2013年1月15日火曜日

<懲罰>によって秩序を維持する国家 vs <自発性>によって維持される国家

上の表題とは少しずれているかもしれないが、今年になってから以下のような報道があった。少し古くなるが、引用しておこう。
中曽根康弘元首相が会長を務める公益財団法人「世界平和研究所」(佐藤謙理事長)は9日、安倍晋三政権への緊急政策提言を発表した。民主党政権で問題となった外交・安全保障分野では、日米同盟の深化とともに、「共通の価値観に基づいた強固な『海洋型同盟』」を目指し、オーストラリアや東南アジア諸国連合(ASEAN)各国などとの連携を推進するよう提言した。さらに「防衛力強化の自助努力を早急に行う必要がある」として防衛費の増額を求めた。 
 「海洋型同盟」や防衛費増額の提言は、沖縄県・尖閣諸島への領域侵犯を繰り返す中国など「大陸型国家」を念頭に、「不安定要因を排除する」のが狙い。一方、中韓両国との関係の再構築に関しては「新政権が誕生したばかりで、またとない機会だ」ともした。 
 提言は7項目で構成。憲法改正条項について「早急に議論を集約する必要がある」と指摘。原子力エネルギーを推進し、原発の再稼働をできる限り速やかに行うことも求めた。
(出所)MSN産経ニュース、2013年1月9日配信
この意気や良し。とはいえ、上でいう<共通の価値観+海洋型同盟>というと、どうしても古代ギリシアでアテネを中心とした「デロス同盟」を思い起こしてしまう。

デロス同盟とは、ペルシア戦争後に自国へ撤収したスパルタなどのペロポネソス半島諸国軍の空隙を埋めて、残された掃討作戦を共同で進めるため、主にエーゲ海・小アジア沿岸諸国を構成員に、毎年一定額の負担金を支払いながら、軍事活動を継続するために締結されたものである。対ペルシア対策が当初の目的だったのだが、仮想敵国であるペルシアの脅威が遠のく中で、年を経るにしたがって同盟は変質し、むしろ新興国アテネがギリシア世界の覇権を握って巨大な<海上帝国>を築くための道具となっていったのだ。

古代世界の世界大戦ともいえるペロポネソス戦争は、アテネが求める共通の価値観についていけない「その他国家」が、一斉に反アテネの戦争に踏み切った時に発生した。開戦を決定する会議でためらうスパルタに対して、コリントの代表が言ったそうだ。
彼らは改新主義者だ。鋭敏に策をたて、政策は必ず実行によって実らせる。ところが諸君は現状維持を奉じている。・・・事実、彼らは外に出れば何かが手に入ると考え、諸君は出れば手の中のものを失うと恐れる。
(中略)
ラケダイモン(=スパルタ)の諸君、これが諸君の前に立ちはだかっている敵国の正体だ。しかるに諸君はさいごまで逡巡し、容易に考えを改めようとしない。平和をもっとも確実に維持するためには、戦備を強くして秩序を守り、侵略者には決して譲らぬ明瞭な政策を示すことが必要条件であるとは考えず、諸君は他人を傷つけなければ当然自分も被害から守られている、と思っている。(出所)ツキディデス『戦史』(岩波文庫(上)、119~120ページ
そのアテネで指導的政治家の位置にあったペリクレスは、多勢に無勢の不安をもつどころか、非民主主義国家の連合体であるペロポネソス同盟について以下のように演説した。
かれらは(=スパルタ)幼くして厳格な訓練をはじめて、勇気の涵養に努めるが、われらは自由の気風に育ちながら、彼我対等の陣をかまえて危険にたじろぐことはない。・・・苛酷な訓練ではなく、自由の気風により、規律の強要によらず勇武の気質によって、われらは生命を賭する危機をも肯んずるとすれば、はやここにわれらの利点がある。・・・身の貧しさを認めることを恥とはしないが、貧困を克服する努力を怠るのを深く恥じる。そして己れの家計同様に国の計にもよく心を用い、己れの生業に熟達をはげむかたわら、国政の進むべき道に十分な判断をもつように心得る。(出所)同書、227~228頁
ここには訓練された人材集団と、自らの意志で課題に取り組んで、失敗(=貧困)を恥とはせず、努力から逃避することを恥とする人間集団とが対置されている。どうしても、小生、太平洋戦争で戦った日本軍と米軍を連想してしまうのだな。

確かに日米同盟の深化、そして(民主主義という)共通の価値観に基づいて、強固な<海洋型同盟>を締結し、その同盟に日本国が参加すれば、将来にわたって日本が発展を続けるための土台が形成されると、小生も同感する。

しかし、その海洋型同盟の共通の理念を、肝心の日本人は持っているのだろうか?「改革」という言葉を日本人は大好きだが、改革を現実にすすめるアメリカ人たちは、 "Revolution" も "Reformation" も "Restructure" も、さらには "Reborn" も "Rebirth"  も、こんな大仰な言葉を多用することなく、毎日の政治と普段の言葉でやっている。多様な理念が入り混じっていた古代ギリシア世界になぞらえると、日本人の本音とスピリットは、アテネ海上帝国よりも、むしろ守旧的な内陸国家(=ペロポネソス同盟)のメンタリティに近いのじゃあないか。そんな風に感じるのだ。

だから日本も参加する<海洋型同盟>という文字をみて<おれたちに似合うのか?>と感じた次第。

とはいえ、ペロポネソス戦争の帰結は、実はアテネ海上帝国の崩壊と民主政治の堕落と腐敗であった。これまた、今後将来、ありうる進展であって、確かに歴史は単純に繰り返すことはないが、物事の進展には絶対ということはないのだ。二度あることは三度あると言っても否定はできまい。

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