ファイターズが長くて暗い連敗トンネルに迷っている間、一点差の負けが増えるにつけ、打てることは打てるが、打つべき時には打てない打線に、毎日毎日、フラストレーションがつのったものである。
こういう「打てることは打てる」のに、「肝心のところで打てない」という「結果を出せない」状況が続くと、観る側も、観られる側も、「何とか…」という焦りが高まり、次は「どうせ…」という自暴自棄の心理になり、雰囲気が非常に悪化するものだ。最近の北海道社会は概ねそうなっていた(と感じている)。
そして、これに似た状況はマクロの日本社会にもあって、この数年間、何かの話しで『どうせ……だろう?』という台詞を口にしたことがない日本人はもはやレアではないだろうか?
日本社会の心理は、ファイターズが連敗のトンネルでもがいていた時のチーム内の心理、応援するチーム外の心理と似ている面がある。そう思ったりもするのだ、な。
関係者はみな真面目なのである。努力もしている。しかし、勝てない。チャンスを失い続けている。責任者が戦略を語っても、『どうせ…』と反応する。それで決定的なピンチに決定的なエラーをする。悪循環である。
これでは勝てる道理がない。
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実際、「日本病」の克服にはあるレベルの荒療治が必要だと考えている(らしい)デービッド・アトキンソン氏は、最近、こんなことを述べている。
イノベーションを起こすために人材交流はあった方がいい。ただ、今の日本は能力が高い外国人から選ばれにくい。生涯収入を考えれば、経済成長が見込まれる国で働くほうが合理的だ。機械化やデジタル化を進め、低賃金依存から脱却しなければ「選ばれる国」になれない。
日本で働きたい人は一定数いるが障害も多い。言葉の壁が最も大きい。英語を習得すれば欧米やアジアの多くの国では働ける。日本語を学んでも使えるのは日本だけだ。
変化をためらう企業文化も働きにくさにつながる。能力がある外国人でも発揮できなければやりがいを感じず、ふさわしい収入も得られない。
Source:日本経済新聞、 2023年7月24日
URL:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO72980040T20C23A7TLF000/
<イノベーション>、<合理的>、<働きにくさ>。この三つのキーワードが日本社会について使われるなら、大体、どんな提案がされているのか、大方の日本人は推測がつくだろう。そして、提案は正論であることにも(本音では?)賛成している(はずだ)。しかし、それと同時に『どうせ……』とも思っている。
典型的な《敗北主義》に日本人の多くが染まっているのが現状だ。
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ところが、岡目八目というか、外国で暮らす全くの外国人の目線を知ることも大事だというのは、クルーグマンがNYTに寄せたコラム記事である。タイトルはズバリ"What happened to Japan?"、『日本で何が起きた?』である。
最初に「失われた15年」などと騒がれ始めて以来、クルーグマンは日本経済の動向には高い関心を抱き続けているようだ。壮大な社会実験が為されていると思っているのだろう。
クルーグマンが今後の中国の成り行きを予想しようとするとき「日本はかなり上手にやって来た」と、そう考えざるを得ない。そんな視線で日本を観察していると知れば、多くの日本人は意外に感じるとともに、自信も少しは取り戻すかもしれない ― それでなくとも日本人は称賛を喜び、時に有頂天になり、非難にはしょげ返り、時に我を失うという弱点をもつわけで、この点、ロジックに沿っていると認識する限り、外部から何と批判されようと屁とも思わない(かのようにみえる)ドイツ人とは相当国民性が違う。
These days the focus of anxiety about global competition has shifted from Japan to China, which is a bona fide economic superpower: Adjusted for purchasing power, its economy is already bigger than ours. But China has seemed to be faltering lately, and some have been asking whether China’s future path might resemble that of Japan.
My answer is that it probably won’t — that China will do worse. But to understand why I say that, you need to know something about what happened to Japan, which wasn’t at all the catastrophe I think many people imagine.
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And while this is hard to quantify, lots of people I’ve talked to say that Japanese society is far more dynamic and culturally creative than many outsiders realize. The economist and blogger Noah Smith, who knows the country well, says that Tokyo is the new Paris. Given the language barrier, I mostly have to take his word for it, although having been taken around Tokyo by locals, I can confirm that the city has a lot of vitality.
True, that same language barrier means that Tokyo likely can’t play the same role in global culture that Paris once did. But the Japanese are clearly having great success with sophisticated urbanism; if you think of Japan as a tired, stagnant society, you’re getting it wrong.
Source: The New York Times, July 25, 2023
URL: https://www.nytimes.com/2023/07/25/opinion/japan-china-economy.html
東京を実際に訪れてみれば、「日本語」の壁があってパリとはまた違うが、そこでは洗練された都市文明がダイナミックに発展している。
日本はずっと人口減少を伴う低成長社会を苦労しながらも巧みにマネージしてきた。社会的安定性を維持しながら一体感(Solidarity and Cohesion)をも(最近はそれでも誹謗中傷がネットでは蔓延しているが)保ち続けさせてきた。
これは正に「激賞」ではないか。
要するに、中国にこういうことが出来るか?という眼差しである、な。
そもそも高齢化で人口が減少する下で、マクロ的均衡を保ちながら十分な雇用機会を提供して、現役・若年層の失業率が上がらないように十分な投資活動を維持するというのは、経済学的に非常に難しい課題なのである ― 貯蓄を取り崩す傾向のある高齢層が増える中でも経常収支黒字を続け、それでいて生産力を維持して雇用機会を確保している。ヒトが減るなら移民を迎えればそれで問題解決だと主張するゾウリムシ程度の「国際主義」とは、同じ国際主義者とはいうものの、考察の深度が違っていることが分かる。
そこで結論的には
So, no, China isn’t likely to be the next Japan, economically speaking. It’s probably going to be worse.
中国は、(ひょっとすると)日本が辿った道を歩むのではないか、と。そんな懸念があるが、そうではない、と。おそらく日本よりもっと悪い道を辿る。そう結論を出している。
クルーグマンの予想は意外に核心をついていると小生も思っている。
実際、中国は生産力拡大という「開発」という面では大いに成功したが、成功すれば人を魅きつけ、多くの外国人が中国に集まり、訪れた人は誰でも中国人の生活と中国文明に夢をみるのが「文明」というものだ。が、現実の中国は外国を怖れ、そればかりではなく政府は自国民ですら警戒している。人が魅力を感じない文明は文明たりえず、文明の発展しない経済発展をしても「大国」にはなりえない。中国を訪れるのとは反対に、自国の中国人が海外に行きたがってばかりいる。こんな「大国」が世界史上にあったためしはない。かつてのソ連ですら、作家パステルナークやソルジェニーツィンが生まれ、反体制的ではあるが社会主義社会を文学にできたのである。そこにロシア文学の伝統を世界の人は見ることができた。暗かった戦前期・日本でも小林多喜二の『蟹工船』が発表され、現代の日本人はそれを読むことが出来る。いま中国の文明に魅かれて中国を訪れたいと願う人々が世界でどの程度増えているだろう?増えなければ中国は「大国」になれる理屈はないのである。
が、「失敗」に関しても、初めてのケースよりは二番手のほうがずっと有利である。中国は決して日本の轍を踏まない。よい意味でも、悪い意味でも。この位に考えておく方がイイようだ。