「ウクライナ戦争」にも飽きて来たのか、その残酷さに辟易として来たのか、小生には分からないがマスコミの報道ぶりも段々と沈静化してきている。
ところが、足元ではアメリカ、ヨーロッパにおいても、「ゼレンスキー離れ」、「支援疲れ」が云々されるようになっていて、この辺りの状況変化も伝えておいたほうが良いのではないか。
「飽き」が「遅れ」につながり、「遅れ」が「見当違い」をもたらし、「見当違い」が「ガラパゴス化」を招くとすれば、これまた極めて日本的な失敗の一つの型ではないかと思ったりする。
日本は(とにかく)民主主義であって世論が政治を縛る国である点には、日本人自身が意識することがカギだと達観している。
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最近のメディア報道から幾つか抜粋しておきたい:
まずロシアの原油輸出について:
商品関連データ会社ケプラーによると、ロシアは今、輸出用の原油日量約300万バレルを海路で輸送してくれる業者を必要としている。その量は、日量370万バレルだった4月に比べると減少している。……
パラマウントはスイスのジュネーブに拠点を置く、あまり知られていない商社だ。調査会社ペトロロジスティクスのデータによると、ウクライナ侵攻以降、同社の取引量は平均で日量16万3000バレルに達している。
パラマウントはオランダ人のニールス・トゥルースト氏が創業および所有している。関係者によると、同社は欧州の制裁を回避するためドバイで活動を広げており、同氏とトレーダー部門もそこを拠点にしているという。…
パラマウントのような企業に原油輸送を担ってもらうことは、プーチン氏にとって死活的に重要だ。国際エネルギー機関(IEA)によると、ロシアの国家予算に占める石油・ガス収入の割合は2021年に45%に達した。ウクライナ戦争が一因となっているエネルギー価格の高騰は、今のところロシアの国庫を潤している。
長年プーチン氏を批判する一方、かつてはロシアで多額の投資を行っていたエルミタージュ・キャピタル・マネジメントのビル・ブラウダー最高経営責任者(CEO)は「この資金の流れが続けばプーチンは延々とその座を維持できるだろうし、そうするだろう」と述べた。
URL:https://jp.wsj.com/articles/little-known-commodity-traders-help-russia-sell-oil-11653670507
Source:Wall Street Journal、2022 年 5 月 28 日 01:56 JST
Author:Anna Hirtenstein and Joe Wallace
以前に『貨幣ヴェール観』について投稿しているが、金融制裁を断固実施しても、商品は需要と供給によって取引されるものである、ということの一側面であろう。
テレビ番組では盛んに『対ロシア経済制裁は、半導体とか、かなり効いてますよね?どうですか?』とコメンテーターに『はい』という返事を強要するような空気が作られているようだが、現状は「お互い様」と言うのが正確だ。戦争によるサプライショックは、ロシアにだけ作用するわけではない。心配されている「インフレ」、「食糧危機」は旧・西側の対ロシア制裁が当然にもたらす反作用である。
次の、ヨーロッパの代替ガス確保にまつわる困難も、その一例。
ロシア産ガスの依存脱却に向けて中東や北アフリカからの代替調達を模索する欧州諸国が、ここにきて壁にぶつかっている。カタール、アルジェリア、リビアといった主要生産国との交渉が難航しているためだ。…
英独の政府関係者はカタールとの交渉が続いていると述べたが、それ以上のコメントは控えた。ドイツ電力大手ユニパーとRWEはコメントを拒否した。
なお契約を巡る溝は残るものの、タミム首長の英独訪問は、合意の実現に向けた政治的な意思があることを示していると言えそうだ。
ただ、カタールが向こう数年に新たに増強する生産能力をすべて欧州への輸出に充てても、欧州向けのロシア産ガス供給をすべて補うことはできない。
南欧諸国は、欧州向けの既存パイプラインを備えた主要生産国であるアルジェリアとリビアからのガス輸入拡大に期待を寄せていた。ただ、両国からの供給にはいずれも、著しい政治リスクを伴う。
スペインはロシアのウクライナ侵攻前から、モロッコを通過して地中海を横断するパイプライン経由でアルジェリア産天然ガスの調達を拡大する方向で、アルジェリアと交渉を進めていた。ところが、アルジェリアはスペインへの供給を阻止し、販売を完全に打ち切る構えを見せている。モロッコが主張する西サハラの領有権をスペインが認めたことに反発したためだ。
URL: https://jp.wsj.com/articles/europes-quest-for-alternatives-to-russian-gas-hits-obstacles-in-middle-east-11653606125
Source:WSJ、2022 年 5 月 27 日 08:02 JST
Author:Benoit Faucon in London and Summer Said in Dubai
何だか「あちらを立てれば、こちらが立たず」。「貧すれば鈍す」。泥の中をヨロヨロと進軍している苦戦に見えて仕方がない。こんな状況で士気を保つには「〇〇のため」という大義名分が大事だ。本当に大義名分があると欧州諸国は心の底から思っているのだろうか?
