Facebook株がまだ30$にもなっていない頃、僅かな金額を同社に投資した。それが今ではSNS分野では世界最大のメガ企業となり、広告業界ではGoogle(⊂ Alphabet)に次ぐポジションを占めるまでに成長した。
そのFacebookが近年立て続けにトラブルに見舞われ、政府からはもう何年も目を付けられている。同社が、めっきりと衰えの目立つアメリカ経済を最近10年間余りの長きにわたって"Innovatioin Center"として支えてきたことを思うと、いかに米政府と言えども、そうやたらにFBを「おとりつぶし」にしたり、会社の活力を奪うような「規制強化」、「強制分割」などに打って出られるはずはない。米政府がそんな愚行に出れば、喜ぶのはライバルの中国・北京政府であろう。
確かにFacebookやその他のSNSの世界は、"fake news"や"misinformation"があふれかえっており、人格攻撃、中傷などヘイト行為の温床にもなっている。しかし、それは現実の世界が流言飛語、デマ、フェイクニュース、非難中傷に満ち満ちているからであって、フェースブックがそうした悪意のある世界を創り出しているわけではない。寧ろ「悪貨」が「良貨」を駆逐するという名句のとおり、悪質な投稿が良心的な投稿を「不可視化」していると考えれば、SNS企業の側が被害者であると言ってもよい。SNSは、現実の世界を《視える化》しているわけである。米政府やマスメディアがいくら同社をたたいても、現実の世界がそれで改善されるわけではない。それに、(批判している人の目には不十分かもしれないが)Facebookは悪質な投稿を検知するために多大のカネとヒトを投入して努力している(ようだ)。この努力の規模は半端ではない(ようだ)。悪意のあるコメントがあふれかえる日本のYahooやその他のSNSをみるにつけ、「日本のネット企業はフェースブックの爪の垢でも煎じて飲むべきじゃあないか」と感じたりすることも多いのだ、な。
いま特にFacebookに厳しい報道をしているのはWall Street Journalである。反フェースブックの論陣をはるその調査報道ぶりは世界のマスメディアの中でも急先鋒である。他方、いつもなら人格攻撃や人権侵害には厳しいThe New York Timesは、今日の報道をみても、比較的冷静であり、穏やかである。
社名をFacebookからMetaに変更し、12月からはNY株式市場で使うティッカー名もFBからMVRSに変更するとの発表に対して、今日のNYTは次のように報じている。炎上中のトラブルやCEO・Zuckerbergのワンマン体制が継続される点を指摘しながらも、結局、以下のように締めくくっている。
Even so, Mr. Zuckerberg on Thursday talked up the idea as “the successor to the mobile internet” and said mobile devices would no longer be the focal points. The building blocks for the metaverse were also already available, he said. In a demonstration, he showed a digital avatar of himself that transported to different digital worlds while talking to friends and family, no matter where they were on the planet.
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Success will depend partly on attracting others to create new apps and programs that work in the metaverse. As with the mobile app economy, users are more likely to join new computing ecosystems if there are programs and software for them to use.
As a result, Mr. Zuckerberg said he would continue offering low-cost or free services to developers and invest in attracting more developers through creator funds and other capital injections. Among other things, Facebook has earmarked $150 million for developers who create new kinds of immersive learning apps and programs.
“We are fully committed to this,” he said. “It is the next chapter of our work.”
URL: https://www.nytimes.com/2021/10/28/technology/facebook-meta-name-change.html
Source: The New York Times, Oct. 28, 2021
Updated 10:55 p.m. ET
明らかにWSJとNYTは観点が違う。
思うに、Wall Street Journalは共和党系である。他方、The New York Timesは民主党系である。Facebookはトランプ前大統領のアカウントを停止した。ト氏は共和党内に隠然たる影響力を今なお持っていると伝えられる。そもそもFB本社のあるカリフォルニア州メンローパークはシリコンバレーにあり、ここは多様化に高い価値を認める民主党の強固な地盤である。これまたありうる見方である。
マイクロソフトも1990年代から2000年代初めにかけて連邦政府からは仇敵のように見られていたものだ。後には訴訟の泥沼に引き込まれた。まるでアメリカ国家に危害を加えているかのような論調がマスメディアにはあふれていた。小生は、90年代前半まではAppleを、後半にWindows機を併用し始め、2000年代になってからはAppleを見限ったのだが、その頃、スマートなMac、ダサいWindowsというイメージが定着していた世相をみるにつけ、人気と中身がこれほど離れるものかネエと、呆れかえっていたものだ。結局、マイクロソフトという企業はいかなる損害をアメリカ社会にもたらしたというのだろう? やはりマイクロソフトは巨大になりすぎていたのだろう。そういえば、Microsoft登場前の覇者IBM、自動車業界の支配者GMなど、その市場支配力がどれほどアメリカ社会で警戒されたことだろう。時代は遡るが石油王ロックフェラーが創り上げたスタンダード・オイルは1911年に30以上の企業に解体されてしまった — こんな「蛮勇」もアメリカが伸びゆく時代であったからこそ可能であったのだが。
つまり
最大の企業はたたかれる
アメリカの政治とビジネスが向き合うそんな決してヤワではない、互いの緊張関係が何となく伝わって来るではないか。
本当はこうでないといけない。
時に不合理に見えるが、アメリカにおけるこの辺の政と財との緊張関係は、日本社会が見習って決して国民の損にはならない。そう考えるのだ、な。経団連や日経連、同友会、商工会議所とは、与党ばかりじゃなく、政権をとりたいと考える野党も仲良くしたがる、そんな政と財との甘々な関係がかえって変化する経済環境への適応力を弱め、国力の衰退につながっていく一因として働く可能性は、よく考えなければならない点である。
【10月30日加筆】
30日付けのWall Street Journal(日本語版)で、Facebookの新社名が"Meta Platforms"となることが分かった。単なる"Meta"ではない。軽率、軽率。
URL: https://jp.wsj.com/articles/mark-zuckerbergs-latest-pivot-is-personal-as-well-as-strategic-11635531916
WSJにしては"Metaverse"を主戦場に選んだ同社の新戦略を理解しているように思える。いずれにせよ、SNSの現状とSNS企業とは峻別した方がよい。SNSビジネス分野については、少々の寡占は大らかに受け入れ、寧ろ寡占企業の資金が新技術の実現に有効に活用されているかどうかに着目するべき時代だと(小生は)思っている。交通事故がにわかに急増したからと言って、自動車メーカーの活力を奪ってしまえば、正義感は満たされるが、チャンスも捨て去ることになったろう。とはいえ、死亡事故の抑制に向けて自動車企業が採れる方策があれば、その方策に誠実に取り組むことが重要だ。SNSに現れている今の問題も同様だ。