ロシアを国際的決済ネットワーク"SWIFT"から排除するという制裁について、日本国内のマスコミでは
SWIFTからロシアを排除したからといって戦争を直ちに停止させるという短期的効果はありません。ただ長期的にはロシアに相当効いてくるはずです。
こんな理解の仕方が多いようだが、これはちょっと違うのではないかという気がする。むしろ正反対ではないかと観ている。
短期的にはロシアに意思決定の変更をうながす効果がある。しかし、長期的には効果が減殺されるであろう。そう考えている。
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というのは、経済理論には古典的な『貨幣ヴェール観』という見方があって、ケインズの登場以後も、今なおそれがまったく間違いではないとされているからだ。
つまり、マネーを調整することによって、ヒトやモノの生産、雇用、分配、消費、生活水準、成長など経済の実質に対し長期的、本質的な影響を与えることはない、という見方である。
経済のあり方は各商品の相対価格を通して資源配分が決まるというリアルな要因で決まるものである。国内外の金融市場を通したマネタリーな手段によってリアルな経済をコントロールしようとしても、短期的な影響(≒短期的な景気変動)はひき起こせるが、長期的にその国の生産、成長、雇用などを変更することはできない。長期的には、その国の資源賦存、技術水準、人口と嗜好などリアルな要因によって成長経路が決まる。
もしマネーを調整することによって経済のリアルな状態を制御できるなら、日本の実質経済成長はもっと上がっていなければならない。実質賃金も低下傾向をたどるなどということがなかったはずである。金融政策を担当する日本銀行がいくら頑張っても、日本の潜在成長力をマネーによって高めることはできないという理屈である。
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(特に)ドル決済ベースの貿易取引を阻害し、ルーブル経済圏(=ロシア国内と限られた領域)に混乱を生じさせるという手段は、マネタリーな制裁である。確かに、ロシア国内に金融的パニックが発生しているようで、これは金融的制裁による短期的効果である。しかし、マネーは所詮はマネーに過ぎず、リアルな商品流通は各国の各商品に対する需要と供給で長期的には決まってくるものだ。
例えば、SWIFTからロシアを排除することでドイツはガスを買い難くなる。便利な決済手段がなくなるからだ。しかし、ドイツがガスを需要するというリアルな要因に変化がなければ、SWIFT以外の手段によって必ずガスを買うはずであり、SWIFTが利用できなければ他の手段が拡大するだろう。
そのようなことはしないとドイツが決定すると言うことは、
ドイツがガスに対する需要を規制する
つまり、ガス価格暴騰、ガス公定価格の設定といった方向はおそらく採らず、《ガス割当制》などの数量規制を導入する可能性が高いという理屈になる。こうした政府による規制が正にリアルな行動変化ということになるのであって、この種のリアルな政策なしにSWIFTというマネー要因だけで長期的な効果を与えることはできないはずだ。
だから、SWIFTからの排除は短期的には効果がないが、長期的には効果がある、というのは厳密に言えば間違いである。その逆であり、今回の「金融的な核兵器」は、短期的効果(と中期的効果まで?)は期待できるものの、長期的には効果がない。他の代替手段が自然発生する。これも環境変化が誘起する(金融的)イノベーションである。事態の推移はそう観ておくべきであろう。
まとめると、SWIFTというマネー的要因を補完するリアルな市場規制政策が必要になる。
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リアルな市場規制政策・・・数量割当て経済・・・つまり、旧・西側諸国も《準・戦時体制》を採るという理屈になっていかざるを得ないのだが、これを懸念している専門家が日本国内に一人としていないのは不思議で仕方がない。
思うのだが、今回の「事変」は、そもそもNATOという地域的軍事同盟に端を発するロシアとウクライナの地域的不和と紛争である。その不和がグローバルな経済的厚生の低下をもたらす、と。
これは非条理であると小生は考える立場にいる。
小生には、そうするだけの価値が見いだせない。価値を守るためだという人々が現にいるのは承知しているが、それはどこか
エルサレムを守るためには十字軍が必要である
こんな超越的な価値判断がそこには混じっている感覚がある。
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昨日の投稿では
「価値」やら「主義」やらは地に足が着いた生活感覚の上になければならない。おしゃべりや見栄や高揚感では空腹もみたせない。人生とは関係のない代物だ。
最も怖いのは意図せずして、善意の行動を積み重ねる結果、世界大戦へと拡大することだ。だからルールを設ける必要がある。鉄則は戦争当事国の領域内に武力紛争を局地化することである。なぜそれを誰も発言しないのか、不審で仕方がない。事は世界平和に関するのだ。戦争状態が長引いて喜ぶのは軍需産業だけである。
こう書いている。
その果てに、機能不全が続いている「国際連合」。これも拠出金が高いし、いざという時は小田原評定で役には立たないし、脱退国が続出するかもしれないネエ。
こうも書いている。
《長期的》にモノを考えるなら、ロシアに対するSWIFT排除の効果などで無意味なお喋りを電波を使って放送するのではなく、国連という(今のところ)唯一の平和維持機関の組織改革を力説するほうが、マスメディアの社会的役割を全うできるというものだろう。
「SWIFT排除」など短期から長期にかけてどんな影響が出てくるか分からないような手段ではなく、《平和維持区域》の設定、《多国籍監視団》くらいは国連総会で議論するべきだろうと。そうなるように国際世論を高める程度の努力は、そもそもロシアに敵対的な英米豪加などファイブ・アイズ構成国ではない日本でも出来ることではないかと思われる。
最近の国内の世相は、遠い場所に発生した武力紛争であるせいか、他人事のような競技感覚が最初からアリアリと見えるばかりでなく、中身を理論的に考えてみようとしない愚かさがあって、久しぶりに唖然・呆然・慄然の3然を感じている。
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