3番目は既に知れ渡っているが、キッシンジャー元・米国務長官と著名な投資家ソロス氏が今年のダボス会議で行った議論だ:
ヘンリー・キッシンジャー氏はオンラインで会議に参加。ロシアを打ち負かしたり排除したりしないよう促すとともに、ウクライナに対しては戦争を終結させるために2014年の領土喪失を受け入れるよう求めた。数時間後、91歳のジョージ・ソロス氏が登壇し、ウラジーミル・プーチン氏のロシアとの戦争における勝利は「文明を救う」ために必要だと主張。西側諸国に対して、ウクライナが勝利するために必要なものは全て提供するよう訴えた。
URL: https://jp.wsj.com/articles/kissinger-vs-soros-on-russia-and-ukraine-11653542905
Source:WSJ、2022 年 5 月 26 日 14:43 JST
Author:Walter Russell Mead
キッシンジャー氏の発言、米政府とまったく無関係なのか、憶測をよんでいるらしい。ウクライナのゼ大統領は当然ながらキッシンジャー見解に反発している。
次は、戦後のウクライナ復興に向けたコスト負担について。
ウクライナのゼレンスキー大統領は5月下旬、世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)で、オンライン演説を通じて西側諸国に切実な願いを訴えた。推定5000億ドル(約63兆円)に上るウクライナ復興費用をまかなうためにロシアの中央銀行とオリガルヒ(新興財閥)の資産を没収して使えるようにしてほしいと語りかけたのだ。
…これに同調する政治の声は高まりそうだ。しかし、こうした公のアピールが実は、ダボスを訪れた欧米諸国やその同盟国の実業界、金融界エリート層の多くにとってひそかな悩みの種となっている。
理由はウクライナの窮状に同情していないからではない。戦後の復興費が莫大になることを認識できないからでもない。問題は、デュープロセス(法に基づく適正手続き)を欠いていることだ。
URL: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB3037C0Q2A530C2000000/?unlock=1
Source:日本経済新聞、2022年6月1日 0:00
Author:ジリアン・テット
Original:2022年5月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙
旧・西側が共有する価値の中に《法治主義(=法の支配)》がある。政治的に望ましいからといって、それだけの理由から財産権を侵害できる、とはならないだろう。
英紙The Telegraphの"Six lessons the Ukraine conflict"も展望記事としては秀逸。
最後に引用したいのは、The New York Timesから
The United States is an embattled global hegemon facing threats more significant than Russia. We are also an internally divided country led by an unpopular president whose majorities may be poised for political collapse. So if Kyiv and Moscow are headed for a multiyear or even multi-decade frozen conflict, we will need to push Ukraine toward its most realistic rather than its most ambitious military strategy. And just as urgently, we will need to shift some of the burden of supporting Kyiv from our own budget to our European allies.
URL: https://www.nytimes.com/2022/06/04/opinion/ukraine-russia-putin-war.html
Source:NYT、June 4, 2022, 2:30 p.m. ET
Author:ROSS DOUTHAT
ロシアだけが脅威なのではない。ヨーロッパの危機はヨーロッパがまずマネージしてほしいという発想に近い。どこか「疲れてきましたネエ」と声がかかりそうな状況が伝わってくる。
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マア、こんな風に情勢は変化してきているのは間違いないようだ。
先日は、日本国内のとあるサイトで
中国が行動を起こして、ロシア、ウクライナの両当事国、それに一部欧州諸国(独仏だろう)が同調、勝手に停戦、平和条約交渉に入ると発表するのではないか、と。
こんな見通しを目にしたことがある―URLを保存しなかったのが小生の手落ちだ。
アメリカ、イギリスは梯子を外されるが、既に十分なほど利益を得ているから文句はないはずだ。独仏は一安心。ロシア、ウクライナもホンネは停戦を喜ぶはずだ。中国は外交的に一人勝ちできる。今後のロシア再建でも汗をかきそうだが、それは中国の海外投資先を非効率的な分野に振り向ける結果になるので米英もウェルカムだろう。日本は・・・梯子を外されるのは米英と共通だが、中国一国に頼るのを避けたいロシアにとって日本の助力は有難いはずである、と。
マ、本筋かどうかはともかく、知的な意味で『面白い』と思った。この種の意見(?)を『世界が真剣に取り組んでいるときに余計な事を言うな』と押さえつけるとすれば、いわゆる<事なかれ主義>というヤツの典型になる。大体、「世界が・・・」などと言うのは、子供が「みんな・・・してるヨ」と言うのと同じであるのだが、そう言えば、江戸時代を舞台にした時代劇では
そのほう、根拠なき世迷言を言い広め、無知の輩を惑わせし罪、重々不届き!
よって「▲▲島遠島」とする
とか何とか、そんな台詞であったかなあ・・・。現代日本もお上に嫌われぬよう忖度ばやりで似たようなものか・・・と。つきあいのある仲間やボスの意向を「世界」と呼んでいるわけで、レベル低いナア・・・と感じることが随分増えた。
しかし、マア、こんな意見が日本のネットに現にあるのだから、日本人の知的水準は実は劣化もしていないし、幼稚化もしていない。「最近ヘン」なのは、やはり日本の公式(?)のマスメディアといわゆる「論壇」であって、今はもうティピカルで、かつ誰もが知っていて、ポジションが明らかな意見以外の言説は、表に出すのが難しくなりつつあるようだ。
そもそも国際社会は自由な<提携ゲーム>に置かれている。既存の利益配分の枠組みを超える利得を関係国にもたらす<結託>が別にある場合、現状へのフラストレーションに耐えられず、新たな結託が実現すると考えるのがロジックである。国益とはリアルなものだと達観すれば、言葉に惑わされず未来をみる目も透明になるというものだ。
どの企業も物議をかもすことによる(短期的な)《イメージ悪化》を何より怖れるようになったのだろう。特に話芸、文筆で生計を立てている人たちはイメージが資本だ ― かつては体が資本だと言われていたのだが時代は変わった。そんなご時世で国内既存のメディア産業がもつ影響力は長期低下トレンドにあると言わざるを得ない。モノ作り産業の没落と軌を一にしているようで興味深い。
これも英語空間の総人口と比べた日本語空間の狭隘さがもたらす《日本病》の一症状かもしれない。