一週間前の投稿ではこんな書き方をした。
暴落率はともかく、低落基調の継続という面では、有名な1929年10月24日の「暗黒の木曜日」を契機とした<世界大恐慌>以来の株価急落をいま演じているというのだから、これはもう穏やかな話しではすまない。
そして、Friedman=Schwartzの"A Monetary History of the United States"が指摘したような
FRBの政策ミスが実は《世界大恐慌》の真因であった
という認識が、経済専門家の間ではほぼ合意されていることを思うと、今またFRBが壮大な政策ミスを演じつつある可能性は決して否定できない、と。こう思われるのだ、な。
昨金曜のNY市場ではやっと下落基調が止まって一安心した雰囲気だ。日経にはこんな風に書かれている:
【ニューヨーク=斉藤雄太】27日の米株式市場でダウ工業株30種平均は6日続伸し、週間では1951ドル(6%)高と9週ぶりに上昇した。米連邦準備理事会(FRB)が過度な金融引き締めに動くとの懸念がやや後退し、それまでの株安で生じた値ごろ感に着目した買いが優勢になった。米国の景気後退懸念はくすぶり続け、株式相場が底を入れたかは見通せない。
URL: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN27EGI0X20C22A5000000/?unlock=1
Source:日本経済新聞、2022年5月28日 6:25 (2022年5月28日 6:59更新)
まだまだアメリカ経済の《景気後退懸念》がくすぶっている。先行き不安はぬぐえないというところだ。
そもそも広汎な価格上昇が「ホームメイド・インフレーション」であるかどうかは、正しく検証しなければならない。何度か投稿しているように「輸入インフレーション」は価格を国内で転嫁させることが策としては賢明だ。具体的には、同じ物価指標でもGDPデフレーターの安定を目標とし、企業間取引の指標である卸売物価指数(WPI)の上昇は受け入れる方針が今は適切だ。それに応じて、必要なマネーはアコモデイト(accomodate)するのが良い政策だ。
この点は、NYTに寄稿しているクルーグマンと(ほぼほぼ)同じ見方だ:
I realize in saying that I risk coming across as the boy who cried “no wolf.” I called inflation wrong last year. Much of current inflation reflects huge price increases in sectors strongly affected either by pandemic distortions or, lately, by Russia’s invasion of Ukraine, but at this point measures that try to exclude these exceptional factors are also running high, suggesting that the U.S. economy as a whole is overheated:
URL: https://www.nytimes.com/2022/05/27/opinion/inflation-prices-stagflation.html
Source:The New York Times, May 27, 2022
アメリカのインフレ抑制は、労働市場が過熱気味で賃金上昇が加速し、それがコストプッシュ型のホームメイド・インフレにつながるかもしれない、その可能性を摘む。これが現時点の目標である。つまり、やって来そうな<真正インフレ>を引き起こさないための金利引き上げである。仮にアメリカ国内の「ホームメイド・インフレ」に火が付けば、FRBとしては金利引き上げを強行し、スタグフレーションという犠牲を払って、物価を沈静化させるしか手段がなくなる・・・正に1970年代にアメリカが経験し、悩み抜いた経済問題になるわけだ。
しかし、今はまだそうはなっていない。クルーグマンは、この点では《楽観論》をとっている。この判断は、例えば英誌TelegraphのコラムニストPritchardも同じ見方をしている。というか、もっとFRBに対して批判的だ。
クルーグマンの判断はこうだ。
…there is no hint in the data that inflation is becoming entrenched. Consumers expect a lot of inflation in the short run, but much less in the medium term … Workers expect to see raises of only about 3 percent over the next year, barely above historical norms
そもそもインフレ心理が形成されていない、というものだ。
いわゆる「インフレ・タカ派」と称される専門家たちが警戒対象になっている。安全保障分野で<敵基地先制攻撃>を声高に叫んでいる人たちがいるが、経済政策分野でもやはり<早期警戒>を叫びまわり、所かまわず説法をする専門家というのは、人々を集めてしまうものである。
ここは元の記事をそのまま引用させて頂こう:
Monetary hawks are enraged. A few days ago the billionaire investor Bill Ackman attracted a lot of attention with a tweet declaring that markets are crashing because investors don’t believe the Fed will do its job:
While we don’t know for sure whether inflation itself is getting under control or not, Ackman’s claim that “inflation expectations are getting out of control” was clearly false given both market and survey data. But many others are echoing his furious attack on the central bank, as you can see just by searching “Fed behind the curve.”
『オオカミは来ない』とクルーグマンは言っている。一方で、『オオカミがやって来たあ!』と叫びまわっている人がいる。
おそらく
最悪の事態を考えて手を打つべきだ
と、こう言いたいのだろう。コロナ禍の中では政府にこんな説教をたれる御仁が無数にいたものだ。毎日、テレビ画面に登場したものである。毎朝、そんな説教を耳にした。いま中国で展開されている《ゼロ・コロナ政策》と同じ政策思想である。
これと同じ気持ちになって
今のうちにインフレの芽をつめ!
後手に回ったらスタグフレーションがやってきて10年は苦しむ。
言いたいことはそんなところであるに違いない。
しかし、あんまり用心しすぎると、国の経済が崩壊してしまいますゼ・・・オオカミがそんなに怖いなら、この村を捨てて別の場所に引っ越すしかないんじゃないですかい?あまり神経質になっちゃあ、出来ることも出来なくなるってモンでさあ。
いま叫んでいる<オオカミ少年>を信じるかどうか…それが問題だ。
FRBを(いま一つ)信頼できない・・・という所に、あるとすれば失敗(と今から断言はできないが)の隠れた原因があるに違いない。
話しは付け足しになるが、《最悪の状況を考えて手を打て》ですか・・・そう言えば、ずっと昔になるが、地元の自動車学校の授業でのことである。担当教員から教えられた(?)ことがある:
最も安全、かつ事故を起こさない運転の秘訣はネ、それは「そもそも運転をしない」ということ。これに尽きます。マ、私の立場でそう言うのはおかしいんだけどネ(笑)
小生、授業の進め方をめぐって同僚教員から有益な参考例を得たことはなかった(と思う)が、この自動車学校の先生の話芸には本当に感心したものである。上の例はその一コマである。しかし、今なら付け加えたい:
でもネ、自分が運転をしなくても、やっぱり交通事故に遭っちゃう確率はゼロではないですヨネ。身の安全を守るためには、そもそも自動車が通る道路は歩かない、不要不急のときは外出をしない。これに尽きます。
このセリフを付け加えるべきであったと思う (^ω^)。マ、言うなれば『犬も歩けば棒に当たる』の世界観である。確かに人類のDNAにはこんな警戒本能が埋め込まれているようだ。