今回のロシア=ウクライナ戦争で米英の胸の奥に最初からあった戦略は、確かにウクライナを支援することが直接的目的ではあっただろうが、本音はこうだろうと書いたのは昨年の春先だ。要点は:
これではまるで
ロシアと仲良くしたお前たちドイツが悪い!少しは辛い目にあって反省しろ!!
東アジアの外野から観ていると、旧連合軍がこう言っているのと同じなように思えたりする。なにやら英米にドイツがシバカレテイル、こんな感覚がある。
EUを隠れ蓑にして旨い汁ばかりすすりやがって・・・
と言いたいのか、と。ホント、旧東ドイツ出身であったメルケルさんが引退すると、早速こうなってしまう。
アメリカよりはロシアの宿敵・イギリスの方が明確な戦略的意図をもっていたのだと思っているが、第2次大戦後の国際平和維持体制を無視してウクライナを侵略したロシアを制裁するのは当然として、そのロシアと親和的な姿勢を示して憚らなかったドイツをも叩く丁度よい機会である、と。一発焼きを入れてやるか、と。更には、ロシアを助けるに違いない中国も不良債権の迷路に追い込んでやるか、と。こんな思惑が英米には絶対にあったと思うネエ……、まるでイギリス人の好きなキツネ狩りだ。表立っては言えないけどネ。この目線、結構自信があったりするのだ、な。
詰まるところ、命を犠牲にしてロシア軍と戦闘を続けるウクライナ人という国民の存在が、戦略上、絶対必要な条件であったわけだ。「以て奇貨とするべし」。もしも日本の幕末の前後、外国の支援を得て倒幕勢力と最後まで闘おうとする人物が15代将軍であったら、日本国内はひどい惨状になっていたはずだ。同じ理屈である。
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果たして、そのドイツはいま(予想どおり)実に茨の道を歩んでいるようだ。
Wall Street Journalが"Germany Is Losing Its Mojo. Finding It Again Won’t Be Easy."というタイトルの記事を載せている。
例によって、Evernoteに保存する際に下線を付した箇所をそのまま並べて要約に代えよう:
Germany’s long industrial boom led to complacency about its domestic weaknesses, from an aging labor force to sclerotic services sectors and mounting bureaucracy. The country was doing better at supporting old industries such as cars, machinery and chemicals than at fostering new ones, such as digital technology. Germany’s only major software company, SAP, was founded in 1975.
Years of skimping on public investment have led to fraying infrastructure, an increasingly mediocre education system and poor high-speed internet and mobile-phone connectivity compared with other advanced economies.
Germany’s once-efficient trains have become a byword for lateness. The public administration’s continued reliance on fax machines became a national joke. Even the national soccer teams are being routinely beaten.
“We’ve kind of slept through a decade or so of challenges,” said Moritz Schularick, president of the Kiel Institute for the World Economy.
製造業大国・輸出大国ドイツは自らの成功ゆえに自らの弱点も自己満足と共にみることになったと言い切っている。高齢化、硬直的なサービス産業、はびこる官僚主義。自動車や機械など古い産業を支えた反面、デジタル分野には立ち遅れた。公共投資をケチって来たことでインフラにはガタが来ているし、教育システムもいいところはない。インターネットも遅く、繋がりにくい。もう10年程もチャレンジを避けてきた。
Complacency crept in. Service sectors, which made up the bulk of gross domestic product and jobs, were less dynamic than export-oriented manufacturers. Wage restraint sapped consumer demand. German companies saved rather than invested much of their profits.
自己満足が入り込んだ。サービス産業はGDP全体で高いシェアを占め、そこには多くの人々が従事しているが、活力を失い、賃金が抑えられ消費需要が伸び悩んだ。ドイツの企業は利益の大半をため込み投資には回さなかった……
更に、
BioNTech, a lauded biotech firm that developed the Covid-19 vaccine produced in partnership with Pfizer, recently decided to move some research and clinical-trial activities to the U.K. because of Germany’s restrictive rules on data protection.
German privacy laws made it impossible to run key studies for cancer cures, BioNTech’s co-founder Ugur Sahin said recently. German approvals processes for new treatments, which were accelerated during the pandemic, have reverted to their sluggish pace, he said.
コロナ禍を乗り越える切り札であったRNAワクチンをファイザーと共同開発したビオンテック社は地元のドイツではなく、イギリスに今後の研究拠点を置くことにした。その理由は、(個人)データ使用にドイツが課している厳しすぎる保護規制による、と。
そしてデータ活用ばかりではなく、環境配慮義務もドイツ経済の足を引っ張ると指摘されている。
One recent law required all German manufacturers to vouch for the environment, legal and ethical credentials of every component’s supplier, requiring even smaller companies to perform due diligence on many foreign firms, often based overseas, such as in China.
取引先企業が環境基準を守っているかをチェックせよと。ここまで義務付けられると、ドイツでビジネスなどは出来ませんとなるのは必至である。
これに加わるのが脱原発というドイツの「国是」であろう。
Energy costs are posing an existential challenge to sectors such as chemicals. Russia’s war on Ukraine has exposed Germany’s costly bet on Russian gas to help fill a gap left by the decision to shut down nuclear power plants.
そして最後に指摘されているのが人口減少問題と人出不足だ。
One problem Germany can’t fix quickly is demographics. A shrinking labor force has left an estimated two million jobs unfilled.
Source: Wall Street Journal
Date: Aug. 29, 2023 12:00 am ET
Author: Bojan Pancevski, Paul Hannon and William Boston
URL: https://www.wsj.com/world/europe/germany-is-losing-its-mojo-finding-it-again-wont-be-easy-c4b46761
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一読すると、トホホ……の状態になりつつあるドイツの現状が伝わって来る。しかし、この苦境は、(妬まれても仕方がないだろうが)英米の底意地の悪い国際政略があったかもしれないにせよ、ドイツが固執している政策を頑として変えないがため、自らが招いている面もあるのだ。融通無碍な方向転換が苦手なドイツ的思考の弱点だろう。
しかし、上の解説、ドイツを日本に置き換えてもそのまま当てはまりそうである。まるで症状といい、原因といい、日本経済の解説を聞くようではないか?
戦前期から今日まで日本人は不思議とドイツ文化を尊敬する傾向がある。ドイツの音楽、ドイツの文学、ドイツの哲学、ドイツの法学、ドイツの科学に始まり、エネルギー問題然り、環境問題然り、だ。しかし、何度も投稿しているが、ドイツは時々大失敗を犯す。
大正デモクラシーの土台は日本が第一次大戦でドイツではなく英米の側について勝利を得た事で築かれた。太平洋戦争の敗北は英米を捨ててドイツ、イタリアと組んだことが直接的とも言ってよいほどの敗因である。
ドイツ的思考法を評価するなら、ドイツ哲学、ドイツ文学を精読し、その思考法の長所、短所をよく理解しておくことが大事だ。「ドイツ的なるもの」と「日本的なるもの」は実は水と油ではないか。そう感じることはある。
今後おそらく、ドイツは「ドイツ病」に再罹患したと言われるのだろう。が、その症状は余りにも「日本病」と似ている。
同病相哀れむ
日本は決して「孤独」ではないのである。