状はといえば、プーチン大統領自ら、今回の武力行使は<戦争>ではないと何度も強調している。というより、ウクライナ紛争の現状がロシア国民にどのくらい正確に伝えられているか疑いがある。プーチン政権がロシア国民にウクライナの情況を隠蔽しているとすら言われている。であれば、「ウクライナとの戦争に立ち至った」としてロシア国民の理解を得るのは難しいのだろう。である限り、「戦争」にはできず、従って「戦時」にもなりえず、故に「核兵器」の使用もない。そんな推理になるのではないか。

但し、ロシアとウクライナとの<武力衝突>にNATOが軍事力を行使してウクライナ側に加担、紛争に介入するとなると、これをロシアが「ロシアに対する戦争行為」であると認識し、NATO側に対して《宣戦布告》をする可能性はある。仮に(万が一)そんな事態になれば、文字通りの「戦争」になる以上、勝利を得るためには核兵器が使用される確率が1に近くなる。ほぼ確実に核兵器が使われる。そう予想しなければならないだろう。一定の利益を追求する「限定戦争」はありえず、生存をかけた「絶対戦争」となる。つまり《第3次世界大戦》である。

ロジックはこうなるのではないかと思われたのでメモする次第。





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